6:転生と魔法と闇の教団Ⅲ
自分だけ逃げるわけにはいかない。かと言って、ソニアちゃんを放置することもできない。
「ソニアちゃんこっちだ」
「は、はいっ」
つないだ小さな手が震えていた。無理もない。まだ、こちらの言うことに従ってちゃんと動いてくれるだけありがたかった。
闘技場のような広場。来た道の入り口近くでリーゼとルキナを眺めるしかできない。それでも、俺には二人の邪魔をしないのが最優先だと思えた。
「グオオオォォ!」
灰色狼を模した獣人。三メートルは軽く超す化け物が、二人の女の子に牙を向けた。リーゼとルキナは即座に剣を取る。それぞれ、”灼熱の太陽剣エクスフェルド”と”撃鉄の雷光剣トニトルス”を顕現させて、フェンルガンの猛攻を凌いでいた。
「確かに速い。けど……」
リーゼが獣人の一閃を掻い潜り、間合いを詰める。
「攻撃が直線的すぎるわね」
フェンルガンの動きが一辺倒であると見切ったリーゼ。振り抜かれる猛攻を掻い潜り、その手に宿すエクスフェルドで斬り付ける。
「いっ……」
鮮やかに斬り結ぶリーゼの姿を思い浮かべるが、実際にはフェンルガンの腹部にて刃が止まってた。刃は肉の内側に入り込んでいるし、血も僅かながら流れている。けど、それ以上に刃を振り抜けない。
「なんて硬さ……」
リーゼが驚愕した。その間に、フェンルガンの拳が襲う。リーゼはあっさりと剣を手放して離脱した。剣を失うデメリットよりも本能的に回避を優先させたようだ。
筋肉隆々の腕を振り抜いたフェンルガンと、大きく距離を取るリーゼ。見れば、リーゼの太陽剣はフェンルガンに刺さったままである。それでもフェンルガンに痛覚はないのか。さして気にした様子はない。
「もぅ。何やってんの」
「う、うるさいわね」
リーゼが、雷光剣トニトルスを握るルキナから批判される。剣を失ったことはミスだと痛感しているからだろう。リーゼもいつものようにそれ以上の反論はなかった。いやそれよりも、そもそもそんな暇はなさそうだ。
腹に刺さる剣を無視して、そのままフェンルガンは突進してきた。
「私が食い止めるから。リーゼはその隙にお願い」
「任せなさい」
すぐに変動した状況を呑み込み、二人は各々の優先事項を見極める。リーゼも剣をなくしたとはいえ、近距離戦ができないわけじゃないだろう。それでも、エクスフェルドの剣を失くした状態では距離を詰めて応戦するには分が悪い。フェンルガンの攻撃をいなすのはルキナ。強力な炎魔法で後方支援することで同時に思考を回転させて状況判断した。その判断が、獣以上に早いフェンルンガンよりもさらに早い。
「きっつ……」
ルキナがフェンルガンの爪を剣でいなす。雷を纏う剣が、雷光を発する。巨体なフェンルンガンは、その雷にもひるむ様子はなかった。
「さっさと私の剣を返してもらうわ。火だるまになりなさい」
「グルオオオオォォォォ!」
ルキナ目掛けて魔獣は連撃を繰り返す。その背後、僅かな隙に一瞬で背後に回ったリーゼ。洞窟の天井付近にまで跳びあがったまま腕を上げ、人差し指を突き出す。リーゼの背後には、いくつもの火球が浮かび上がっていた。
「『紅星隕石』」
リーゼが腕を振り下ろした途端、無数の弾幕が降り落ちる。フェンルガンの背中に向けて放たれた。
「グルアアァァァア!?」
攻撃範囲としてはルキナにも及ぶが、一瞬の隙をついて宙に浮くリーゼの隣に移動していた。
「これでどう?」
激しい攻撃が降り注ぎフェンルンガンの姿は見えなくなる。ソニアちゃんを庇いながら俺も様子を探った。
土煙が晴れるとそこには、変わらず二足歩行で君臨する獣人がそこにいた。
「く……」
「けっこうタフね」
「グルアアァァァア!?」
咆哮とともに、フェンルンガンの両手には斧が握られる。リーゼやルキナと同じように斧を出現させたようだ。恐ろしく強い獣人が武器を持つ。いや、それ以上に想定外なのは、フェルンガンが魔法を使っていることだ。
「来るよ」
距離はある。フェンルンガンの間合いからは大きく外れているはずだ。なのに、フェンルンガンはその場で二刀の斧を振り回した。
「……!?」
斧の刃に合わせた風の刃が射出された。まるで、ルキナが闘技場で戦った風使いヒューイのブレードと同じように白く光る刃が風となって俺たちを襲った。
「ソニアちゃん」
「きゃっ」
何とか抱きかかえるようにして躱す。役得だがそんなことを考えている余裕はない。リーゼとルキナも見れば難なく見切っていたようだ。
「グルオオオオォォォ!?」
風の刃による攻撃した隙に、フェルンガンの動きに洗練さが増す。ルキナと同じように、一瞬姿を見失う。リーゼの目の前に現れると、すでに斧を振りかぶっている姿だった。
「なっ……」
リーゼは今武器がない。あんな大きな斧を防ぐ手段がない。
「リーゼッ!」
宙にいるリーゼを弾き飛ばし、ルキナが前に出る。雷光剣トニトルスで受け止めるものの、ルキナの力だとフェルンガンのほうが優勢だった。
「くっ!」
しばしその小さい体で耐えるが、あっさりフェンルンガンに吹き飛ばされてしまった。
「もしかしてあいつ、めっちゃ強いんじゃないのか?」
「どうやらそのようね」




