011 『魂』
『魂』
「迷信って、意外に的を得たことを言っていますよね……」
「へぇ、君はそういうものは信じないと思っていたけれど、どうしたの。まさか、狐か狸にでも化かされたとでもいうのかしら?」
「そんなファンタジーな理由じゃないです。ただ、心からそう思っただけですよ……」
狐や狸が人に化ける、なんていうのを信じているわけじゃない。けれど、今の僕には、とある迷信が身に染みるように感じられるのだ。
「なんだか、ロマンチスト、……いえ、というより中二病ね」
「なんで、そこで言い直すんですか……? まぁ、どうでもいいですけど……」
正直、中二病でも、なんでもどうでもいい。今重要なのは、時計の針だけだ。
「目が死んでるわよ。まったく、そんなんじゃ私まで気が滅入ってくるじゃない」
「仕方ないじゃないですか。それに、どんな目をしようと僕の勝手ですよ。どうしても無理やりに笑えというなら笑いますけど、目までは変えようが無いですしね……」
「よし、なら命令よ、笑いなさい。作り笑いでも何でも、笑顔を見せなさい」
横暴な命令に億劫ながらも、無理やりに顔の筋肉を動かして笑顔を作る。
「……ごめん、やっぱり笑顔はもういいわ。その目でその顔は怖すぎる。もう、最初のほうはまだそんなんじゃなかったのに、一体どうしたのよ」
「魂を抜かれたんですよ、先輩に……」
「魂って、なによ。そんなことした覚えは無いわよ。もしかして、本当に中二病を患ったの?」
「自分が何をしたか、よく考えてください。そしたら分かりますから」
「魂を抜くようなことで、私がやったこと……? あぁ、なるほど。だからさっきあんな迷信なんてことを言ったのね、あっ、ちょっといい表情」
――パシャリ、という音とともに、何度目になるのか分からない閃光が放たれた。それと同時に、僕の魂がまた抜き取られたように感じる。
「でも、写真を撮られたら魂を抜かれるなんていうのは、昔の写真が大掛かりで取られる側が疲れたからできたってだけの迷信よ?」
「迷信だとしても、今の僕には事実なんです。先輩も同じ立場になれば分かりますよ、絶対に」
写真を撮られるごとに、僕の魂は――羞恥心や男としての誇りは、確実に抜かれているのだ。
「そうかしら、ただ写真を撮っているだけじゃない。いくらなんでも大げさすぎないかしら?」
「えぇはい、ただの写真だったらそうでしょうね……」
化粧をさせられた上にフリフリ魔法少女服を着た姿を撮られて、なにも感じない男がいたなら、それはもはや変態である。
けれど先日の勝負に負けた僕は、ひたすら耐えて下校時刻[解放]を待つしかなかった……。
詰まるところの罰ゲーム。
前回の続きだったりします、ある意味では。
たまに話が微妙にリンクしたり繋がったりします。
では、次回もよろしくお願いいたします。