021 『慣れ』
『慣れ』
「んー、なんだか懐かしい気がします、この雰囲気」
「懐かしいって、たった一月程でしょう。けどまぁ私も気持ちは分かるけれどね」
夏休み明けの新学期、始業式を終えてすぐなので開いてないかと心配したけれど、しっかり部活は平常運転らしく、先輩は部室にいてくれた。
「懐かしい、と思うということは、それだけこの部の雰囲気に慣れてきたということね」
「あー、そうかもしれません。一学期の放課後は結構ここで過ごしましたからね」
雰囲気というかなんというか。夏休み中にも先輩とはなんだかんだで会ってはいたし、色々楽しいこともあったけれど、やっぱりこの部室でゆったり話すのが一番落ち着く気がする。
「そもそも、二学期っていうのは一番慣れがきて、過ごしやすい時期なのよ」
「そうですね、一学期だとまだクラスも知らない顔多いでしょうし、新入生は施設自体のこともよく分からないですもんね。僕みたいな編入組だと特に」
「そうよ、逆に三学期だと三年生の卒業も近くなるしね。だから、二学期は一番過ごしやすい時期なのよ。その証拠に、色々な行事も二学期に集中しているでしょう?」
言われてみれば、その通りだ。体育祭に文化祭、合唱コンクールに討論会、運動部なら全国大会なんかもある。少し考えてみるだけでも、二学期に色々と詰まっているのがよく分かった。
「けど、それなのに修学旅行なんかは三学期なんですよね」
「建前は卒業前の思い出作りのためらしいわよ。正直、行くほうとしては、寧ろ二学期のほうが色々楽でいいのだけれどね。多分、二学期に行事を詰め込みすぎた影響でしょうけど」
修学旅行なら文化祭などとは違い、あまり準備が必要ないということか。確かに卒業前の思い出作りというのが建前ではなく本当ならば、別に二学期でも問題ないはずだ。
「三学期に負担を残さないために二学期に固めたら、結局三学期に足が出てしまうって、なんとも本末転倒な話ですね……」
「得てして物事はうまくいかないものよ。考えている側は完璧だと思っていても、いざ実現すれば問題は出てくるでしょうし、直そうにも色々としがらみが多くなってしまうだろうから」
「そんなもんですか。しかしまぁ、僕らには関係の無いお話ですけどね」
その影響を受けるのは僕ら学生だとしても、その運営に口を出すことなんて出来ない。生徒会長なんかの地位にいれば別なのかもしれないが、一介の学生である僕には関係ない話だ。
「えぇそうね。それにまぁ、別にそこまで嫌というわけではないものね。少し不便と感じても、我慢できないほどではないのだし」
「ですねぇ。それに僕はまだ一年ですから、そこまで実感あるわけじゃないですから」
こんな感じに、記念すべき二学期最初の部活動は、毒にも薬にもならない内容で過ぎていく。
けれど、それが心地よく思えるのは僕がここに慣れ、馴染んできたということなのだろう
二学期編、始まります。
……まぁだからといって特に大きくかわったりはしないわけですが。
そんなわけで、次回もよろしくお願いいたします。