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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
2章 『王都の冒険者見習いたち』編
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第99話 11歳(春)…金と銀

「ごめんちょっとどいて! どーいーてぇ―――ッ!」


 こらこらお嬢さん、真面目に校長の話を聞いている子たちをかき分けてくるんじゃありません。みんなぽかんとしてしまってるし、教員は唖然としてるし、あー、爺さんは半笑いだ。


「元気なお嬢さんですねー」

「無駄に元気なんだよ」


 戸惑う子供たちをかき分け、そしてお嬢さん――、ミーネは姿を現すとすぐにこっちへ突っこんできた。

 入学試験だってのに一昨年おれが仕立ててやった服を着ている。

 ただでさえ目立つ外見をしているのに服のせいでより際立っていた。


「もう! もう! 来るのが遅いわ! ずっと待ってたのに!」

「色々あったんだよ……」


 ミーネはたいへんご立腹だった。

 二年ぶりの再会。ミーネはずいぶんと女の子っぽくなっている。勝ち気でおてんばな感じは相変わらずだが、どことなく女の子らしい雰囲気が生まれていた。背が高くなり、そしてわかりやすく胸が大きくなって……、まあ成長期なんだろうな。それでも仕立ててやった服は違和感なくぴったりだ。ちゃんと服の方も成長しているようである。


「色々って?」

「それは後から話すよ」

「じゃあ、あとでじっくり聞かせてもらうわ。それで――」


 とミーネはシアに視線を移す。


「この子があなたのところのメイドなのね。……えっと、名前はなんだっけ? サリスに聞いたんだけど……」


 こいつに直接シアのことを話したことはない。

 どうやらサリス――、チャップマン家経由で伝わっていたらしい。


「初めましてミネヴィアお嬢さま。シアと申します。レイヴァース家の養女として迎えられて以後、ご主人さまのメイドを務めております」


 シアはスカートをつまみあげてカーテシーをしてみせる。

 この仕草に限っては、おれはシアになにも文句をつけることができない――、はずなのだが、今日はちょっと気になった。

 相変わらず優雅で美しい仕草なのだが、やや硬いというか……、なんだろう?

 まさかミーネに緊張しているとか?

 んなバカな。


「そうそう、シアだったわ。私はミーネよ。よろしくね」

「こちらこそよろしくお願いいたします」

「……むー、なんか硬い」


 いきなりミーネが不平を漏らす。

 対応としてはべつにシアは間違ってないと思うが……、どちらかといえば格上の貴族のご令嬢に対して超適当に対応しているおれの方が問題だろう。

 でもミーネだしな。


「あれだ、お嬢さまはもっと適当な態度をお望みだ。普通にしとけ」

「そういうわけにはまいりません。ミネヴィアお嬢さまはかのクェルアーク伯爵家のご令嬢です。それにわたしが至らぬとなればご主人さまにまで迷惑が――」

「下剤飲み干した奴がなに言ってんの?」

「ぐふっ。そ――、記憶にございません」


 いきなり伝家の宝刀抜いて誤魔化しやがった。

 よくわからんがミーネに対してはこの態度で臨むつもりらしい。

 ミーネに気に入らないところがあったのか?


「そう言えばシアってあなたが一昨年こっちに来たときにはもういたんでしょ? なんで教えてくれなかったの?」

「使用人が増えたからっておまえわざわざ報告するか?」

「そう言われると確かにそうだけど……」

「ご主人さまー、忘れてるかもしれませんが、わたしも一応はあなたの妹ですよー、セレスちゃんのお姉ちゃんなんですよー」

「あ、そうそう! 妹が生まれたのよね! どんな子!?」

「どんな子と聞かれてもな、髪とか目の色とか、そういうのも含めて母さん似だな」

「そっかー、会いたいなー」


 会わせたくないなー。

 弟をいきなり攫っていこうとした奴には会わせたくないなー。

 セレスのことを聞いてミーネはにこにこと笑顔になる。

 一方シアは表情が硬い。そして渋い。

 なにがそんなに気に入らないのだろうと思っていたら――


「……なんですかあの胸は……!? わたしとひとつ違いなのにあのボリュームはどこからわいてきたんですか……、なんでも出来ちゃう証拠ってわけですか、ああそうですかそうですか……!」


 シアの心の声がだだ漏れていた。

 ミーネの肩を持つわけじゃない――、と言うか、実際のところミーネはなにも悪くない。正真正銘、ただのやっかみである。

 シアの態度が硬い理由が判明してあきれていたところ、


「あー、これこれ、積もる話があるのはわかるがの、後にしてもらえんかのう」


 演壇にいたマグリフ爺さんがじきじきに注意しに来た。

 ふと気づけば集まった入学希望の子供たちがこっちを見ている。

 おもいっきり注目を集めていた。

 それに――


「ふむ、お嬢ちゃんがシアちゃんか。ミーネちゃんとはまた違って可愛らしい子じゃのう」


 ほっほっ、と爺さんが思わず顔をほころばせるくらい二人は可愛らしいわけで、当然ながら注目を集める。

 金の髪の少女と、銀の髪の少女。

 単品でも目立つのに二人となればより目立つ。


「しかしなんでまた遅れたんじゃ? ミーネちゃんはずいぶん気を揉んでおったぞ?」


 そう言われてミーネを見やる。

 ぷいっ、とそっぽを向かれた。


「ちょっと面倒事に巻きこまれまして……、証明するための手紙もあります」


 二通の手紙を渡すとマグリフ爺さんは封蝋の印を見て眉を寄せた。


「ティギー子爵家と……、聖女!? いやおまえさん、巻きこまれたっていったい何をしてきたんじゃ? ――あ、いや、それは後にせんとな。子供たちを待たせっぱなしじゃ」


 手紙を受けとったマグリフ爺さんはおれたちにしばらく待つように言い、入学試験開始の挨拶を終わらせるべく演壇に戻っていった。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/04/13


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