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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
1章 『また会う日を楽しみに』編
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第11話 3歳(夏)2

 ひとまず屋敷に戻り、そこでレイヴァース家の家族会議が開催されることになった。

 議題はおれの強すぎる力についてだ。

 父さんはおれに秘められた力が強すぎることにびっくりして、どういうわけかおれを休ませたがった。おかげでおれは眠くもないのにベッドで横になり、両親はその傍らにしゃがみこんでおれを見守りながらの話し合いという妙な状況になっていた。


「でもどうしていきなり発現したのかしら。魔術を使えるようになるときって、確か体調を崩すといったような兆候があるものなんだけど……、本当にいきなりよね?」


 母さんが不思議そうにしていたので、おれは父さんのヒゲが痛くてイラッとしたら発現したと正直に説明した。すると父さんは痛恨の表情で崩れ落ち、母さんは笑いすぎて体勢をくずしてしまい床に転がった。

 そんな一騒動があった翌日、リセリー母さんはおれの魔導の適性について調べはじめた。

 おれに魔力をおくってみたり、占い師の水晶玉のような石にふれさせて反応をみたり、簡単な呪文を唱えさせたりと測定を試みた。

 もちろんどれも反応はかんばしくない。

 というか、もう魔導の才能ないって自分でわかっちゃってるから、真剣な表情でトライアル&エラーをくりかえす母さんを見ているとちょっともうしわけなくなる。

 でもそれを言うわけにもいかないし……。


「……ひとつ、仮説としてだけど」


 測定を終えたあと、しばらく考えこんでいた母さんはぽつりと言った。


「この子の才能はすべてあの雷に喰われていると思うの。神撃の雷なんてものをなんの儀式も触媒もなく自分の意思だけで操れる――それだけでも凄いことなのに、それが自分でも扱いきれないほどの量としてある、そんなのもう凄いを通りこしてわけがわからないわ」


 わけわからん息子ですみませぬ。

 実際はもっとわけわからん息子だったりするんです。


「調べてみて感じたのは、あの雷はぎりぎりこの子におさまっているようなものだってこと。私の魔力がほとんど送れない、逆に、自分から魔力が放出されない。少しでも魔法の才能があれば使える魔法も発動しない。容量に空きがない、放出する無駄がない、魔法を使う余裕がない。思うんだけど、あの雷、この子の魔術じゃないのかもしれない。そうではなくて、この子があの雷の器になってるんじゃないかって思うの」


 今のところ大当たりです、母さん……。

 てかなんでそんな仮説がたてられんの?

 その雷に意思があって身体をのっとってるとかは……いくらなんでも推理しませんよね?


「なあリセリー、それって、神撃の雷が宿って生まれたってことか?」

「そうよ」


 質問を肯定された父さんは顎をこすってジョーリジョーリ音をたてながらうめいた。


「俺の息子は天才どころか神子だったってことになるのか……」

「んー、さすがにそれは……、お伽話のようなものよ?」


 なんじゃい神子って。


「みこってなにー?」


 さっそく尋ねてみると、父さんはちょっと困ったような顔で答える。


「父さんも詳しく知らないんだが、神子ってのはな、すごい力を持って生まれてくる人のことでな、ゆくゆくは神さまになるんだ」


 なにそれ!?


「かみさまになるの?」

「そういう話だな。神さまの仲間入りをするそうだ。……だよな?」

「私も神子についてはあんまり……。そもそも文献がなくて、言い伝えとして伝わっていたものだから。そういえばシャーロットは神子だったんじゃないかって話があるのよ?」


 ふむ、シャロ様が神子か。

 もしシャロ様が神になっているなら、おれは寝起きと寝しなに真摯な気持ちでお祈りをするべきだろうな。うん、今日からそうしよう。


「もし神子ならあの雷に危険はないんじゃないか?」

「神子だったとしても気楽に考えていいものじゃないわ。できることなら神々から恩恵をさずかって、それで力を抑えるようにしたいくらいよ」

「おんけいー?」

「恩恵っていうのはね、神さまからのおまじないよ。色々な神さまがいて、その神さまに気にいられると恩恵をもらえることがあるの。とても光栄で幸運なことなのよ」


 我が家はみんな善神の加護がついてるんだが……どういうことだ。


「そのためには、その神さまの司っている分野で偉業を達成しなきゃなんないからなー」

「ええ、不可能ではないけれど、現実的でもないのよね……」


 ふう、と息をついて母さんは気をとりなおしたように顔をあげる。


「すごい才能であることは確かなの。でも扱いを誤れば自身を傷つける。魔法ではなく魔術、それも儀式や触媒を必要としない、完成された無詠唱型ってところがなおのこと心配ね。ちょっと癇癪おこして加減を誤ったらそれでお終いなんてことになりかねないもの」

