031 『生と死』
『生と死』
「ねぇ君は生と死について、どんな風に考えている?」
「いつにも増して哲学的な問いかけですね。どんな風に、といわれても普通にですよ。いつかは死ぬのだろうけど、できることならそれまでは穏当に生きていたい、って感じです」
世の中には何かを成し遂げたい、自分の生きた証を残したいと考える人もいるのかもしれないが、ごく普通の学生である僕にはまだ明確な目標なんてなく、ただ漠然と生きているだけだ。
「予想はしていたけれど、つまらない答えね。そこが君らしいといえば、君らしいのだけれど」
「なら、先輩はどう考えてるんですか? そこまで言うなら、とても深い考えなんですよね?」
つまらない答え、と言うならばもっと良い考えを是非とも披露してもらいたい。
「そうね、私は生と死は本質的に同じようなもの、それに対する捉え方の差なのだと思うわ」
「本質的に同じ? まったく違う、むしろ対極にあるものなんじゃないですか、生と死って?」
生者と死者、誕生と死、始まりと終わりというように、生死は両極端と言うべきものだろう。
「えぇ、けど対極だからこそ本質的には同じものだと思うのよ。たとえば、最初に君が言ったように人はいつか死ぬ、なら生きているのは死んでいくとも言い換えれるでしょう?」
「成程、それで捉え方の差ですか。分かるような、分からないような、哲学的な答えですね」
もしくは中二病的というべきか。なんというか深いようで深くない、言葉遊び染みた答えだ。
「正解なんてないのよ。君には君の、私には私の考えがあって、それが真実なんだもの」
「そりゃそうですけど、それじゃあこの話って、まったく無意味な内容じゃないですか……」
「無意味でもいいのよ。だって、この話は単なる前置き、前フリとでも言うべきものだから」
「前置き、前フリ? なんのですか?」
首を傾げる僕に対し、先輩は綺麗に包装された四角い箱を取り出して、こう言った。
「それは勿論、君の誕生日に対してのよ。ハッピーバースデー、トゥーユー、ってね」
「えっ、あっ、ありがとうございます!? っていうか、先輩、僕の誕生日知ってたんですか?」
そう、今日は僕の誕生日だった。別に忘れていたわけじゃなかったが、まさか先輩に祝ってもらえるとは思ってなかったので驚いてしまった。けれど、予想外な分、余計に嬉しい。
「入部届けに書いたでしょう? なんとなくそれを思い出したのよ。別に他意はないけれど、折角の誕生日なんだから、お祝いしてあげるぐらいの気持ちはあるのよ、私にも」
「すごく嬉しいです、ありがとうございます。あっ、そういえば先輩の誕生日っていつですか?」
出来ることなら先輩の誕生日には、僕も何か贈りたい。まだ過ぎてなければいいのだけれど。
「私の誕生日は再来年よ。だから別に、そんなの気にしなくてもいいわ」
「そりゃ一年一回あるんですから、再来年もありますよ。それより月と日を教えてくださいよ」
けれど、僕の質問に先輩は意味ありげに微笑むだけ。結局、誕生日は教えてくれない。
嬉しかったけれど、先輩について何も知らないことに、寂しさを感じてしまう僕だった。
誕生日回。
祝ってもらえるのは嬉しいものです。
……一定以上の年齢になると、誕生日なんて憂鬱なものでしかなくなりますが。
そしてちょっとした問題。
先輩の誕生日はいつでしょうか?
一応、本文の内容からヒントを読み解けば、回答は出来たりします。
答のほうもそのうち物語内で発表しますので、まぁよければ考えたりしてみてください。