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火ダルマと体罰と自己紹介

「熱い熱い熱いっ!」


 危うく火達磨になるところだ。カチカチ山みたいに服の背中が燃えていた。床を転げ回り、何とか火を消そうと躍起になる。飛び退くのが早かったのが幸いし、何とか消火させると、ばたばたしていたのは俺ただ一人だけだったようだ。


「怒ると火傷じゃ済まないってのは当たってるんじゃない?」

「あんたが怒らせたんでしょうが」


 俺と違い、襲い来る炎をまともに受けたはずなのにルキナはピンピンしていた。火傷なんか負っておらず、さっきと変わらない姿で悠然と愚痴を零す。火の粉を払い、何処か汚れていないか自分の服を確認するのが精々であった。さっきの「きゃああ」って悲鳴は何だったんだよ。

 片や炎を撒き散らす。片やそれを受けてもほぼ無傷。どっちも異常だ。

 なおも怒気を纏ったままのリーゼは、それを体現するように体から炎を溢れさせていた。その時、ルキナの近くで何かが舞う。それは紅く、チリチリと燃えていた。ルキナ自身も気付いたようで、それを目にした瞬間、赤い眼を見開いて轟くような声を発した。


「ああぁぁぁ!? 私のお気に入りだったのに」


 ヒラヒラと舞うそれを手で掬うと、悲しみに暮れた涙を浮かべる。遅れてようやく俺も理解した。ルキナの髪を括っていた、お気に入りらしき赤きリボンが燃えてしまったようなのだ。あんな覆い尽くされる炎を受けて、片方のリボンだけってのは逆に凄いと思う。


「リーゼの馬鹿。これ高かったのに」

「あんたがそれ言う? 私の曲だってお気に入りだし」


 ルキナまでもが臨戦態勢を取る。メラメラと揺れる、リーゼの怒りそのものの炎を前に、ルキナもバチバチと電光を纏う。どちらも負けじと凄まじい火花を散らす。


「止めろ! このアホども!」

「……っ」


 ポカポカッと、二人の頭にアドゥルスが拳骨をお見舞いする。二人はすぐさま頭を押さえて蹲った。危なっかしい炎と雷がなくなると、ようやく俺も落ち着くことが出来る。


「兎に角教室に戻れ。じゃなきゃきつ〜いお仕置きするぞ」

「もう既に殴られたんですけど」

「体罰禁止」


 リーゼとルキナが涙目になりながら抗議する。対してアドゥルスは、ビキッと血筋を浮き上がらせる。まさに怒り心頭だった。


「よ〜し分かった。よほどお前らは俺の熱い拳を受けたいようだな」

「うっ……」

「やばっ」


 ポキポキと鳴らすアドゥルスに、二人は恐れをなしたようで、そそくさと部屋の中へと入り込む。


「ったく……。おら、入ってこい」


 呼ばれた俺も、拳を受けたくない一心で早足になる。飛び込むように扉を潜ると、中は広い教室だった。

 まさにファンタジー世界の学校といった具合に、城の内部として恥ずかしくない立派な構造をしていた。


 教室全体が白い壁で覆われ、床は廊下同様赤い絨毯が敷かれる。木造の椅子と机が規則正しく並べられ、少し懐かしい光景でもある。この部屋は横に七席、縦に七席と配置されていた。机の向く先には巨大な黒板みたいなものがあって、根本的な造りは、まさに高校の教室にそっくりだった。


 リーゼが廊下側の列で、真ん中の席に座っていた。ルキナはリーゼと対極するように、窓側の真ん中の席に行儀悪く腰をかける。ついでにリボンが燃えてしまったので、髪を束ね直していた。サイドテールってやつかな。

 そして、二人以外は誰もいない。だだっ広いだけに、この少なさは多少侘しく映る。


 どうすればいいのか分からない俺が手持ち無沙汰でいると、「お前はこっちだ」とアドゥルスに指示される。俺が立たされたのは、まさに教壇の前とも言える位置だった。


「え……?」

「リーゼとルキナ注目。これから一緒に学ぶ仲間を紹介しよう」


 たった二人しかいないとはいえ、前に出て注目を浴びるなど俺は全く慣れていない。戸惑う俺を他所に、アドゥルスはまるで、転校生を紹介するように俺を軽く前へと押し出した。


「そら。自己紹介しろ」

「えぇ! ゆ、ユウじゃなくて、ら、ラル…………えっと、何でしたっけ」


 とりあえず名前を名乗ろうと思ったのだが、イマイチ偽名がしっくり来ない。結局何だったかと尋ねると、いきなりポカッと頭を殴られた。頭を押さえている間に、服を掴まれて下に引っ張られる。自ずと中腰の形となった。


「アホか。名前くらいさっさと覚えろ」

「い、いやそんなこと言ったって、急に言われても分かんないって。ラル……グリー……?」

「ラルク・レッド・グリーヴスだ。ちゃんと覚えろ。バレたらお前、最悪殺されるんだからな」

「ならもっと覚えやすい名前が……」

「このやろう。俺が必死に考えてやった名前だぞ。だいたいもうその名前で学長に名乗ったから変更なんか出来るか」


 必死に考えたって、あんた三秒くらいで思い付いてたはずだろ。これ以上殴られたくなかった俺は、言わないけどな。


「そいつって私が召喚した奴でしょ? 確かユウトって名乗ってなかったっけ?」


 鋭い。あの時その場にいたルキナは肘をついて訝しげな視線を向けていた。


「それに、他言無用って言ってたのも気になるんですけど」


 姿勢正しく座るリーゼは、サファイアのような射抜くような眼光、もとい疑いの眼を向ける。いきなり修羅場なんだけど。どうしようと内心焦る俺の横で、アドゥルスがスクッと立ち上がる。コホンと咳払いをすると、軽快な口調で喋り始めた。

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