「むえいしょー?」


 琴線にひっかかる言葉だったのですぐに尋ねる。


「無詠唱っていうのはね、思うだけで魔術を使って見せることよ。呪文を唱えたりしないってこと。ちょっと火をだしたり、風をあやつったりするようなものじゃなく、本当に魔法と遜色ないような魔術となるとなんらかの儀式がいるものなの。そういった儀式をいっさいおこなわず魔術を使うことをまとめて無詠唱って言うの。これは本当に魔術の才能を持った人だけができるすごいことなのよ。普通の、母さんみたいに魔法しか使えない人は、どんなに頑張っても最後に唱える発動句っていうのを言わないといけないから、こういうのは詠唱破棄って言うんだけど……、あー、わからないわよね」


 途中で三歳児には難しいだろうとわかったのか、母さんは自嘲するように微笑んだ。魔法や魔術のこととなると、ついうっかり説明してしまうようだ。


「無詠唱ってすごいのよ。それも神撃。あー、でもほかに魔術や魔法が使えないってのももったいないわ。もし雷が宿ってなかったら、すごい魔導師になれる素質があったかもしれないわ。私や師匠よりも、もしかしたらシャーロットに並ぶような……」


 いかん、母さんが魔導学の扉からどこかへ旅立ちそうになっている。

 それに雷が宿ってなかったら、出産した瞬間いきなりのお通夜でしたよ!


「リセリー、まずこの子の力をどうしたらいいか話してから、な? な?」


 父さんが旅立ちそうな母さんを呼びとめる。


「あらごめん。話をもどすわ。えっと、なんだったかしら?」

「簡単に使えてしまうからこそ危険って話……だったか?」

「ああそうそう、だから無詠唱でうっかり使ってしまうことがないように、なにか儀式を行ったときだけ雷を使えるよう、自分に制限をもうける訓練をするべきだと思うの」

「くんれんー?」


 そう言いながらも、なるほど、とおれは感心した。

 確かにイラッとするたびに雷をぶっぱなしているようでははた迷惑以外のなにものでもない。

 そもそもこの能力はブチ切れて発現したものだから、喜怒哀楽の怒と相性がいいのがなおさらやっかいである。ゆえに感情の起伏に〈厳霊〉が影響をうけないよう制御する力を鍛える必要性があるわけだ。

 たぶん母さんが言いたいのは、もとの世界でスポーツ選手がやるような儀式――ルーティンのようなものを構築しろってことなんだろう。明確な意思でもって、目的を達成するために決められた手順の動作をおこない、それを習慣づける、というものだ。

 野球中継をみながら、ジジイがたれながした蘊蓄である。

 まあジジイはいいとして、そんな感じの儀式を魔術制御のために身につけてはどうかと母さんは言うのだ。

 実際、この雷は持てあましてるのでこれはやるべきだろう。


「くんれん、やるー」

「よし、じゃあやりましょう。雷をちゃんと使えるようにがんばりましょうね。あ、ついでに魔術や魔法について勉強もしましょう。本当はもうすこし大きくなってからにしようと思っていたけど、そんな悠長なことは言ってられなくなっちゃったもの。でも、あなたは物覚えがすごくいいからきっと大丈夫よ。魔導学ってとっても面白いのよ?」

「リセリー、リセリー、おちつけー」


 ちょっと鼻息が荒くなりはじめた母さんを父さんがなだめる。

 魔法が使えないのは癪だが、少しくらいは魔導学について知っておくべきだろうとは思う。

 ただ母さんが教師役だとちょっと不安が……。


「いくら賢いからって、魔導学の勉強はちょっと無理じゃないか?」

「いきなり専門的な話なんてしないわよ。まずは魔術や魔法がどういうものかっていう話だけど……、最初はシャーロットの話からはじめましょうか。この子はシャーロットが大好きみたいだし」

「うん!」


 シャロ様の話は大歓迎です。


「でもそうなると、弟子をしていた師匠がいてくれたらよかったんだけど……、ここ十年くらい音沙汰ないのよねー。あなたの雷についての意見も聞きたいし、手紙を送ってみようかしら」

「ししょー? どんなひとー?」


 と尋ねてみて、ふと、おかしいと気づく。

 シャーロットといったら四百年前の人物である。

 その弟子が母さんの師匠。

 その人って何歳なの?


「師匠はね、エルフっていう種族の人なの」


 エルフ!?

 母さんの師匠エルフなのか!


「えー……るふ?」

「そうよ、昔は森人って呼ばれていたらしいわ。シャーロットがエルフって呼んでいたのが広まって、今ではみんなエルフって言うの」

「確かすごく名前が長い人なんだよな」


 父さんが相槌をうつ。


「そうそう、でもちゃんと意味があって長いのよ?」

「なまえー?」

「リーセリークォート・ディーパトラ・ナイラ・ルー」


 確かに長いな……。


「これはルーの森のナイラ地域のディーパトラ族のリーセリークォートって意味よ」


 あー、ヴィンチ村のレオナルドさん的なやつか。

 でもリーセリークォートって名前がかぶったりしないでしょうに。

 ん?


「りーせりー?」

「あら、気づいた? 母さんの名前は師匠からもらったものなの」


 名づけ親で育ての親で師匠か。

 もう完全に親だなそれ。

 シャーロットを直に知る人物、ぜひとも会ってみたい人物だ。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2022/02/22


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