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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
3章 『百獣国の祝祭』編
157/820

第155話 11歳(夏)…お仕事再開

 気づけば六月。

 二週間ほど意識がないうちに季節が変わっていた。

 これから暑い季節になるなー、とぼんやり思いつつ、おれはこれからの身の振り方を考える。

 一年かける予定の冒険者になってしまったこと、確かに嬉しい誤算ではあるのだが、ちょっと唐突すぎて戸惑っているというのが本音だった。


「とりあえず……、家に帰るのは冬前くらいにするか」

「あ、ちょっと前倒しにするんですね。それまではどうするんです?」


 マグリフ爺さんに卒業を言い渡されたその夜、おれはシアとこれからのことを簡単に話し合っていた。


「とりあえず冒険の書二作目の完成を目指しつつ、一方で発明品の企画、そしてときどき冒険者の仕事をしようと思う」

「おや、冒険者の仕事もちゃんとやるんですね」

「一応、ある程度……、ランクCくらいまで上げるって予定だからな。あと、やらないとミーネがキレるだろ?」

「まあキレますね」


 あと十日ほど待てば冒険者証が発行され、正真正銘、冒険者と名乗ることが出来るようになる。

 ミーネはとにかくうきうきわくわく。

 メイド学校に戻ってからも、冒険にでる準備を整えておこうとか言いだして大はしゃぎだった。

 いったいどこに旅立つつもりなのか。

 冒険者証を受けとるまでお待ちなさい、と諭してみたが効果はなかった。

 そこでおれは一計を講じる。


「なあなあお嬢さん、家族にちゃんと報告しとかんと」

「あ! そうね! そうねそうね! じゃあ報告してくるわ!」


 そしてクェルアーク家へとすっ飛んでいった。

 未だ戻ってこないことからして、屋敷でお祝いでもしているのかもしれない。

 今夜は普通に家族とすごすのだろう。


「基本的にはこれまでとそう変わらないな。しばらく臨時教員として訓練校にも通うわけだし」


 教え始めてすぐにほったらかしというのも無責任だし、訓練校は冒険の書二作目、そのメインストーリーの舞台にもなっている。

 まだしばらく通ってその空気を感じておくことも必要だろう。


「わたしとミーネさんは午前中ぽっかり空いてしまいますね」

「おまえは助手みたいな感じで訓練校に来てもいいが……、そうなるとミーネがどうするかだな。そのあたりのことを聞いてから返品するべきだったか」

「返品て……、まあ気持ちはわかりますが」


 ミーネのテンションはとにかく高かったのだ。

 錯乱してるんじゃないだろうかと心配するくらいには高かった。

 一晩すれば落ち着くだろうか……?


    △◆▽


 落ち着かなかった。


「私は午前中はお爺さまと訓練をするわ! それで午後からメイド学校に戻ってくるから!」

「いや戻ってくるからじゃなくてな、そろそろ家で寝起きをだな」


 普段は寝ぼすけのくせに、ミーネは日の出と共にメイド学校に舞いもどってきた。

 これからのことを尋ねると、返ってきた答えは訓練をするという意外な――、しかしミーネらしいものだった。


「なんかね、いま私って強くなってるの! あ、そうそう、聞いて聞いて! これまで特訓するときお爺さまってずっと木剣で戦ってたんだけど、やっとちゃんとした剣を持ってくれるようになったのよ! すごいでしょう!?」

