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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
2章 『王都の冒険者見習いたち』編
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第103話 11歳(春)…やっかみ

 そいつは周りの地味な格好をした新入生たちとは違い、なかなか良い身なりをした少年だった。

 やや癖毛の明るい茶髪に青い瞳。

 まだ子供だから幼さが目立つが、成長したらけっこうハンサムな青年になりそうな予感をさせる顔立ちである。

 もしにっこり微笑んでいればさぞ爽やかな少年なことだろう。

 しかし、今は眉間に青筋が浮き出そうなくらいキレ気味な表情をしているので台無しである。

 そんな将来ハンサムは後ろに二人の少年を従えている。

 赤毛で身長小さめの少年と、この年代にしては大柄でふくよかな少年だ。その二人も他の新入生たちに比べたら小綺麗な服装で、少し裕福な家に生まれた者であることがなんとなく推測できた。


『…………』


 将来ハンサムの声が無駄に大きかったため、騒がしかった食堂内が静まり、いっせいに注目が集まってしまった。

 悪目立ちが続くな今日は……。


「遅刻して現れたくせに女をはべらせていい身分だな」

「……!? ……ッ!」


 いい身分だと?

 バカな!

 おれはすぐにでも反論したかったが、それで将来ハンサムの誤解を解いたとしても今度は左右にいる金銀のひんしゅくを買うだけだ。

 おれは沈黙を守るしかなかった。


「と言うかお前、自分が誰と一緒にいるかわかっているのか? お前の隣にいるのはクェルアーク伯爵家のミネヴィア嬢だぞ?」


 知ってるよ?

 うんざりするほど知ってるよ?

 しかし食堂に集まった者たちは知るよしもなかったか、クェルアークの名に驚いてざわついた。

 さすがの名家である。


「まあお前の顔は見たことがないし、おそらく王都で生活できないような貧しい貴族なんだろう?」

「……?」


 一瞬言われたことの意味がよくわからなかったが、そう言えばこの国の貴族は次期当主を王都で生活させるという話を一昨年クェルアーク家に来たとき聞いたのを思い出した。

 うちは王様にそういうのを免除されてるだけで、べつに貧しいわけじゃないんだけどなー……。


「ミネヴィアさんと知り合いのようだが、その馴れ馴れしい態度は改めるべきだな。この国でクェルアーク家といったら王家でも無下にはできない名門中の名門だ。お前のような田舎貴族が親しくしていい相手ではない」


 キリッと顔を引き締めて少年は言うのだが……、どうしよう。

 この感じからして、こいつはミーネにちょっと気があって、だから一緒にいるおれが気に入らなくて絡んできたって感じじゃなかろうか。

 おれはべつに立ち去ってもいいんだが……、たぶんミーネも普通についてくるだろうし、ついてくんなって言ったら拗ねるだろうし、どうしたら丸く収まるのやら。

 ひとまずミーネに話をしてもらった方がいいか。


「……ミーネ、知り合い?」

「へ? えっと……、誰だっけ?」

「え」


 ミーネの無慈悲な発言に少年は唖然とした。

 こいつって興味ない奴の名前なんて気にしないんだよな。

 おれも初対面のとき名前なんてどうでもいい感じだったし。


「ヴュゼアですよ。ウィストーク伯爵家のヴュゼアです」

「……うーん……」


 少年――ヴュゼアの名前も顔もミーネの記憶にはないらしい。

 勇んで出てきてこの扱い……、ちょっと不憫になってきた。

 ミーネはしばらく考えこんだが、やっぱり思いだせないようでちょっと申し訳なさそうに言う。


「ごめん。覚えてない」

「そ、そうですか……」

「あとあなたは知らないみたいだけど、この子はレイヴァース男爵家の子息よ。田舎貴族なのは確かだけど、べつに貧しくないわ」

「……へ? レ、レイヴァースって……、あの?」


 ヴュゼアの顔から表情が抜け落ち、こっちを静観していた周りの者たちがいっせいにどよめきだした。


「あのって言うか、レイヴァースなんてうちと一緒で世界にひとつしかないじゃない。万魔シャーロットの弟子の――、なんだっけ?」

「リーセリークォート・ディーパトラ・ナイラ・ルー」

「ながっ!? ……えっと、その名前の長い人を師匠に持つこの子のお母さんの子供よ」

「母さんの名前はリセリーな」

「そう、リセリーおばさまの息子よ」


 えっへん、と胸をはるミーネ。

 シャロ様しか名前わかんないのに無理に紹介しようとすんな。

 ぐだぐだの紹介をされたが、それでもシャロ様ゆかりのレイヴァース家というのはかなりの雷名であるらしく、周囲は騒然としてしまうし、ちょっかいかけてきたヴュゼアは凍りついている。


「……ちっ、聞いてないぞ……」


 しばらく固まっていたヴュゼアだが、これ以上ここにいても不利なだけと覚ったか、舌打ちしてさっさと立ち去っていった。


「……なんだったのかしら?」


 きょとんとしてミーネが言う。

 何の興味も湧かなかったのだろう、状況を理解しようとすらしていなかったようだ。

 絡んできたヴュゼアが少し哀れだ。


「きっと遅刻してお咎めなしなのが癪に障ったんだろ」


 シアといい、奴といい、やっかみというのは哀れなものなのだな、とおれはしみじみ思った。


※誤字の修正をしました。

 2017年1月26日


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