014 『恋人』
『恋人』
……もやもやする。気になる、けど聞けない。それに答えを聞くのが怖い。
放課後の部室、いつもなら心地よい場所なのに、今日はここに居ることがとても辛く感じる。
「うぅ……」
「もう、なんなの、さっきから? 人の顔をじろじろ見て」
「いや、そのべつに……。えっと、そういえば先輩って兄弟とかいますか?」
「年の離れた姉が一人いるけれど、そんなことが聞きたかったの?」
不審そうな目をして、先輩が聞き返してくる。
「ほら、言いたいことがあるならさっさと言いなさい」
「……分かりました。なら聞かせてもらいます」
覚悟を決めて、昨日からずっと頭に浮かんでいた問いを投げ掛けた。
「あのっ、先輩って付き合ってる人っているんですか?」
「へっ? えっ、なっ、なんでいきなりそんなことを聞いてくるのよ!?」
「昨日偶然見たんです、先輩が男と親しげに買い物してるのを……!」
食材の買出しに行った帰りに、先輩を見かけたのだ。けれど、先輩は同年代ぐらいの男と親しげに腕を組んでいて、結局僕は声をかけられずそのまま二人を見送ったのだった……。
「……腕を組んで男と買い物? そんな覚えはないんだけれど。見間違いなんじゃないの?」
「いや、絶対にあれは先輩でした。見間違えたりなんてしませんよ」
「だけど、そんなことした記憶は、――ってあぁ、あのときね! ふっ、あはは、なるほど!」
「えっと、どうしたんですか、いったい?」
何故だか、唐突に笑い出した先輩。何がなんだか僕にはまったく分からない。
「君は見間違い、いや大きな勘違いをしているわ。それこそ、本人が聞いたら怒るような、ね」
「どういう意味ですか? 結局、あの男はなんだったんです?」
「そこよ、そこ。そこが大きな間違い。私が腕を組んでいたのは事実、ただし同性と、ね」
「同、性……?」
そう僕が呆然と呟いたのを聞いて、また先輩は可笑しそうに笑う。
「ふふっ、確かに親しい相手ではあるわ。でも彼女、胸が無いのと、女っぽくないことを気にしてるんだけど、まさか本当に男と間違われていたなんて、本人が知ったらどう思うかしら」
「あぁ、いや、その……」
まさか、女性だったなんて。……でも、その人には悪いけどおかげで安心できた。
「ちなみに、さっきの質問の答えだけれど、私は付き合ってる相手はいないわ。親しくしている異性なら、一人いるけどね」
その言葉でまた悶々とした僕だったが、家の鏡でようやく気づき、顔を赤く染めるのだった。
なんのかんので珍しくラブコメしてます。
まぁ結局文庫換算見開き二頁という縛りがあるのでそこまで深く出来ないのが悩ましいところですが。
それでは、次回もどうかよろしくお願いします。