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虚偽と学長と新しい名前

 眼鏡の向こうで、おっさんの眼光が鋭くなった気がする。こんなの就活の面接以来だ。バイトのほうは適当だったが、いつになっても慣れない。


「何でまた……いまいち話が見えませんが」

「はい。実は俺が昔、このアカデミーに赴任する前に、北の国を放浪していた時に出会いました。戦災に遭った子供です。死にかけだったもんでたまたま俺が助けてやったのです。その後短い時間でしたが、一緒に旅をしていまして、その時色々教えました。狩りの仕方、通貨のこと、世界のこと、魔法のこと、そしてこのアカデミーのことも。俺がこのアカデミーに行くつもりだと言うと、その時にこいつは、俺も行ってみたい。いつかこのアカデミーで学びたいと言っていました。そして先日、この国にやってきたそうです。まぁ俺も知らされてなくて再会したばっかなんですが」

「ほぉ、見かけによらず行動力があるんですねぇ」

「あ、はい」


 ペラペラと嘘を並べるアドゥルスに驚いていると、おっさんは俺に注目する。何だかこのおっさん怖い。本当に面接の時みたいだ。いちいち俺に視線が来ると、嫌な汗が流れそうだ。


「しかしここは希望しただけの者がやっていけるところではありません。何か魔法で目を引くところでも?」

「はい、まだ小さな子供の時にも魔法が使えたので何か持っているのは確かかと。今それがどれくらい成長しているのか」

「なるほど。アドゥルス先生がそこまで言うのなら相当なものなんでしょう。良かったら何か見せてもらえませんか」

「え?」

「では俺が前に教えた奴を」


 ちょっと待て。いきなり魔法使えなんて言われても出来るわけねぇぞ。俺が必死にアドゥルスに進言すると、アドゥルスに口を抑え込まれてしまう。


「いいから。俺の言う通りにやれ。三秒後に指を鳴らせ」

「わ、分かったよ」

「何か?」

「いえいえ、何でも」


 こそこそ何かしてる風な俺たちが怪しいと思えただろう。俺もだ。しかしここはアドゥルスの言う通りにしてみるしかない。心の中で三秒数えて指を鳴らす。すると、パチンという音と共に弾けたのは七色の小さな花火だった。パンパンパンと破裂したのはびっくりしたが、その彩りにおぉと感嘆してしまう。


「なるほど。七色花火ですか。並の者ならせいぜい四色といったところ。魔力の消費はほとんどなく、即席の魔法ですが非常に繊細な技術力が問われる魔法ですね。全ての色を再現し、これほど優雅に見せるとはなかなか。なるほど、良い逸材を見つけましたね」


おっさんはにっこりと微笑む。そこでようやく、俺は胸を撫で下ろした。僅かに空気が緩んだ気さえした。


「まぁアドゥルス先生がわざわざ推薦するくらいですからね。本当は試験を受けてもらいますが、推薦状を受理すればいいでしょう。名前を伺っておきましょうか」

「あ、はいユウ……むぐっ」


 俺が口を開くと、アドゥルスは後ろ手で俺を差し止める。遮るように紡がれたアドゥルスの返答は酷く驚くべきものだった。


「さっきも言ったように、こいつは戦災に遭った子供で名前が分からなかったのです。なので以前俺が名付けました。えと、……ラルク。ラルク・レッド・グリーヴスです」

「……そうですか。分かりました。申し遅れましたが私の名はモーリス。モーリス・ジェルノートン。このアカデミーの学長を担っています。これからよろしく。グリーヴス君」

「え、あ、はぃ……」


 何だろう。よく分からないが、この人に違和感を覚えた。表情は柔らかいものの、何かが噛み合わないような、そんな感じがした。アドゥルス先生は必要書類だけお願いします。モーリス学長はそれだけ最後に添える。アドゥルスも了承すると、そそくさと部屋を出る形になった。


俺もアドゥルスについて出たのだが、アドゥルスは早足で歩き始めてしまう。慌てて俺も後に続く。


「さっきの、どういうことなんですか?」


名前のことだ。ユウトということだけだが、俺も自分の名はある。何故急に偽名を用いたのか。アドゥルスは顔を向けず、行く先を見据えて口を開いた。


「あぁ。悪かったな。俺も事前に確認しとくべきだったが、そのユウトとか言う名前じゃ転生者だとすぐに分かっちまう。だから名前を変える必要があったんだ。咄嗟に考えて誤魔化したが、おまえはこれからラルクと名乗れ」


そういうことか。それなら一応得心はいく。いきなり名前が変わってしまうのは妙な感じだけど、転生者だとバレて捕まったり、殺されるくらいなら断然マシだ。


「ちなみにラルク……何とかって名前。何か意味があるんですか?」

「ラルク・レッド・グリーヴスな。意味は特にねぇ。あの部屋にあった書物の作家を捩っただけだ。まぁそれだと偽名だとバレる恐れもあるからな。オリジナルも加えたから名前に関しては大丈夫だろ。俺が名付けたことは嘘ではないしな」


名前に関しては。アドゥルスの言い回しに少々の疑問を覚える。


「名前は……?」

「北の国云々は本当のことだ。戦災もそうだし。俺も行ったことがある。けど問題は七色花火だな。さすがに怪しまれたかもしれねぇ」

「え、でも、あっさりこの学校に入れるんじゃ?」

「まぁ、入るのはな」

 

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