004 『箱』
『箱』
「なんですか、これ?」
部室に行くと、見覚えのない黒い箱がテーブルの上に置かれていた。金属製らしいその箱は四方から大きな留め金がかけられており、硬く閉じられている。
「君はシュレーディンガーの猫の話は知ってる?」
「質問に質問で返さないでくださいよ。まぁ、一応聞いたことはありますけど。確か、箱の中に猫を入れて、開けた後に生きてるか死んでるか、ってやつですよね」
「えぇ、大体それで合ってるわ。で、これがその猫の箱だとしたらどうする?」
紙に何か書いていた先輩は手を止めて、箱を指差した。
「そりゃすぐ開けますよ。だって、猫がかわいそうじゃないですか」
「優しいのね。けど、これはそういう話じゃなくて、所謂一つの思考実験よ」
「あぁ、なるほど。先輩そういうの好きですもんね」
「それで本題だけれど、もしこの中に猫がいるとしたなら、猫が生きているか死んでいるか、君ならどうやって判断する? まぁこんなこと考えるのは本来の実験じゃないのだけれど」
「開けないで分かるはずがない、って言いたいですけど、それでも開けずに考えるんなら、中で何かが動いているか耳を立ててみたり、箱を振って反応を確かめるってところですかね」
もし設備があるならレントゲン的なもので中を透視してみるのもいいかもしれない。
「そう。じゃあ早速やってみて」
「はぁ、なんでですか。まぁいいですけど」
言われたとおり、とりあえず中から何か音がするかな、と箱に耳を近づける。
『ガガガガガガッ!』『ギチギチギチギギチ……』『ぷちゅぺちゃぐちょ』『呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪……』『ぽわ~、ぐちゅぐちゅ』『ジョインジョイン!』『キュイィィィィィイイン!』
「……なんですか、これ?」
それまで何もなかったのに、耳を近づけた瞬間、どうやって鳴っているのか不明な音が大量に聞こえてきた。というか、なんか一個うめき声みたいのも聞こえた気がするんだけど……。
「実は私も知らないのよ。『この箱を保管して、三ヶ月に一回マークを書いた紙を入れる』って部を任されたときに言われたからやっているだけだし……」
そう言って先輩は幾何学模様の描かれた紙を、箱の隅に隠れるようにあったスリットに入れる。そうすると先程までの音が嘘のように、箱からは何も聞こえなくなった。
「中に何が入っているのか、開ければ分かるけど開けてみる?」
「……いや、やめておきましょう」
「そっか。まぁ、そのほうがいいわよね……」
結局箱の中身は分からずじまい。けれど、これを開ける勇気は僕らにはなかった。
初感想、初ブクマ!
ということで、結構嬉しかったり。
今回はよく分からない箱の話。
基本的に思考実験は好きです。何気にこの物語の基本テーマでもあったりします。……色々ごちゃまぜだったりしますが。
そして、よくよく考えたら書きだめのストックがあるんだし、ストック切れるまでは毎日更新でもいいんじゃないかな、とか思ったり。
そんなわけで、一週間のみでなく、ネタ入れになるまでは毎日更新していくことにします。
それでは、次回もどうかよろしくお願いいたします。