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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
2章 『王都の冒険者見習いたち』編
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第125話 11歳(春)…授業参観

 これまで訓練校の休みの日は仕事に費やしていたが、これからはメイドたちの訓練を見学することにした。

 軽く動き回れるよう家具の置かれていない広間に集まっているのはティアナ校長とメイドたち七人。

 そこに見学者のおれと、飛び入り参加をするシア、そしてなぜか参加するミーネがいる。

 訓練内容は多岐にわたるが、その中でも、基本姿勢、歩き方、笑顔と発声、この四つをティアナ校長は重視していた。


「本日はミネヴィアさんとシアさんも参加なさいます。それではまずお二人から、ご自分が思い描いた基本姿勢をとってみてください」


 訓練の最初はまず自分自身の基本姿勢の確認である。

 基本姿勢とは「やるぞ!」という自分の心が姿勢として外面に表れた一種の構えだ。

 この構えの確認を日々繰り返すのは仕事を開始するという決意を体と意識に覚えこませるためである。

 これはスポーツにおけるルーティンと同じで、自分自身を調整するための技術なのだ。


「それじゃあ私からね!」


 元気よく言って、ミーネはぴょんと広間の中央に躍りでる。

 そしてとった基本姿勢は――、足を開き、手を腰にやっての仁王立ちだった。

 満面の笑みである。

 一見適当そうに見えるが、なかなかどうして、実にミーネらしい姿勢だった。

 ミーネをよく知る者なら誰もが納得してしまうだろう。


「それではわたしも」


 と続くシアは少し体勢を斜めに、前にある右足は軽く膝を曲げつま先立ち。

 適度に腰を捻り、肘を抱えるように腕組みしつつも指先は反り返っている。

 そして顔は肩越しにふり返るように、視線は背後へと向けられていた。

 なんか雑誌のモデルっぽい……、いや、あれJOJO立ちだわ。


「うーん……」


 ふざけんなボケ、と言いたいところなのだが、あいつ無駄に容姿が整っているせいでやたらと絵になりやがる。


「ミネヴィアさんはミネヴィアさんらしいよい姿勢ですね。シアさんは……、うーん、素晴らしいのですが……、何か違うと申しますか、そういうことではないと申しますか……」


 無駄にすごいせいでティアナ校長困っちゃってるじゃねえか。


「では次にヴィルジオさん」


 ティアナ校長に指名を受け、今メイド学校で最も優秀らしいヴィルジオの姉御が姿勢をとる。


「主殿に見られていると少し緊張するな」


 ふふっと笑い、ヴィルジオは自然体に。

 両足でしっかりと立ち、軽く拳を握っている。

 顔はすこしうつむき加減。

 荒れる前の静かな水面、異変前の晴れ渡り過ぎている空、そんなイメージがおれのなかに生まれる。

 ただ立っているだけなのになんでこんな圧力を感じるんだろう?

 シアとはまた別の意味で無駄にすごい。


「いつもながらヴィルジオさんの基本姿勢は見事ですね。――次はサリスさんとリビラさん、どうぞ」


 そして次はサリスとリビラの二人が呼ばれた。


「確かに少し恥ずかしいですね」

「てれるニャー」


 二人はそんなことを言いつつ基本姿勢をとる。

 サリスはきっちりと直立し、手は下腹部のあたりに重ねておく。

 少しだけ胸を張り、なんとなく「どうぞお申し付けください」と言われているような感覚がある。

 次にリビラ。

 肩の幅に足を開き、手は腰の後ろ。

 背筋を真っ直ぐに伸ばして顔は正面。

 厳格な姿勢でありながら若干の弛み……、まるで軍隊の()()だ。

 普段のリビラからはちょっとかけ離れた印象を抱かせる立ち姿である。


「サリスさんは気持ちがそのまま表れているよい姿です。リビラさんはその姿勢の意気込みをもう少し普段の生活に反映できるようにしましょうね」


 確かにサリスはサリスらしい感じだった。

 リビラは……、「上官の命令でないかぎりニャーはこの()()を解くつもりはないニャ!」と体で表しているような気がしたので、ある意味リビラらしい姿勢なのではと思った。


