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6:転生と魔法と闇の教団Ⅱ

 リーゼから渡された炎の魔法は、俺の掌で顕現していた。松明の炎を渡されたかのように、リーゼが生み出した灯りが、俺の手の内へと移る。完全に本物の炎に違いない。だが、熱の感覚はあるのに、熱いというラインまでは届いてなかった。まるで俺自身が、初めてまともに魔法を扱っているような錯覚を覚えてしまう。


 先頭を行く羽目になった俺は、前方に危険がないか注意を払い、全神経を集中させる。同時にルガンたちが根城を捨てた理由に頭を巡らせた。


「ルガンたちはここを出て行ったんだよな」

「たぶんね。痕跡はあるけど、普通ならいつ出くわしてもおかしくないと思うし」


 俺の後ろを歩くルキナが答える。そのあとをソニアちゃん。一番後ろがリーゼである。


「でも妙じゃないか」

「何が?」とルキナ。


 隣に追いついてきたルキナに俺は訊いてみた。


「ソニアちゃんのお父さんはルガンたちをどうにかしようとしてきたんだよな?」

「そうだけど?」

「少なくとも、いまだに出くわさない。ルガンたちはもうここにはいなくて外の森を彷徨っているんじゃないか。だとしたら、何でお父さんたちは戻ってこないんだ?」

「……さぁね」


 隣を歩くルキナにこっそり腕をつねられる。ぴりっとした痛みが腕に走る。声をあげるほどではなかったが、いきなり何をするんだとルキナの顔を見る。澄ました表情を見せたあと、朱色の瞳が真っ直ぐ俺を突き刺していた。


 あぁ、俺はバカだ。


 気付かれないようにソニアちゃんを見る。リーゼと何かを話していてソニアちゃんが気に留めることはなかったようだ。最悪の想定をするなら、ルガンたちにやられてしまっている。もしくは同士討ち。お父さんがもう戻ってこない可能性も考えるなら、今そんなことを話すべきではなかった。話すなら、せめてソニアちゃんの前ではないだろう。


 俺はルキナにアイコンタクトで謝る。通じたかは分からなかったが、つねっていた指を放し、そのまま右肘で小突いてきたからたぶん伝わったはずだ。


 そのまま奥へ奥へと進む。徐々に下って行く凸凹道に悪態をつきたくなる。ようやく下り道を終えた頃、穴倉の道は大きく広がっていた。


「急に広くなったな」

「まるでダンジョンみたいね」

「ラルクくん、こっち照らして」


 暗がりの中、何かを見付けたらしいルキナの指す方へ灯りを向けた。そこには、何とルガンたちの亡骸が積まれていた。ドーム状のように開けた中で、隅に追いやられるように無残な状態だった。


「ひっ……」

「大丈夫。落ち着いて」


 悲鳴をあげるソニアちゃんをリーゼが庇う様に距離を取らせた。わざわざモンスターの死体なんか見るものじゃない。正直、肉体がちぎれてしまっているものもある。まだわずかに血の匂いも残っていた。正直慣れない俺も気分が悪くなる光景だった。


「これは……何だと思う」

「討伐したってことかな」

「にしても……」


 討伐。それも村を荒らすモンスターをどうにかする対策だとは思う。が、俺でも分かる。この惨状はあまりにも惨い。ソニアちゃんのお父さんたちの仕業だと思いたくなかった。


「考えても仕方ないわね。まだ先はあるようだし、進むしか……っ」

「リーゼ……?」


 不自然にリーゼが言葉を切る。いや、口を噤んだのだ。来た道とはちょうど正反対に当たる位置に奥へと進む道はある。多少歩きやすい平坦な道なのは分かる。だが問題は、その手前に遥かに大きな魔方陣が現れたことだ。


「何っだよ。これ……」

「罠……」


 血のように濁った紅き魔方陣が展開されていく。宙に浮いた魔方陣を中心に風が生じる。まるで吸い込まれるかのように、ジリジリと足が前に出されてしまう。


「きゃあああ」

「罠……? ルガンたちの魔法ってことか」


 ルキナの発した言葉に反応するが、リーゼが即座に否定した。


「違う。これは、人為的なものよ! 誰かがこの先に行かせまいと魔法を仕掛けておいたの!」


 言うが否や、魔方陣からは大きな獣人が現れる。二足歩行の化け物だ。毛並みの色。鋭く発光している眼光。


「まさかこいつが……」

「察しが良くて助かるわ。ルガンたちのボス。フェンルガンよ」

「オオオオオオオオオオォォォォ!!?」


 ビリビリと洞窟全体を震わす咆哮。今にも崩れそうな空気の振動だ。


「けど、ベルちゃんよりは大きさはマシかな」

「お生憎。野生のベルサーガならいざ知らず、ベルちゃんはもともとペットだったんでしょ。まだベルちゃんのほうが可愛いわね」

「……来るよ」

「グルオオオオォォォォ!」


 距離を詰めるフェンルガン。ルキナが前に出て応戦する。魔法の発動はいつもより早く、得意の雷をお見舞いする。


「躱したっ」

「速い!」


 外に打ち払うようにルキナを薙ぎ飛ばした。


「ルキナッ!」

「大丈夫。ガードしたから」


 フェンルガンは止まらない。勢いのまま俺たちを標的にギラリと長い爪を振り上げる。


「くっ……」


 リーゼも一瞬の内にエクスフェルドを展開する。太陽の剣と称する剣でフェンルガンの爪を受け止めた。


「なんて力……」

「リーゼッ」

「あんたは早く、ソニアちゃんと逃げなさい」

「グルオォォッ!」

「リーゼ!」


 フェンルガンの右腕の爪を受け止めるのが精一杯のところ、すかさず左の爪が横からリーゼを襲う。


「させないよ」


 戻るルキナが雷撃を撃ち込む。が、雷を喰らうのはまずいと判断したのか。フェンルンガンは攻撃を全てキャンセルしてその場から離脱した。


「何て身のこなし」 

「正直手こずりそうだね」

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