6:転生と魔法と闇の教団Ⅵ
ソニアちゃんが叫ぶ。お父さんがいたのか。一体何処に。目を凝らしてみるが俺には見つけられなかった。
「何だあの村の奴がいたのか」
「……そのクリスタルは何?」
ルキナが問う。見習って俺も奥にある結晶に目を向ける。かなりの大きさでいくつも乱雑に積み上げられていた。よくよく見てみると、クリスタルの中に人間がいたのだ。
まさか、あのクリスタル全部に人間が閉じ込められているのか。
「人間を閉じ込めるクリスタルだ」
「……正直に言いなさい。あのクリスタルの中にいる人たちからは魔力を全く感じない。ただ閉じ込めているだけのものではないでしょ」
男の返答にリーゼが鋭く否定した。俺にその違いが分かるはずもないが、フードを着た男が肩を震わながら笑いをかみ殺していたのは分かった。
「クックック、いや~、あっさりバレてるじゃねぇか」
「バカか。少しは誤魔化せ」
リーゼの指摘が真実だと分かったところで、真ん中の女が語る。
「ま、ここまで来れた褒美に教えてやってもいいか。このクリスタルは魔力を抽出して増幅するものだ。ちょっと訳ありで魔力が必要になったから借りさせてもらってるってわけだ」
用が済んだら解放するさと付け加えた。女は悪びれもなく言いのける。それが当然であるかのように。だが、女の言葉に呑み込まれかけたところ、切り返したのはルキナだった。
「バカ言わないで。聞いたことがある。魔力を抽出するクリスタル。別名ロストブレイン。囚われた
人間は魔力を奪われるだけでじゃない。同時に生命力も時間も何もかもを奪われる。まさに禁忌の結晶のはず」
「ほぅ、若いのに博識だな」
男が感心する。褒められたうちに入らない言葉を無視してルキナは続けた。
「ほとんど牢獄と同じ、いやそれより酷い所業だ」
「人聞きの悪いことは言わないで。言ったでしょ。魔力が必要になったから借りさせてもらってるだけよ」
「それで、一体何日拘束したの?」
「さぁ。一週間だったか一月だったか。いちいち記憶にないな」
そんな長い時間ずっとあのままだったってことかよ。
「そんな……」
「殺す気かってきいてんのよ!」
ショックを受けるソニアちゃんの横で、リーゼが激昂する。ルキナも思いは同じだ。怒りの表情を露わにしている。そしてそれは、俺も同じだ。
「殺す気はないが、死んだら死んだでそれだけのことでしょ」
「問答はもういいだろう。お前たちは助けたい。俺たちは止める気はない。利害が一致せず、意見がぶつかるならやることは一つだ」
男がそう言ってフードを脱ぎ捨てる。その瞬間、フードが抑え込んでいたかのように男から言葉にできない強烈なプレッシャーを感じた。
「久し振りの戦闘だ」
男は筋肉質でガタイの良い男だった。刈り上げたような金髪と灰色の眼。黒いジャンバーを羽織ってはいるが、シャツは何も着ていないため、隆々とした胸筋を見せつける。チャンピオンベルトのような大きな赤いベルトに白いズボン。よくフードに収まっていたと思える。
「ったく、これだから戦闘狂は……」
と同時に残り二人もフードを捨てた。
もう一人の男は、蒼い髪に褐色肌。銀のコートの内からは蒼いシャツが覗いている。黒いズボンに銀のブーツと随分ゴテゴテした格好をしている。
「まぁ見られたからには生かして帰す気はないけどね」
女は思ったよりも小柄だった。肩にかからないかくらいの薄い翠色の髪を揺らめかせる。グレーのシャツからさらに黒いシャツを羽織り、黒いスカートと黒を基調としていた。白い肌が際立つ。それ以上に、羽織ののシャツをも押しのけようとするくらいの巨乳がけしからん。小柄な身長も相まってまさにロリ巨乳ここといえよう。
ただ雰囲気は明らかに敵だ。女からも鋭いプレッシャーを感じる。いや、思い違いがなければ一番強いんじゃないか。
「さて、誰と遊ぼうか。ちっちゃい嬢ちゃんじは除くとして、三人か。よ~し、決めたっ!」
男が動く。あまりに速い初動。獣のようなスピードに目が追いつかない。気付いた時には俺の目の前にいた。
「なっ……」
「行くぜ。簡単に死んでくれるなよっ……ッッ!?」
男が構える。腕を上げたモーションを取った瞬間、横から爆炎に襲われて吹き飛んでしまう。
「リーゼ……!」
助かった。あのままだったら完全にやられていた。
「ボケッとしない。さっさと頭を戦闘に切り替えて」
「あぁ……」
リーゼが言うことも尤もだ。だが、俺には魔法が使えないんだ。今までとは違う。敵も三人なんだ。おまけにソニアちゃんもいるんだ。俺はどうすればいい。
「やるなぁ……ピンク髪。驚いたぜ」
吹き飛んで崩れた岩盤から男は悠々と這い上がる。ほとんどダメージを感じさせない。
「ラルク君! 君はソニアちゃんと逃げて」
「わ、分かった。ソニアちゃん」
「で、でも……お父さんが……」
「ここにいたのは分かったんだ。あとで必ず助けに来る。だけど今は生き残ることを考えるんだ!」
「……ぅん」
もっと気の利いた言葉が出ないのかと自責するがそうもいかない。自分自身、まずは足手まといにならないことが先決だ。今の俺には出来ることはそれだけしかないんだから。
「そううまくいくと思うな」
すぐ背後に寒気を感じた頃はもう遅い。ソニアちゃんの手を引き駆け出したときに感じた悪寒は、決して気のせいではなかった。
「そっちがね」
「ち……」
背後に迫る蒼髪の男に向けてルキナが制していた。男が持つ剣に対して、しっかりと撃鉄の雷光剣で切り結ぶ。
「ルキナ、助かった」
「お礼はいいから。こいつら正直やばい。リーゼと私で一旦足止めするから。早く今のうちに」
「わ、分かってる」
蒼髪の男とも距離は空いた。ルキナの言う通りに駆け出すが、あと一歩のところで何かに遮られてしまった。
「ぐお……いっ……て~、何だいったい」
何かにぶつかって倒れたのは間違いない。が、すぐに起き上がった後でも何にぶつかったのかは分からない。
「何してんのよ!」
「いや、何か壁が……」
事態が読めない。その時、後ろにいる翠髪の女が絶望を叩きつけるように宣告する。
「言ったはずよ。生かして帰す気はないってね」




