第145話 11歳(春)…コボルトとの戦闘
広場へと降り立ったのは十体ほどのコボルト。
罠を警戒し、まずは適度な数で様子見といったところか?
ちょっと予想外だがまあいい。問題はない。
「征けい! シア! 皆殺しにしてやるのだ!」
「あいあいさー――、ってどういうテンションですか……」
シアがトッと屋根から飛び降りコボルトを迎え撃つ。
双子の鎌――、アプラとリヴァを抜き放ち、敵集団に接触すると同時に二体の首を刎ねた。
例え十対一だろうが並のコボルトではシアの相手にはならない。
一瞬にして仲間の首が飛んだことに動揺するコボルト。
その隙をついてシアはさらに一体を狩る。
長いスカートを翻しながら容赦なく。
三体の仲間が秒殺されたコボルトたちはシアを囲んで輪になった。
だがシアがその速さを生かして襲いかかるのであれば、輪であろうとバラけていようと大差ない。
さらに一体。
さらにもう一体。
ただ仲間が殺されていくだけの状況にゼクスが次の指示を出す。
今度は左腕を振り、そして指し示すはこの建物――、その上にいるおれとミーネだ。
二十体ほどの奴らが降り立ち、シアは無視して一気におれたちのところへと迫る。
それを――
「ヴォーパル・ウィンド!」
ミーネが魔術で狙い撃つ。
咄嗟に避けきれなかったコボルトたちが薙ぎはらわれ、血を吹きだしながら転倒。
躱した奴らは即座に散開、建物の四方八方から迫ってきた。
だが建物に取り付こうとしたところを――
「……よーし! 攻撃!」
サーカムの指示のもと、砦内にいる生徒たちが即席の槍を矢狭間から突きだして妨害する。
その攻撃でダメージを負うようなコボルトはいなかったが、勢いを削ぐことには成功した。
それでいい。
いっせいに押し寄せてこさせないようにするだけでも助かる。
じれたコボルトが跳躍してくるが、そんなのは的だ。
「ヴォ――、ああもう!」
言うのが間に合わなくなっていたが、ミーネは風の斬撃でもって跳びあがったコボルトを迎撃する。
おれの方も跳ねてくるコボルトを雷撃で撃ち落とす。
ラウスとメアリーは生徒たちの妨害をぬって這い上がってきたコボルトを斬りつけて叩き落とす役だ。
「おらー、来いや犬ころ! 来てみろやーッ!」
「ラウスせんぱーい! あんまり挑発するのはどうかとーッ!」
その状況をゼクスはじっと観察していたが、そこで自らも広場へと降り立った。
罠はないと判断したからか?
それを追うように壁の上で静観していた残りのコボルトたちも半数ほどが降りてくる。
おれの顔が思わず歪む。
正念場だという緊張と、思惑通りに事が運んでいる高揚から。
ゼクスはおれたちを冒険者と思い込んでいる。
ならばここは交戦のための砦だとでも考えているのだろう。
それでいい。
この建物には伏兵が潜んでいる――、そんなことを考えてくれていたらとてもありがたい。
でも実際は、この中にいるのは奴らが気づくことの出来なかったおれたちの弱点だ。
奴らはおれたちが狩人だと思っているからこそ、こうして戦ってくれているのだ。
これが迷い込んできた子供とバレては、昼夜問わず襲い削り取るゲリラ戦へと戦いの質が変化する。
そうなっては対処しきれない。
おれたちが犠牲を出さずに切り抜けるためには、ここで奴らを倒しきる必要があった。
そしてそのためには、おれたちがただの獲物だとバレるわけにはいかなかった。
だからまず壁で姿を隠した。
シチューをばらまいて臭いを誤魔化した。
おれはどうにかしてこの状況――、この状態を作りだしたかったのだ。
そしてそれは今のところ成功している……!
