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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
2章 『王都の冒険者見習いたち』編
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第101話 11歳(春)…お昼休憩

 もうひとつ、もうひとつ、と爺さんにクエストをせがまれているうちに昼になっていた。

 入学試験は午前の筆記試験と面接が終わり、現在は昼休憩になっている。

 おれはジジイの魔の手を振り切り、昼食を取るべく訓練校の食堂へ向かった。

 妖精鞄にはまだ作り置きした料理が残っていたが、冒険の書製作のための一環として生徒たちと同じものを試してみようと思ったのだ。

 おれが金銀と連れだって食堂に到着すると、すでに試験を終えた新入生たちでごったがえしていた。

 ひとまず午前を乗り切った安堵からか、新入生たちはそこら中で喋りまくっており食堂内はかなり賑やかな様子だった。

 自分はどこどこ出身だ、どんなことが得意だ、自己紹介やら自慢やら、あちこちとにかく騒がしい。

 そんな光景を目にしたおれは、なんとなく高校のことを思い出してちょっと懐かしい気分になった。


「ご主人さま、どしたんです?」


 おれが食堂の入り口で立ちつくしているのを不思議に思ったか、シアが声をかけてきた。


「ん? ああ、なかなか色彩豊かだと思ってな」


 おれは適当なことを答えておく。

 食堂にいる子供たちの髪や目の色は、元の世界からしたらずいぶん珍しいものが多い。

 青やら緑やら紫の髪の色とか、元の世界ではファンキーなババアくらいのものだった。


「あ、そっか、あなたってほとんど森の中で暮らしていたものね。でもどちらかと言うと、あなたの黒色の方がめずらしい色なのよ?」

「んー、そうみたいだな」


 ミーネは誤解していたが、まあそれも当然の話だ。

 でもせっかくだからちょっと魔導学の小話でもしておこう。


「こういう色ってな、親からの血が関係するんだが、髪に関しては魔素の影響もあるらしい。親和性の高い属性の色がでるんだってさ」

「そうなの?」


 ミーネがびっくりした顔になる。

 興味をひいたようだ。


「とは言え、その属性に特別長けているというわけじゃないからあんまり意味のある話じゃないけどな。赤い髪の魔道士が、他の魔法よりも火の魔法はちょっとだけ得意な気がする、ってくらいの話だ」

「へー、じゃあ私はどうなるの?」

「金色は魔素の調和……、だったと思う」

「ご主人さま、わたし、わたしは?」

「銀色は魔素を取りこみやすいって話だ」

「ほうほう、なるほど。じゃあご主人さまの黒はなんです?」

「黒は魔素そのものに親和性があるって話だな」


 どの色が一番魔道士に向くかとなれば黒らしい。

 母さんやセレスみたいに魔導の素質がないおれには意味のない話なのだが。

 そんな小話の後、おれたちは横並びで三席空いた場所を見つけて腰を下ろす。

 おれが真ん中で左右に金と銀である。

 そしたら正面や左右、同席した新入生たちが逃げた。


「……逃げなくてもいいじゃん……」


 思わず漏らす。

 そりゃあ君たちからしたら遅刻してきて校長に連行されたよくわからん奴らだけど……、逃げなくてもいいじゃん!

 なんか切なくなった。


「避けられてるみたいですね……」

「さっそく悪目立ちしたからな。まあいい、とりあえず食べるもんもらってくる。おまえらは待ってろ」

「いやそこはわたしが――」

「おまえはここにいろ」


 と、おれは金銀を残して席を立つ。

 シアの一方的なやっかみにより、二人はいまいち打ち解けられないままの状態だ。ミーネはシアの強さが気になっているようだが、シアの断固とした他人行儀によりなかなかきっかけを掴めないでいる。

 とは言え打ち解けすぎたとなると、おれの苦労が二乗されて大変なことになりそうな気がするので……、どうしたものか。

 おれは食堂で用意される食事を頼み、大きなトレイに木の器に入った野菜のスープ、そして硬そうなパンを三人前受けとる。

 提供されるメニューはどうやらこれ一種類のようだ。

 まあ価格を抑えること、そして腹を膨らませることを追求した結果なのだから仕方ない。

 違う世界――と言うか、日本から来たおれからすれば驚きだったのだが、この世界においては食事というのは腹を膨らませるためのものであって、舌を楽しませるものではないようだ。

 特にシャロ様が活躍していた時代はそれが顕著だったらしい。

 それまでおれはシャロ様がイギリス出身だから食文化が発達していないなどと、とんでもなく失礼なことを考えていたが、おそらく発展に着手しなかったのではなく、できなかったのだ。

 美味しい不味いなどは二の次で、まずは腹が膨れることがなにより重要なことだったはず。そして現在になってようやくごく一部、貴族だけの楽しみだったような美味しい料理という存在が一般にも広まり始めたというわけだ。

 そこでおれは元の世界の料理をこちらの世界用にアレンジした料理本を出版しようかと計画している。

 子供でも作れるほどに――向こうの世界で言うならサルでもわかる、という感じの丁寧な図解入り料理本だ。

 生きるために不可欠な食事という習慣に食い込むことは名声値を得るのには有効だと思う。

 しかしそれはある程度ここでの生活に慣れてからだ。


「おいしくない……」


 席に戻り、なぜか睨めっこしていたシアとミーネに食事を配る。

 待ちかねたとばかりにさっそく木のスプーンでスープを口に運んだミーネの顔から笑顔が消えた。

 それでもさらにもう一口食べてみるミーネ。


「やっぱりおいしくない……」


 そしてミーネはしょげた。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2020/02/23


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