「それでは次にリオさんとアエリスさん、どうぞ」


 ティアナ校長に促され、リオとアエリスが中央に出る。


「ふんす」

「変に気合いをいれないでください」


 鼻息荒かったリオは足を大きめに開き背筋を伸ばして直立。

 両手はぎゅっと握りしめて、控えめなガッツポーズをしているように。

 ミーネとはまた別の元気のよさ、意気込みが伝わってくる姿だ。

 アエリスはリオとは対照的に静かな姿勢。

 力を抜いて自然体に立ち、手は軽く握り、少し腕を広げている。

 ヴィルジオに近いがこちらは精神統一している武術家のような雰囲気だ。


「はい。リオさんは力強く、アエリスさんは凛々しく涼やかな姿ですね。では最後にティアウルさんとジェミナさん」


 リオはちょっと意気込みの空回りを心配させる姿、アエリスは納得の姿勢だった。

 そして最後にちびっ子二人となる。


「がんばるぞ!」

「ん」


 ティアウルはビシッと直立不動になる。

 ガチガチに緊張して、気をつけ、をしているような状態だ。

 ちょっと気負いすぎているらしい。

 一方のジェミナはYの字になっていた。

 誇らしげな顔で体操選手のフィニッシュポーズしている。


「ティアウルさんはちょっと緊張しているようですね。そしてジェミナさん……、その姿勢は初めて見るのですが……」

「あんちゃんが見てると思うとなー」

「ん。とくべつ」


 しょんぼりするティアウルと、やはり誇らしげなジェミナ。

 うーん、ティアウルの姿勢のぶれはおれが見学しているのも原因だろうが、自分への自信のなさも影響しているんじゃないかな。

 ジェミナは……、よくわからん。

 そんなにおれを特別扱いしてくれようとしなくてもいいのよ?


    △◆▽


 基本姿勢の確認をしたあと、次は歩き方の訓練に移る。

 これもまた基本姿勢と同じくらい大切なことだ。

 歩行は基本姿勢の次に繋がる動作であり、言わば基本姿勢の応用なのである。


「それではみなさん、順番に歩いてください」


 ティアナ校長に言われ、間隔をあけて皆が列になって歩きだす。

 ミーネは元気よく、シアは無意味なモンローウォーク。

 ヴィルジオは威風堂々、サリスはお淑やか、リビラはゆったりと、リオは軽快に、アエリスは忍ぶように静かに、ティアウルはパタパタと、ジェミナはちょこちょこと。

 歩き方だけでもその人となりというものは表れることがよくわかる光景だった。

 その後も魅力的な笑顔をだせるようになる練習、よく通る声をだすための練習を行う。

 姿勢や歩行も重要だが、笑顔や声もやはり重要な要素だ。

 この基礎訓練が終わると、次はその日に予定されている科目の訓練へと移る。

 例えばそれは姿勢や動作を支えるための体幹や体力を作るための運動であったり、さらには戦闘訓練であったりする。

 座学は語学や算術はもちろん、論理学、経済学、歴史学、音楽、法律、医学、魔導学と高度なものまで学ぶことになる。

 そして昼食をとり、午後からは各自持ち回りで家事仕事だ。

 ある意味、これが一番メイドの訓練らしいものである。

 それゆえこれは漫然と行うのではなく、主人の元で仕事をしているつもりでやらなければならない。

 炊事、洗濯、掃除、買い物。

 ただこなすだけでなく、どうやったらよりよい成果が出るかを考え、夕食後にティアナ校長も交え話し合う。

 この改善の積み重ねがメイドのマニュアルになっていくのだ。

 今日一日、メイドたちの訓練を見学して意外だったのはミーネがわりとこなせていることだった。

 おそらくクェルアーク家で働く使用人の仕事を身近で見てきているからだろう。

 では奴隷だったシアがそれなりなのは、やはり元々住んでいた家で見ていたからだろうか?

 裕福そうな家だったとは聞いているが……。

 まあシアのことはいい。

 今はメイドたちだ。

 一番優秀なのはヴィルジオで、そこからサリス、リオ、アエリス、リビラとほぼ横並びで続く。

 ちょっとリビラが意外だが、やるべき事はちゃんとやるのだ。

 それ以外のときが猫なだけで。

 そしてややまずいのがティアウルとジェミナのちびっ子コンビ。

 ドワーフたちの中で育った少女と、どうやって育ったのか自分でもよくわかってない少女。

 ある意味、この二人を立派なメイドに育て上げることこそがこの学校の目的とも言える。

 テスターとしては一番適任ということになるが……。

 ティアナ校長はこの二人だけ特別授業――、といきたいようだがメイド学校としてのシステムで底上げする方法をとっていた。

 それは優秀なメイドのメイドにさせるという方法だ。

 ティアウルはサリスに、ジェミナはヴィルジオにつき、出来るだけ身の回りの世話をさせる。

 サリスとヴィルジオは世話をしてもらうかわりに出来る範囲内で指導をする。

 このやり方はなんとなくイギリスとかの全寮制男子校にあるファッグ制度――、下級生が上級生の世話をする制度を連想する。

 ってなことをシアに言ったら――


「そこは姉妹(スール)制度でしょう!?」


 なんか怒られた。

 知らんがな。


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