020 『償い』
『償い』
「こんばんは、先輩。浴衣、似合ってますよ。すごく綺麗です」
今日の先輩の御召し物は、薄い青地に紫陽花柄の浴衣だった。いつもは下ろしている髪が後ろに結ってあるのも新鮮で、綺麗以外の言葉が浮かばない自分の語彙の無さが悲しい。
「ふふっ、ありがとう。けど、そんな風にこなれて言われるだけじゃ、なんだか物足りないわね。やっぱりもっと、焦ってくれないとつまらないもの、だから」
そう言いながら僕の腕をとり、まるで恋人のようにしなだれかかる先輩。
「ちょっ、いきなり何をするんですか!?」
「うん、やっぱり君はこういう風に焦ってるほうが面白いわ。そうだ、折角だからこのまま今日は回りましょうか?」
「えぇっ、そっ、それは……」
女性特有の甘い匂いに、腕に伝わる確かな柔らかさ、近づいて分かる浴衣特有のうなじの魅力など、正直嬉しいことばかり。けれど、この格好はやはり恥ずかしい。
「なんてね。まぁ君のそんな顔が見れたから、よしとしておくわ」
言葉通り、満足げな様子で腕をはなす先輩。よかったはずなのに何処か惜しく思えてしまう。
「そもそも、今日はこの前のお詫びなんでしょう? だったら君に拒否権は無いのよ」
「分かってますよ。あの事は本当に悪いと思ってますから……」
この前とは、先日プールに言ったときのことだ。泳げないことを隠してスライダーに乗って見事に溺れた結果、色々とアレなことになったお詫びとして今日は先輩を誘ったのだ。
「溺れるものは藁をも掴むとは聞いたことはあったけれど、まさかブラを掴まれるとは思わなかったわ。今日も油断したら、この帯を取られてくるくる回されてしまうのかしら?」
「いや、あれは不可抗力で!? それに今日のこれで許すって言ったじゃないですか!」
「まだ約束のものは見てないもの、それまでは許さないわ。私だって恥ずかしかったんだから」
「うぅ分かりました……。それより縁日回りましょうよ。お金のほうは、僕が出しますから!」
「ごまかされた気もするけど、まぁいいわ。折角だし、お言葉に甘えさせてもらおうかしら」
なんとか先輩を連れて、縁日へと繰り出す。焼きそばにフランクフルト、わたあめにりんごあめ、射的等を楽しんでいくうち、僕の財布と引き換えに先輩も上機嫌になっていった。
「そういえば、僕らってどう見られてるんでしょうか? 友達や兄妹、もしかしたら恋人とか」
けれど流石に部活の先輩後輩だとは誰も思わないだろう、先輩のほうがかなり小柄だし。
「誰かがどう思うかなんて関係ないわ、当人達がどう思うかよ。そうね、私にとって君は――」
――ドーンッツ! と肝心なところで轟音が響いた。……空気読んでください、花火さん。
「打ち上げ花火って間近で見るとこんなに凄いのね。綺麗だし、物凄い迫力だわ……!」
喜んでくれたようだしいいか。そんなことを思い、夜空の大輪に見惚れる夏の日だった
水着ときたら、浴衣でしょう。
と、いうことでサービス回その2。
こういう話の時にはやはりイラストが欲しくなります。
私に絵心はないので、どうか脳内妄想で補ってくださいませ。orz
なお、今回でサービス回っぽいのは終わりで、次回からまた平常運転状態に戻ります。
それでは、明日もよろしくお願いいたします。