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3:学生寮とメイドさんⅤ

 イケメンに転生出来たと喜んだのも束の間、俺はリーゼにボッコボコにされてしまう。今までは巻き込まれて酷い目に遭っていたけど、今回は完全に標的にされたから逃れられる筈もない。


「う、うぅ……」


 おまけに騒ぎを聞きつけたルキナにも足蹴にされてしまう。今も追い打ちのように、ぶっ倒れる俺の上に乗っかって、時折ビリビリと電撃を発している。


「私の友達に手を出そうとするなんて。これは徹底的にお仕置きだね」

「っ……」


 逃げたいけど逃げられない。ルキナも相当怒っているらしく、キッとつり目になっている。まるで容赦がない。見上げればリーゼも、仁王立ちして凄い形相で睨んでいた。やばい。俺死ぬ。そんな悲壮な思いに駆られたところ、チェルシーから天の助けが舞い降りた。


「まあまあまあまあ。二人とも。私は平気だから。そ、それにラルク様もわざとだったわけじゃないし」

「チェ、チェルシー……」


 やばい。泣けてきた。気のせいかチェルシーの背中に、白い羽根が生えているようにも見える。涙でよく見えないけど。


「そ、そうだよ。わざとじゃないんだ」

「ほんとに?」


 ルキナが上から見下ろすように、侮蔑の眼差しを投げ掛ける。何だかその視線がまたぞくぞく……あ、いやそんなことはなく恐ろしいだけだ。


「ホントホント。わざとじゃない。事故、事故なんだよ」

「チェルシー?」

「ええ、多分」


 疑うルキナはチェルシーに確認を取る。最後自信なさげだったチェルシーが心配だけど。


「……じゃあチェルシーに免じて今回はここまでにしてあげるけど。次同じようなことしたらコレ付けるからね」


 ルキナが手に持っていたのは黒い革。いやそれ首輪じゃないか。


「返事は?」

「は、はぃ……」


 有無を言わせない圧力で返答に応じると、ルキナはようやく下りてくれた。けど、異を唱える者が一人残る。もちろんリーゼだ。


「ちょっと。それだけって何か甘くない?」

「えぇ?」

「何?」

「い、いえ何でも」


 ギロリと睨まれてしまってはもう何も言えない。けど本当に事故だというのに、これだけボコボコにされたのに、まだ足りないと言うのか。鬼か。

 恨めしい気持ちは募るが、口に出来るわけもなし。

 そんな時、俺の処遇がまだ決めかねられている頃、何処からか突如、叫び声が上がった。


「うわああぁぁ!?」

「え、な、何?」


 びっくりして痛む身体を強張らせてしまう。けどリーゼとルキナは冷静に動いていた。


「今の何処から?」

「とりあえず下から聞こえた気もするけど。行ってみる?」

「当然でしょ。何かあったのかもしれないんだし」

「それに面白そうだしね」


 尋ねていたルキナも行く気満々だったようで、迷うことなく、部屋の扉を開けてしまう。颯爽と廊下に飛び出し、リーゼも続いて行ってしまう。

 俺はどうしよう。

 気になるのは間違いないけど、身体は痛いし、危険なことだったら行きたくない。


「ラルク様。大丈夫ですか」

「あ、うん。大丈夫。ありがとう」


 まさに天使の如く、チェルシーは俺のことを気遣ってくれた。腰を落とすチェルシーに、このまま抱き着いて甘えたい気持ちだ。まぁそれをやってしまうと、ループしてしまいそうだから我慢するけど。


「大丈夫なら行きましょう。ラルク様」

「えぇ? いや危険があったら嫌だよ」

「何が起きたのか気にならないですか? それに、危険があるならますます見に行かないと。情報はいち早く入手しないと生き残れませんよ。もし火事とかだったらどうするんですか」

「……わ、分かったよ」


 チェルシーの言い分は尤もである。火事なら火事だーって叫ぶだろうから、別の何かが起きてるんだとは思うけど。それ以外に何が起きたのか知っといた方が良いのは確かにと考えられる。チェルシーに流されるように、結局俺も部屋を出て駆け付ける形になってしまった。

 どうか、何でもないことでありますように。俺は祈りながらヨタヨタと走り出した。


 まぁ、結果から言おうとしよう。来なければ良かった。


 目の前には、獰猛な獣が唸り声を上げていた。自分よりも遥かに大きな体格。亀裂のような縞模様。強靭な筋肉。鋭い爪と、尖る牙が肉食であることを悟らせる。特にサーベルタイガーのような、あの無駄に大きい牙は何なんだ。やべぇ、怖い。

 そんな恐ろしい獣が、何故こんなホテルみたいな学生寮の廊下にいるんだよ。


「これは多分、ジュリちゃんかな?」


 隣でチェルシーが呟く。誰ですか。こんな厄災を引き起こしたのは。


「黒魔術が得意な女の子ですよ。とっても可愛いんです。ただ、モンスターをこっそり飼っちゃう癖があって、多分逃げ出しちゃったんだと思います。前にもあったんですよね」

「あれがペット?」


 どうやってこんなの飼ってたんだよ。虎を飼ってるようなもんだろ。いや、モンスターだけにもっと凄いわ。大体その飼い主であるジュリちゃんとやらは何処に行ったんだ。


 目の前の恐ろしい光景は、モンスターに対するものだけではない。生徒だと思われる何人かが、魔法を駆使して対抗しているのに、前足と尻尾で打ち払うばかりで全く効いてない。

 そして先に飛び出したはずのリーゼとルキナは何処に行ってしまったんだ。


「うわあ!?」

「きゃあぁ!?」


 ついには(多分)生徒たちの包囲網を抜けてしまう。壁に叩きつけられてしまい、生徒たちの安否も気になるところではある。がしかし、何より自分よりたちの心配が優先だ。モンスターはゆっくりと周りを見回す。

動く視線は、ついには俺たちを留めてしまったらしい。


「やばい。チェルシー逃げよう」

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