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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
2章 『王都の冒険者見習いたち』編
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第104話 11歳(春)…入学試験・午後の部

 休憩時間が終わり入学試験午後の部――実技試験が開始される。

 再び訓練場へ集められた新入生たちは十列に並ばされ、その列の正面には武器を持った教官がそれぞれ待ちかまえている。

 これから新入生たちは先頭から順に教官へ突撃していくのだ。

 新入生たちは概算で二百人くらい居そうなので、教官は一人あたり二十人ほど相手にすることになる。


「もごごごん、もごごごごごご」

「うん、食べてから聞くから。とりあえず口いっぱいになっているものを飲みこもうか」


 サンドイッチを口いっぱいに頬張り、両手にもそれぞれ持っているミーネが何か話しかけてきた。

 食堂の料理が不味かったためしょげていたミーネだったが、妖精鞄からこっそりだしたサンドイッチを与えたところすぐに元気を取りもどしてもりもり食べている。

 試験が免除されているおれたちは新入生たちの集団から離れ、野営用にと持ってきた(むしろ)のような敷物を敷いて座り、のんびりサンドイッチを食べていた。


「あーむ、あむあむ」


 ミーネには劣るものの、シアもサンドイッチを堪能している。


「あむ? ご主人さまは食べないんですか?」

「おれはここにくるまで走りすぎてとても食う気にならん。食堂の料理ですら無理矢理詰めこんだようなものだったんだ」


 げんなりしながら視線を金銀から新入生たちへと移すと、貴族の坊ちゃんがこっちをすごく睨んでいることに気づいた。

 おれは視線をそっと金銀へと戻した。


「んく。ふう。えっとね、楽しそうだから、私もやってみようかなって言ったのよ」

「さいですか」


 おそらくこの試験を楽しそうと感じているのはミーネだけだ。

 遠巻きからでも新入生たちが緊張しているのがなんとなくわかる。

 新入生たちは教官に声をかけられると、ある者は勢いよく、またある者は慎重に向かっていく。

 しかし誰も共通するのは、三分くらいひたすら攻撃をさせてもらうが、最後に教官の一撃で叩き伏せられるという展開だった。

 なかには教官と何合か打ち合う者もいたが、やはり最後は叩きのめされて終わる。

 サンドイッチを食べまくって人心地ついたミーネはその様子をぼんやり眺めていたが、ふと呟く。


「んー、みんな弱いね」

「そりゃそうだろ」


 どこかのご令嬢みたいに六歳のときにすでに討伐数が把握出来なくなるまでゴブリンを討伐しているようなお子さんはまれである。


「みんな実戦どころか武器を持って訓練したことがあるかどうかも怪しいんだ。そもそもそれを学ぶためにここへ入学するんだから」


 当然、おれや金銀みたいに自分の武器を用意してきている者もほとんどいない。

 そのあたりは訓練校側もちゃんと把握しているので、訓練生に貸しだす武器が備品として用意されている。

 学校の備品に剣だの槍だの、ちょっと前世の学校と比べてしまって殺伐としたものを感じてしまう。

 まあ前世の高校でも探せばバットやら包丁やら化学薬品やらと、いろいろ物騒なものは備品として用意されてはいたが。


「そっか。それじゃあ弱いのも当たり前なのね」

「当たり前というか……、おまえを基準にしたら教官も弱くなる」

「うーん、そっかな」


 ミーネは唸りながら試験中の集団を見やる。

 もうかなりの新入生たちが撃退され、もうしばらくもしないうちに実技試験は終了しそうな様子だ。


「ねえねえ、せっかくだから一緒にあの試験やってみない?」

「おれはやめとく。いま下手に動くと食べたものが溢れだしそうだ」

「むー……、じゃあシアは? 一緒にやらない?」

「ミネヴィアお嬢さま、申し訳ございません。せっかくのお誘いですが遠慮させていただこうかと……」

「えー」


 シアにも断られてミーネはがっかり。

 ここは一肌脱ぐべきか……、おれはそう考え、こそっと手帳にメッセージを書きこんでミーネだけに見えるようにする。


「ふえ? 胸のない奴は度胸もないようだな、ってなにそ――」

「おおおぅ! やったろうじゃないですか! やったろーじゃないですかああ! そこまで挑発されちゃあもうあとは戦争ですよ!」

「え、えぇ……」


 効果覿面すぎた。

 ミーネですら若干引くほどシアが乗り気になってしまった。

 ちょっと煽りすぎたかしらん。


「む、胸をそんなに気にしてるの? そんな気にする必要はないと思うわよ? 大きくてもいいことなんてないって聞くし」


 ミーネがフォローだと……!?


「私のお母さまってすごく胸が大きくて、それでいつも苦労してるもの。肩がこるし、運動すると暴れるし、うつぶせになれないし、足もと見えないし、大変だってよく言って――」

「聞きたくないです! そんな将来わたしもそんなことになっちゃうのかしらん的な話は聞きたくないんですよ!」


 フォローかと思ったら無自覚な追撃だった。


「え、えっと……」


 なんでこんなに怒ってるんだろう、といった表情でミーネはおれに助けを求めるような視線を送ってくる。もしかしたら、相手から突っかかってこられたのは初めての経験で戸惑っているのかもしれない。

 まあせっかくシアがやる気になったんだし、一緒に試験を受けてみればいいさ。

 教官には気の毒な話になりそうだがな……。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/31


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