「もうそろそろいいかしら!」
「もうちょっと! って、それにしても多いなボケが!」
コボルトの撃退を続けているが、総攻撃となるとさすがに多勢に無勢――落としても落としても、次から次へと飛び掛かってくる。
それを――
「ウィンド・バースト!」
ミーネはまとめて吹っ飛ばす。
ドゴンッ、ドゴンッと音がするたび、襲いかかってきた奴らはもちろん、下で密集している奴らも巻きこんで木の葉のようにまき散らす。
ちゃんと指向性を持たせられる魔術だったらしい。
よかった、でなければおれもコボルトと一緒に宙を舞っていた。
ただ――
「ちょっとミーネさんや! 衝撃でたいまつ消えちゃったけどぉ!?」
衝撃波によって砦周囲にあった結構な数が掻き消えてしまった。
ただでさえ暴れるコボルトに蹴っ飛ばされたりしてたいまつが消えていってしまっている。
あともう少しの間は照明が必要なのに!
「すぐ明かり作るから! フレイム・バイト!」
叫び、ミーネは炎の顎をコボルトたちに叩き込む。
着弾と同時、炎の顎は炸裂して周囲に炎をまき散らした。
炎上するコボルトが多数。
おかげで明るくなった。
「明かり!?」
メアリーが驚いたように声をあげる。
その発想にちょっと恐怖を覚えたらしい。
「バイト! バイト! バースト! んでもってバイト!」
ミーネはそこら中に燃えてのたうち回るコボルト照明を作り、迫る奴らはぶっ飛ばした。
「ちょっとミーネさん!? わたしがいるの忘れてません!?」
単独でコボルトを引っかき回していたシアが戻るなり怒鳴る。
身の危険を感じ、たまらず撤収してきたらしい。
「シアなら! 大丈夫だと! 思って!」
ドゴン、ドゴンと風の魔術を放ちながらミーネは言う。
「直撃したら大丈夫じゃありませんから!」
抗議しながらもシアはざっと周囲を見回す。
「ちょっと王にケンカ売ってみようと思ったんですが、見つけられませんでした。強めなのは何体か殺っときましたが」
ふむ、まだ手下で様子見か?
それにしても……、いや、まあいい。
「よし! ミーネ! そろそろいくぞ!」
「わかったわ!」
もう充分と判断し、作戦の締めくくりにかかる。
おれは大声――、建物の内部にも聞こえるよう叫ぶ。
「行ぃぃくぞぉッ! 野郎どもッ! 歯ぁ食いしばって耐えろッ!」
握りしめた両手を掲げて空を仰ぎ、ありったけの声で吼えた。
「おれにも〝濁点〟よこせやぁぁ――――ッ!」
魂の叫びと共におれの体から雷撃が放たれる。
広場すべてをカバーする全力の広範囲雷撃。
『ぎゃあああああ――――ッ!!』
ラウスとメアリー、そして建物内にいるサーカムと生徒たちは為す術なく感電。悲鳴をあげた。
広場にいるコボルトたちも当然感電。
痙攣して倒れ伏し、まだ壁の上に残っていた奴らもボトボトと内側へと落下してきた。
そしておれが雷撃を放出し続けるなか、ミーネはすかさず屋根に剣を突き立てて叫ぶ。
覚えたばかりの日本語で。
「〝大地花葬〟!」
大地が震え、平坦だった広場の至る所が隆起――高い壁が出現。
壁は砦を中心としてなだらかな弧を描き、幾重にも重なり合うようにある。
真上から見下ろせば今この場は迷宮のように見えるだろう。
照明にしていたたいまつの光も出現した壁に遮られ、おれたちは暗闇の向こうから聞こえる地がのたうつ音、そしてそれに巻きこまれるコボルトの悲鳴だけを聞いた。
広場が壁に埋め尽くされるのにかかった時間はわずか数秒。
そして壁は崩壊しながら中心に向かって倒れ始めた。
それほどの速度ではない。
だが雷撃によって麻痺しているコボルトたちは自分たちを押しつぶし、埋没させようとする壁から逃れることが出来ない。
もはや暗闇に覆われ見ることが出来ないが、もしその様子をよく観察できたなら、それは開花した花が再び蕾へと戻ろうとしているように見えることだろう。
この魔術を使うに際し、ミーネが構築したイメージは閉じてしまう花なのだ。
ミーネの大規模魔術はコボルトの群れを丸ごと飲みこみ、そして埋葬した。
※誤字の修正をしました。
2017年1月26日
※さらに誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2021/04/15
※脱字の修正をしました。
ありがとうございます。
2021/06/08




