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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
3章 『百獣国の祝祭』編
160/820

第158話 11歳(夏)…冬場は心を強く持て

 体重計に続く発明品第二弾はウォシュレットに決定した。


「なんという予想の斜め上!」


 夕暮れ時、這々の体で城から帰還したシアに報告したところそう言われた。

 ミーネはそのままお城にお泊まりなそうな。


「しかしなんでまたウォシュレットなんです?」

「あー、それな」


 獣人の抱える闇――、吹聴すべきことではないが、開発に携わるシアには事情くらい話すべきと、おれは事の顛末を説明する。


「そんな愉快なことがあったんですか」

「おまえあの状況にいたら絶対そんなこと言ってられなかったぞ」


 リビラの剣幕は何と言うかこう、「喰われる!」と感じさせるほどの勢いがあったのだ。


「ひとまず事情はわかりました。大変ですねぇ、獣人て」

「大変だなぁ。んじゃ、理解してもらったところでこっちで実現可能な仕組みを考えよう。とりあえず水はタンクに汲み置いて、そこから管を引っぱってくる。そしてレバーかなんかを手動で操作して水を噴射させる――、とこんな感じでどうだろう?」

「基本的な構造はそんな感じにするしかないでしょうね」

「あと……、あのウィーンって出てくる部分、ちょっとど忘れしてるから便宜上でゴルゴと呼ぶが、あれが飛びだし――」

「いやいやいや、ちょっと待ちましょうか」

「んあ?」

「いや『んあ』じゃなくてですね、さらっととんでもない名前つけないでくださいよ。あれはノズル!」

「あ。ああ、そうそう、そうだったな」

「あれをゴルゴとか呼んだのはご主人さまが初めてなんじゃないですか? まったくもう」

「とりあえずそう呼んだだけだからいいじゃねえか、べつに」

「あのですね、ウォシュレットはこっちの世界に無いものなんですよ? もしご主人さまが設計図を描いたときに、ついうっかりノズル部にゴルゴなんて書いておこうものなら、この世界ではこの先ずっとあれ、ゴルゴなんですよ!?」

「それはちょっとどうかと思うな!」

「でしょう!?」


 確かにもっともな話で、おれはちょっと反省した。


「ま、まあ、うん、そのノズルが飛びだしっぱなしだと色々とばっちいことになるだろ? だから踏ん張ったあと、いざレバーを操作するというときに出てくるようにしたいと思うんだが……」

「単純にそれようのレバーを用意しておいて、使うときに出せばいいんじゃないですか?」

「使ったあとレバーを戻してくれるかわかんねえだろ? そんな気配りができるならこんな問題になってねえと思うんだ、おれ」

「残念な説得力がある話ですね……」

「アナクロでないといけないんだが、ある程度は自動的と言うか、最も必要としている奴らがちょっとずぼらってところを考慮にいれないといけないわけだ。ただ複雑すぎると作るのに手間暇かかって値段も上がっちまうからなー……」

「じゃあノズル用のレバーにバネかなんか仕込んで、倒しっぱなしにしておかないとノズルが出たままにならないとか、どうでしょう?」

「パーツが増えるな……、それって水を供給する管を利用して、水の射出のためのレバー操作で一緒に行えないもんかな。そっちにも圧力がかかるようにして、ノズルが出るように……」

「複雑化したせいで価格が上がる場合もありますよ?」

「それもそうか」

「コストの判断はダリスさんに任せるわけですから、ひとまずバネ式と水圧式、両方考えてみます?」

「そうだな。となると……、あと考えないといけないところってなにがある?」

「ノズルの長さとか噴射の角度ですかね。この角度はメーカーによりけりですが、ウォシュレットならば43度。これならお尻を洗った水がノズルにかからないのです」

「その精度だせるかな?」

「難しいでしょうね。でも目標とする数値として設定しておけば」

「そうか、いずれその目標の精度をだすということでいいのか。リビラはとにかく使えるものをすぐに作ってくれって感じだったし」

「あと考えるところは……、あ!」


 ふと考えこんだシアがハッと声をあげる。


「ご主人さま、これってタンクに貯めただけの水なんですよね?」

「そうだが? なんか問題あるか? 一応はちゃんと密閉できるようなタンクを想定しているぞ? 瓶みたいに口が開きっぱなしで、ほっといたら謎の生態系が形成されたりはしないと思うが」