「それはすごいな」

「そうなの!」


 果たして何が凄いのか、実はよくわかってないがたぶん凄いのだろう。

 ここで「たいしたことねえよ」なんて言う勇気はおれには無い。


「あと今日のことだけど、訓練校で卒業の話が終わったらミリー姉さまに報告にいくわ! あ、シアも一緒に行きましょうね!」

「わたしもですか!?」

「ええ、きっと喜ぶから!」

「まあ喜ぶでしょうけども!」


 ミリー姉さんはシアを気に入っているし、特に問題ないだろう。


「わたしは無事帰ってこられるでしょうか……」


 いやそこまで警戒しなくても……。


    △◆▽


 朝食の後、おれたちは連れだって訓練校へ向かった。

 訓練校ではまず全校集会がひらかれ、おれとシアとミーネの三名が実力充分と判断され卒業することが発表された。

 入学から約二ヶ月で卒業という特例について文句をつける生徒はいなかった。生徒たちは最初こそ驚いた表情をしていたが、そのうち「ですよねー」といった納得顔に変わる。

 ただ、おれが教員を辞めてしまうことを惜しむ声はあった。


「それについてなんじゃが……、あのー、ほれ、あれじゃ、レイヴァース卿の二つ名な、あれをなかったことにすれば、まだしばらく教員を続けてくれるという話じゃ」

『…………』


 あー、なるほどー、みたいな顔で納得する生徒たち。

 文句は出ない。

 さすがに何が何でもおれをあのふざけた二つ名で呼びたいような奴はいないようだ。

 全校集会の後、おれは校長室に移動してマグリフ爺さんと臨時教員としてのこれからのことを詰めにかかる。

 ミーネとシアは特別やることがないので、冒険者になったことをミリー姉さんに報告するためにさっそく城へ出掛けていった。

 おれが行くと王様に捕まって面倒なことになるらしいから今のところ行くつもりはない。

 王様の頼みとは言え、剣なんぞ作っても名声値の足しにはならないのだ。


    △◆▽


 マグリフ爺さんと話し合いの後、おれは一人昼食をとってメイド学校へ戻った。

 これまでならおやつの用意をするところだが、おれが幼児退行している間に変化があった。

 体は子供、頭も子供、という状態のおれがおやつを用意できるわけもなく、しかしメイドたちがおやつを欲した結果、彼女たちはシアにならって自分たちでおやつを作るようになったのだ。

 現在はローテーションでおやつ係をやっているらしい。

 やればできるじゃん……。

 いや、やはりおれがおやつを用意しすぎてきっかけを潰していたのかもしれん。

 ここは反省すべきところである。

 おやつ作りにさく時間が浮いたおれは、さっそく中断していた仕事にとりかかる。


「ご主人様、もうしばらくお休みしていたほうがよろしいのでは?」


 おれが陣取る仕事机の端、用意した椅子に腰掛けているサリスが少し心配そうに言った。


「大丈夫、なんか調子がいいんだ。気分もすっきりしてるし」

「そうですか。しかし病み上がりなことには変わりありませんから、あまり無理はなさらないでくださいね」

「ん、そうだな」


 サリスは心配しているが本当に――、妙に調子がいいのだ。

 身も心もリフレッシュとか、幼児退行していたおれは何をしていたんだろう……、知りたくはねえけども。

 まず最初に冒険の書の二作目、その進捗の確認をする。

 クエストや資料は王都に来る前に泣きながら作りあげたので、あと必要なのは訓練校を舞台にしたメインシナリオである。


「あ、前作で育てたキャラクターを使う場合はAクラスなんですね」

「うん。で、引き継ぎしなかったり、今回から始める場合は二年修学の生徒ってことになる。どちらにしても、まずは訓練校生活をおくって卒業までさせないといけないんだ」


 そして冒険者になったところで本格的な依頼をこなしていき冒険者レベルとランクを上げる。

 ここが今回の胆だ。

 おれの血と汗と涙の結晶たるクエスト群を存分に楽しむといい。


「それで冒険者のランクを一定――、予定ではCなんだけど、そこまで上げたところで前作のゴブリン王に相当するイベントの開始を考えている」

「どんなイベントなんですか?」

「王種が率いるコボルトの群れから遠征訓練中の訓練校生たちを守る引率の冒険者――、という立ち位置のイベントだ」

「あー……」


 なるほど、とサリスはうなずく。


「まあ、ここで出てくるのは王種でさらに特殊個体なんて怪物じゃなくて、基本的な王種――群れを強化する普通の王種だけどな」


 おれが遭遇したコボルト王ゼクスをボスに設定しようものなら、勝てるのはマグリフ爺さんの持ちキャラであるシャーリー(レベル99)くらいのものだろう。

 このメインシナリオのラスト、コボルトとの遭遇は前作のゴブリン王の話同様に、プレイヤーのさまざまな作戦や行動を許容する強度を持たせる必要がある。危機的状況をどうやって乗り切るか、その発想を妨げるようなものであってはならないのだ。

 攻めても、守っても、逃げてもいい。

 守るべき者たちを守りきるために、思いつく最善の方法でもって攻略してもらえるようなものを作らなければ。

 ここはおれだけの発想ではなく、出来るだけたくさんの人の意見を聞いて作りあげようと考えていた。

 バートラン、ダリス、マグリフ、エドベッカといった大人たちのほかにも、訓練校の教官たち、できればラウスやメアリーからも話を聞きたいところだ。


※誤字の修正をしました。

 2017年1月26日

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2018/12/11

※さらにさらに誤字を修正しました。

 ありがとうございます。

 2019/01/21

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2020/02/03


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