013 『不吉』
『不吉』
部室に入ると、ホッケーマスクの怪人がいた。
「……いや、なにやってるんですか、先輩?」
「あら、驚かないの? つまらないわね」
顔はホッケーマスク、しかし身体は小柄な女生徒のままなのでまったく怖くない。
「そういえば、今日は十三日の金曜日でしたね」
某ホッケーマスクの殺人鬼の日である。わざわざマスク姿で迎える必要性は皆無だけれど。
「こないだ部室の整理をしてきたら出てきたのよ。で、調度今月は金曜日が十三日だったから」
「だからって着けなくても……。でも、十三って色々と不吉な扱いされてますけど、それって理由とかあるんですか? なにかでキリスト教からきてる、とかは聞いたことあるんですが」
四なんかは読みの『し』が『死』を連想するからと分かるが、十三は何が悪いのだろう?
「君が聞いたのはユダが十三番目の弟子だとか、イエスの処刑が十三日、というやつかしら?」
「あぁ、そうです。確かユダとか出てきましたし、そんな感じだったと思います」
「そう。でも実は、聖書で処刑の日は言及されて無いし、弟子は十二人と明記されているのよ」
「えっ、そうだったんですか。じゃあ結局のところ、十三はなんで不吉扱いされてるんです?」
たとえ後付けで不吉とするにしても、その原因となる何かがあるはずだろう。
「多分、十三が微妙な数字だからじゃないかしら。もっと言うと、十二の次だったからとか」
「十二の次だから? それがどうして不吉に繋がるんですか?」
「例えば、古代の計算は両手指の十本と足の二本で十二までしか数えられず、十三を恐れたという未知数説かしら。それに十二ヶ月や十二方位、十二時間とよく使われてきた十二の隣にあって素数の十三は調和を乱すから不吉と考える不調和説なんてのもあるわ」
「なるほど、十二の次ってことで、半端で決まりが悪い数だったから不吉となったと」
そう言われれば納得できる。確かに、それならば不吉と呼ばれても仕方ない気がする。
「で、ホッケーマスク[それ]、いつまで着けてるんですか?」
指摘しなかったが、ここまで先輩はマスク着用済みである。いい加減に外してほしい。
「……実はこれ、外せないのよ。外そうとしても、ほら」
――デドデドデドデド、デーデン♪
マスクから某RPGの冒険の書が消えた音、つまりは呪い音が鳴り響いた。後ろを見ると留め具は返しで固定された上、ベルトも先輩の頭に嵌っていて外れそうに無い。
「まさしく、呪いの装備ですね。音が鳴るようにわざわざスピーカーまで付けるとは……」
「どうも、あの家庭部の残したものだったみたい。我ながら、迂闊だったわ……」
マスク姿で落ち込む先輩。深刻なんだけど、絵面が絵面だけに、なんともシュールな光景だ。
最終的にベルトを切って解放された先輩の顔には、くっきりとマスクの痕が残っていた。
十三話だからホッケーマスク。
安直なのは仕方ないです。
家庭部ってなんなんだろうというお話。