6:転生と魔法と闇の教団Ⅳ
吹き飛ばされたルキナが、埃を払いながら立ち上がる。大きな怪我をした様子はなく、まだまだ余裕とばかりに剣を構える。
「だ、大丈夫か」
心配する俺に向かってルキナが答える。
「大丈夫だけど。ちょっと痛かったかな」
少々お怒りになったルキナ様。魔力が膨れ上がったわけでもないのに、妙な迫力を見せるルキナ様に俺はごくっと唾を飲んでしまう。
「とりあえず、まずはリーゼの剣を取り戻すから、ちゃんと受け取ってよ」
「そうね。任せたわ」
剣を持たないリーゼはやはり後援を担うようだ。ルキナが爆発的に飛び出す。向かう先は両斧を持った化け物だ。
先程は吹き飛ばされてしまったが、魔力によるものか。ルキナの元々有する力のためか。何とまともに打ち合いを仕掛けた。
「グルアアアァァ」
宙を舞い、強大な敵に果敢に立ち向かう。剣には雷の魔力を纏い、剣の刃が閃光を放つ。怒涛の攻めは恐ろしくも頼もしくもあった。
手数は二刀であるフェンルガンに分があると思う。けど、ルキナにそんな不利さは感じさせない。まともなパワーでは負けるかもしれないが、圧倒的なスピードを以て制圧する。フェルンガンに打たせない。何もさせない。ルキナは攻撃する側として君臨し続けた。
「ルキナ、下がって」
「っ……」
優勢に見えたところ、リーゼがルキナに下がれと指示を下す。珍しく緊迫した声色だった。それ故か、ルキナは脱兎のごとく抜け出す。
「な、何でだ」
俺の漏れた疑問に構うことなく、リーゼがルキナとフェンルガンを引きはがすように炎を撃ち出す。狼の頭に炎が掠める。飛び退くようにして化け物はルキナ同様に距離を取る。
「分からなかったの? 一見押してたけど、あいつは風の魔力を溜めこんでた。徐々にルキナの剣にも対応できるように、ルキナの剣を風でいなしてたわ。あれ以上同じ攻め方をしてたら、まず間違いなくやられてた」
「なっ……」
言われて目を凝らす。確かにフェンルガンの斧にはぼんやりと魔力の光が俺にも見える。ただの化け物ではないということが良く分かる。確かに、ペットだったベルサーガのほうがマシなのかもしれない。
一連の流れを確認している間に、フェンルガンの標的が変わる。距離を空けたルキナではなく、俺、ソニアちゃん、リーゼに向けられる。咆哮とともに、間合いを詰めてきた。
「くっ……、私がひきつける。あんたはできるだけソニアちゃんと距離を取って逃げて」
「分かってるよ」
ビビってる場合じゃない。ソニアちゃんを抱え、リーゼと反対側に散る。
「こっちよ」
リーゼが周り込む。最大火力で炎を撃ち出した。ちょうど炎の壁で俺とソニアちゃんを視界から奪っていた。フェンルガンはいまだ視界に残るリーゼへと方向を転換してくれた。と同時に、上空にいるルキナがフェンルガンの背後から剣を振り被る。
「私もいるのに。無視しないでほしいっての」
「グル……」
「ルキナ、罠よっ」
察したリーゼですら、反応は遅れていた。フェンルガンは何と、炎を向けるリーゼには一刀の斧を投擲し、背後に感知していたルキナへときびすを返す。そして、残る巨大な一刀の斧を、空中から迫るルキナへと向けた。
「……そう来ると思ってた」
そもそもサイズが違いすぎる。ルキナの全身と変わらない大きさの斧が迫る。どう考えても、リーチに差がありすぎる。すでに魔力を帯びた斧ともなると、まともに打ち合えば、ルキナの体は粉々になってしまう。が、それはルキナがただの少女で、その手にあるのがただの剣の場合である。
ルキナは魔王の娘であり、その手にあるのは撃鉄の雷光剣トルトニスである。
瞬間的に、雷の魔力を剣へと集約させる。ただ属性を纏わせただけではない。ただ強化しただけではない。
「閃光……剣!!」
剣をに纏わった雷光は最大限に具現化し、フェンルガンよりも大きな、術者であるルキナの十倍はあろうかという光り輝く刀剣へと化した。それを振り回す必要はない。ただ、具現化させただけ。それでも、刃先をフェンルガンに向けるだけで、具現化した閃光剣は、フェンルガンの体を斧ごと見事に貫いていた。
「ガ、……アアアァッ」
フェンルガンはルキナを襲った斧を落してしまう。急所を貫き、力を失ったようだ。それでも、目の前にある獲物を見る眼は揺らがない。斧を落とした右腕で、爪を携えた力なき右腕でルキナを引き裂こうと前に出る。
「往生際が悪いわよ」
一閃。
爪を向けて伸ばした右腕はリーゼの灼熱の太陽剣によって落とされる。ルキナが閃光剣がフェンルガンの腹を貫いたことにより、リーゼの剣は抜けていたようだった。
「ガ……、……アア……、ハア、アァ………」
倒れるよりも早く、フェンルガンは細く弱弱しい唸り声を上げながら消えてしまった。
「……死ん、だのか」
「死んではないよ。罠として張られた魔法が解けただけ」
「ええ。それでも、致命的なダメージだったと思うけど」
「そうか。とりあえず助かったんだな。ソニアちゃん助かったぞ。……って、うわっ意識がない」
かなり焦りまくってしまう俺。え、俺が悪いのか。こういうときどうすればいいんだ。
「大丈夫。気絶しているだけだよ」
「よっぽど怖かったんでしょうね。でもそのほうがきっと都合がいいわ」
「え、何でだよ」
気絶したほうがいい状況なんてなかなかないだろう。だが、リーゼの言葉ですぐに納得する。
「さっきも言ったでしょ。誰かが罠を張っていた。もしかしたら、この奥には何か得体の知れない誰かさんがいるのかもしれないってことよ」
この奥。フェンルガンを倒して先に進むべき道が見える。奥は細く暗い。何があるのか構造も分からない。本当に何か得体の知れない何かがいるようで、少しだけ寒気がした。




