029 『衣装』
『衣装』
『扉を閉めたら五分程待ってから開けるように』
部室に行くと、そう書かれた紙が扉に貼られていた。不審に思いながら扉を開くと、
「あなたは、神を信じますか?」
――シスター姿の先輩がいた。紺のケープと丈長ワンピースという、一般的な修道服である。
謎過ぎる光景に硬直しかけるも、扉を閉める。そして張り紙に従い少し待って扉を開くと、
「検診のお時間ですよ」
――今度はナース服、ただしコスプレじみた薄桃色の。検診と言いつつ注射器を持っている。
またフリーズしかけながらも扉を閉める。張り紙にある五分は、着替えの時間ということか。
「まったく、こんな問題も解けないなんて、君は居残りよ」
――スーツに眼鏡、手には指示棒。台詞から察するに女教師か。眼鏡姿は何気に初めて見る。
ある程度眺め堪能した後、扉を閉める。意味不明すぎるが、眼福だし楽しくなってきた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
――遂にメイド服! 多分くると思っていたが、小柄な先輩にメイドはやはり似合う!
出来ればカメラで撮影したい光景だが、流石に無理だろう。光景を目に焼付けて扉を閉める。
「にっ、にゃ~ん♪」
――まさかのネコ娘! 小面積の毛皮風衣装にネコミミ、ネコシッポ、肉球グローブとは!
流石に先輩もこれは恥ずかしいようで、ポーズを取りながらも若干声が上ずっている。
「お風呂にする? ご飯にする? それとも、――た・わ・し?」
――ここにきて新妻風! エプロン姿でその台詞は破壊力抜群だ! 最後が洗浄具だけど!
次は先輩がどんな格好をするのか、考えただけでわくわくする。こうして待っているだけで、
「……いや、待つ? じゃあ、もし今扉を開けたらどうなる?」
気が付いた。僕が待つ間、中はどうなっているか、そのタイミングで扉を開けばどうなるか。
魔が差した、というべきか。空想の魅力に抗えず、閉めて三分程度で僕が扉を開くと、
『ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタ!』
――人体模型が嗤っていた! 僕はまた反射的に扉を閉め、
「んなっ!?」
――られない! 人体模型は扉を閉めようとした僕を掴み、部室の中へ連れ込み背を向けた。
「チャック? これ、外せばいいんです? もしかして、脱げなくなったんですか……?」
『ケタケタ』と不気味な声で頷く人体模型。それに呆れながらもチャックを引っ張ると、
――デドデドデドデド、デーデン♪ と、以前も聞いた某RPGの呪い音が鳴り響いた。
家庭部製だ、これ。その音と脱げない仕様ですぐに理解する。毎度ながらろくでもない。
結局この後の部活は、先輩を助け出すだけで終わった。本当になんだったのだろう……?
サービス回。
コスプレ先輩の姿見れるものならみたいです。
そして、家庭部はオチに便利という天丼。