表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
1章 『また会う日を楽しみに』編
14/820

第14話 3歳(夏)5

 リセリー母さんは魔導師だが、ローク父さんはいったいなんなのか、いまいちわからない。

 父さんは草木や動物、魚に昆虫といった自然にあるものにくわしい。そして採取や狩猟のやりかた、隠れ方、見つけ方、追跡術、罠の作り方なども。

 ここはもとの世界と違って自然がとても身近にある。

 だから父さんの授業はすごく実用的でためになるように感じた。

 父さんの教えがあれば、いきなり人のいない山中に放りだされてもなんら問題なく生活することだって不可能じゃなさそうだ。

 森を歩くのになれてきたある日、おれは父さんに冒険者としての自称職がなんなのかをきいた。


「……んー? 俺ってなんだろう?」


 父さんもわかってなかった。

 職業はなんですか、と問われ、冒険者と答える。

 しかし冒険者とはさまざまな短期労働者を総括しての言葉であるため、冒険者をなんの職業でやっているか、という話になる。つまり剣士であったり、魔法使いであったり、ということなのだが、これは証明が必要なものではないため基本的に自称である。もちろん自称職を決めなくても実力さえあれば問題ない。ただその場合、勝手に他称される。


「普通は使う武器とかで決まるようだが……父さんはとくに決めた武器を使っていたわけじゃないからなー。色々知恵を絞ってやりくりして……、そんな職ってあったか?」


 あちらの世界なら元特殊部隊の隊員とかになりそうだ。


「まあいいや。父さんは無職の冒険者ってことで」


 いやいやそいつはあんまりよくねえな!

 お馬さんとか銀の玉とかに冒険する人を連想しちゃうでしょ!?


「おまえも大きくなったら冒険者をやってみようとか思うか?」


 なにげなく父さんが聞いてきた。

 冒険者……、名前があれじゃなければ純粋にやってみたいと考えただろうな。

 でも今のおれは導名のために名声値を稼ぐことが最重要課題だ。

 たとえば冒険者で大活躍したとして、それで一億人に影響を与えることができるとはとても思えない。

 ひとつの町が魔物に襲われていたとして、それをおれが助けたとしよう。

 おれはその町に強い影響をあたえるだろうが、結局はその町に住む人々だけにとどまってしまう。それ以外の場所にいる人々にとっては、その話を知ったところで「へー」と感心する程度の話でしかない。

 ――なにっ、そんなことがあったのか、よし、おれは今晩の夕食をぬくぜ!

 なんて影響を与えるようなことはないのだ。

 ただ魔王討伐は例外になる。

 魔王が誕生し、その対策のために国が動き、軍が運用され、そのために税金が増えたり物の値段が高くなったりする。こうして世界中が影響を受けている状態のなか魔王を討滅することができれば、逆に自分は有事から日常へという形で魔王があたえただけの影響を世界におよぼしたことにできる。

 しかし現在魔王はいないし、いたとしてもおれは挑むつもりなんて毛頭ないので、これは実に詮無い話というわけだ。

 ではおれはどのように導名を目指すか。

 考えた結果、やはり発明品を広めるのが一番だと結論した。

 なにしろ良いものを開発すれば、あとは商人が勝手に広めてくれるのである。

 ただ、冒険者の活動はする気はないが、冒険者に登録はしておこうと思う。

 冒険者に配布される冒険者証が身分証や履歴書のかわりになるのだ。

 いずれおれは両親以外の人とも関わるようになるだろう。

 そのとき、おれは名乗りたくないので冒険者証を見せる!

 さすがにそれじゃ失礼な人には名乗るが、できるだけ冒険者証ですます!

 そのためにおれは冒険者証を手にいれなければならないのだ!

 というわけで――


「ちょっとやる」


 ええ、本当にちょっとだけやります。


「はは、ちょっとか。ちょっとですむかなぁ」


 父さんは楽しそうに笑う。


「おまえは母さんの魔法の話をわりと理解しているようだし、父さんの訓練も文句をいったりしないで頑張ってこなそうとしている。ここまでくれば、さすがに普通の三歳児じゃないってわかる。おまえは凄い子だ。きっと父さんなんてすぐに超えていくだろう。それにあの雷もあるからな。あれだけでも冒険者として有名になれるはずだ」


 父さんは嬉しそうによしよしとおれをなでる。


「でもそうなると……、まだ十年は先の話になるか。おしいな。おまえなら今すぐ冒険者になったとしても、雷で獲物を痺れさせる役として引く手あまただぞ?」


 ふむ、ゲームで言うところのデバッファー。

 魔法や技で敵を不利な状態にさせるようデザインされた役だな。

 いいかもしれない。身体能力が並であるおれは無理に切り込んだりせず、おとなしくこそこそしていて、隙あらば敵をビリビリさせて、あとは味方にまかせる。

 うん、いいね。特に楽そうなのがよい。


「ぼうけんしゃって、どうやってなるの?」

「ん? ああ、冒険者になるにはな、冒険者ギルドにいって試験をうける。それに合格すれば冒険者証をもらって冒険者だ。確かその方法は数えで十五歳からだった……か?」


 ほうほう、試験があるのか。

 出向いてそのまま「はい、登録完了」とはいかないようだ。

 あ、シャロ様が設立したから、そのあたりはしっかりした制度になっていて当然か。


「ただ、いきなり行って試験を受ける奴はあんまりいないな。普通はまず数えで十三歳からはいれる訓練校へいくんだ。で、そこを卒業すると冒険者になれる」


 ほほう、職業訓練校のようなものか。

 おれは興味がわいて父さんにくわしく話をしてもらう。

 訓練校は入学をした段階で冒険者に仮登録される。

 そして二年の就学期間をへて卒業。

 それをもってして本登録という手順らしい。

 訓練校の利点は冒険者に必要な技能教養を学べるところ、そして優秀であれば一年で卒業でき、十四歳で冒険者になることができるところらしい。

 訓練校の年齢制限の上限は規定では存在しないので、二十歳だろうが三十歳だろうが入学して冒険者を目指すことができるようだ。

 基本的にギルドで即試験をうける者は訓練校に通う時間的・金銭的な余裕のない者、なんらかの事情がある者とのこと。

 なるほどなるほど。

 じゃあおれは訓練校パスでそっちの即試験だな!

 入学したら同期に名前呼ばれまくりになっちまうからな!


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/18

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