 謎の微生物やらが繁殖した水を噴射してケツを洗うなど想像するだけで震えがくる。

 下手すれば獣人族の闇がより深くなりかねない。


「いえ、そういう話じゃなくてですね、もっと単純なことです」

「うん?」

「冬場とか、心臓止まる人がでるんじゃないかと。お年寄りとか」

「あー……」


 おまえはバカか、と言いたいところではあるが気持ちはわかる。

 便座ですら保温機能のないやつだと、座ったとたんに心臓が止まりそうになるしな……、ましてケツの穴に氷点下に近い水が直撃したとなるとそれはもう新しい世界の幕開けだ。


「だが、タンクの水を適度に温め続ける装置なんてものを作りだすのは難しいぞ?」

「難しいですねぇ。無理ではないにしても」

「それこそ現代魔道具の技術を使うことになるし、となるととたんに高級品になっちまう」

「高くなるでしょうねー……」

「安上がりな方法としては、タンクの下に竈でも設置して使う前に火をおこし水を温めるといったことも可能だが……、火をおこして水が温まる前にズボンのケツが温まるはめになるんじゃないか?」

「もう使う際の心がけとして『冬場は心を強く持て!』と周知させるしかないですかね」

「家にちゃんとトイレがある家庭なら、なんとかしようもあるんだがな。冬は暖炉を使いっぱなしだから、近くにタンクを設置すればなんとかなる。ロシアの――、名前は忘れたが、一箇所でたくさん作ったお湯を送って各ご家庭の暖房にするアレ的な感じで」

「アタプレーニエですね。なるほど」


 むふ、とシアは考えこみ、しかし首を捻る。


「設置が手間ですね……」

「だなー。大がかりになっちまう。やっぱり心を強く持ってもらうしかないか? 理想は今ある便器に設置して、はい終わり、って感じなんだし……」

「設置して、はい終わり……、あ!」


 再びシアがハッとする。

 今度はなんじゃい。


「ご主人さまって一体型のウォシュレット……ってこれは商品名なので――、えーっと、一体型の温水洗浄便座しか知らないですよね?」

「あん? 他に何かあるのか?」

「温水洗浄便座の黎明期と言いますか、ご主人さまの感覚からしたら二、三十年は昔になるんですが、ノズルと便座が一体型ではない洗浄具も発売されていたんですよ。大雑把に言うと、携帯型の洗浄機あるじゃないですか、あれのボスみたいなのが」

「知らんな……」

「ですよね。まあとにかくあったんですよ。で、それは便器に設置するのではなく、温水機能付きのタンクを置いて、そこからシャワーみたいにホースで繋がっていて、先にノズルがあるってタイプなんです」

「つまり使い方は携帯型みたいに自分で狙えと?」

「そういうことです。どうでしょう、低価格、実用性、この二つに絞るならその別置きタイプにしてみるというのは」

「なるほど……、それなら買ってきて水入れて置いておけば使えるというわけか。一方の手でレバーをガコガコしながら、もう一方の手で狙い撃つ、と……」

「もっと安くするならあとは完全に携帯用をモデルにするしかないですね。ペットボトルにノズルくっつけるみたいなのを」

「ペットボトルを革袋で代用すればまあなんとかなるか。貧しい家庭向けにそれもあってもいいかもしれんが……」

「もうこのさい全部企画で出してみません? 一体型、別置き型、携帯型と。どれを商品にするか決めるのはダリスさんですし」

「そうだな。そうするか」


 そんなことを話し合い、おれとシアはせっせとウォシュレットの具体的な設計にかかった。


※ご指摘のあった一文を削除しました。

※ノズルの角度を表記するために少し文章を修正しました。

(2016/10/06)


※誤字の修正をしました。

 2017年1月26日

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/06/09


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― 新着の感想 ―
[一言] なんか、「クロコダイル・ダンディー」の一シーンを思い出しましたね(笑)
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