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詠唱と召喚とゲンコツ

「熱い熱い熱い熱いっ!?」


 俺はごろごろと地面を転がる。池でもあれば飛び込むがそんなものない。辺り一面草ばっかだ。やばい。マジで死ぬ。また死んでしまう。


「ちょっとやりすぎじゃないのか?」

「う、うるさい。分かってるわよ」


 ―バシャン。

 バケツをひっくり返したような冷たい水が俺に降りかかる。俺を燃やしていた火は消えたようで助かった。意図的にやられたのだけど、一応助けてくれたわけだ。ちょっと悩みながらもお礼を言った。


「あ、ありがと……」

「こいつほんとにあんたが召喚したの?」

「う~ん、多分そうだと思うけど。でも何か弱い?」


 しかし俺のことなど二人とも完全に無視していた。頑張って出した言葉も、最後は萎んでしまう。いきなりさんざんな目になった俺はとりあえず座り込む。色々言いたいこともあるが、また炎で焼かれたくない。


「あんたが呼んだんなら早く帰らせなさいよ」

「は? そんなの出来ないし」

「何で出来ないのよ」

「召喚方法しか読んでないから」


 俺の目の前で、論争は続いた。俺はマジでどうしたらいいのだろう。今のうちに逃げたほうがいいかな。そんなことを考えていると、何やらドドドドッとこれまた突然に大きな音が聞こえてきた。

こ、今度は何だ。音のする方を見てみれば、何やら土埃が大きく巻き起こっているのが見えた。あれが有名なハリケーンって奴か。そんな考えも一瞬、まるでギャグアニメのように何かが凄い勢いでこちらに向かってきているようだ。しかしそれだけでは何なのか分からない。戸惑っている俺の脇目には、言い争っていた女の子二人が何やら慌てていた。


「やばっ。リーゼのせいで勘付かれたんじゃないの?」

「はぁ? 完全にルキナのせいでしょ。あんな派手な召喚魔法なんか使ったからでしょうが。おまけに何か良く分かんないもん呼んだだけだし」

「でも召喚は成功したもんね。リーゼはまだ出来ないけど」

「なっ、そ、そこまで言うなら私だって……」


 リーゼと呼ばれていた女の子はぷるぷると震えて右腕を掲げた。再び空が暗く色を変え、渦巻くような強風が吹いた。空気が震え、地盤が唸りを上げる。おいおい、またかよ。


「奈落の業火。夜天の虚城。永劫の檻より破邪の日輪。灼鉄の凶刃よ灰燼と化せ。堕ちよ煉獄。祈りの元に朽ち果てよ。我は混沌を統べる者なり。顕現せよ……」

「止めろっ! このアホたれっ!」

「あいたっ!」


 荒々しい異常気象のなか、詠唱する女の子の頭が、瞬時に現れたきな臭い男にポカッと殴られていた。その瞬間、吹き荒れる風も、鳴り響いていた大地も、あっさりと静かに収まった。ギャグみたいなことが起こってんぞ。さっき凄い勢いで走ってたのはこの人なのだろうか。


 男は跳ねるように少しボサッた黒髪だった。随分と長身で百八十くらいはあるかもしれない。特徴的なのは、小さくて丸いサングラスをかけていた。だがサイズが合っていないのか。少しズレていて紫の眼が覗く。白シャツに青い羽織。何故か太く黒いベルトが三本もあり、ズボンも上に合わせた青いものだった。


「その魔法は使うなって言ったろうが。お前もだルキナ。逃げようとすんな」

「ちぇ……」


 気象の変わり具合に驚いているのはどうやら俺だけで、女の子二人と現れた若い男は全く意に介していない。男は、はぁと溜息をついて気だるそうだった。


「毎度毎度ケンカばっかしやがって。しかもその度に危険な魔法使いやがって。で、今度は何だ?」

「ルキナが私のおやつを勝手に食べたんです」


 リーゼという桃色の髪をした女の子が訴える。それは確かにその娘が悪いけど、そんなことであんなケンカしてたのかよ。俺はつい老婆心ながらも突っ込んでいた。

 だが銀髪のルキナという女の子は全く反省の色は見せなかった。


「ちょっとこっそりもらっただけでしょ。それにリーゼだってお返しだって言って私のを食べたし。それなのにいちいち突っかかってくるリーゼがお子様なだけじゃない? その貧相な胸みたいにさ」

「はぁ? こ、この馬鹿ルキナ。胸は関係ないでしょ」

「ほらすぐそうやって怒る。カルシウム不足なんじゃないの?」

「止めろっつってんだろ。このアホ!」


 再び険悪なムードになっていたところ、男が一声すると、二人はふんと互いに顔を背ける。


「で? こいつは誰だ?」


 そこでようやく男が俺の存在を認めた。やっとかよ。正直マジでどうしようかと悩んでたんだ。


「はい。私が召喚しました」


 ルキナという女の子が真っ先に進言するが、恐らく違う。だってその前から俺ここにいたし。


「い、いや違っ……」

「アホ。どう見ても人間じゃねぇか。人間を召喚する魔法があるかよ」


 俺が否定する言葉を紡ぐと、それより先に男が否定する。男は依然座ったままの俺に合わせて向き直すと、腰を落として尋ねた。


「お前どっから来た?」

「……日本の東京からです」


 何故か凄む男の迫力に圧されてしまって言葉を吐いた。また火炙りされたくない。けど黙ってるわけにもいかない。だが俺の予想の反応と違い、男は目を見開いて驚いたような顔になる。

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