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第三話 二日目 その①

次の日の朝。


「宮ちゃん宮ちゃん! 部活を作ればいいと思うんだよ!」


バン、バンと机を叩き、身を乗り出して訴えかけるあたし。

そしてそんなあたしを、鬱陶しそうな目で見る宮ちゃん。


「具体的にどうすんだよ……? 活動内容は?」


さきほどまでの勢いは消えて。


「そ、それはまあ……追々考えていけば……ねえ?」


「部員はどうすんだ? うちら二人じゃ部として認められない、最低でも四人は必要だぞ?」


「それも追々……」


「顧問の先生は? 部室だってどうすんだよ?」


「お――」


今度は宮ちゃんが立ち上がって。


「全部追々じゃないか! そんなんじゃ部活にならん!」


へこたれているあたしを尻目に、宮ちゃんはやや声を低くして言う。


「うちだって考えたさ……部活がないなら作ればいいって。けど、現実はそう甘くない」


なんか、宮ちゃんが真面目なこと言ってる?

頬を膨らませあたしは言った。


「シリアスな言葉は宮ちゃんに似合わないよ?」


「お前ってほんと失礼なやつだな?」


「そんなことないよ! 隣のクラスの担任の先生に、『それってカツラですか?』とか聞いちゃう、宮ちゃんよりは失礼じゃないもん!」


そう大きな声で訴えかけると、近くにいた生徒が笑い出す。

そんな様子を見て焦った宮ちゃんは。


「ば、ばか! あれはほんのスキンシップみたいなもんだって? みんなだってやるだろ? あいさつ代わりに!」


「いや、やんないと思うよ?」


あたしはクラスを代表して、代わりにツッコミをいれる。


「くっ……お前らみんな間違ってる! そんな冗談の一つも言えないから、日本人はいつまでたっても外人にバカにされるんだろう!?」


必死の抵抗を試みるも、一人の生徒がポツリと言った。


「あの先生まじでカツラらしいよ? だから宮子のは冗談じゃなくて、ただの嫌がらせって感じ?」


「…………」


クラスは一瞬にして沈黙に包まれた。

そんなところに、タイミングが良いのか悪いのか分からないが、のりちゃん先生が入って来た。


「はーい、みんなおはよう! ホームルーム始めるよー」


一斉にがたがたと動き出し、みんな所定の席に座る。


「きりーつ、きょーつけ、れー、お願いしまーす」


「「お願いしまーす」」


「ちゃくせーき」


やる気のない号令を皮切りに、朝のホームルームが始まる。

そう、誰もがみんな、さきほどのカツラ発言については触れない。

というよりは触れられない。

冗談ならまだしも、どうやら事実のようなので。


もうみんな忘れることにしたのだろう。

そうでなければ、もし件の先生と出くわした時、どう対応すればいいか分からないからだ。


ふと後ろ振り向けば、そこには遠い目をした宮ちゃんが。

きっと自らの過ちを悔いているのだろう。

そしてあたしもまた、ここまで事を大袈裟にしてしまったことを、静かに反省するのであった。



退屈な授業を終えて、ようやく昼休みに。


「宮ちゃんお弁当食べよー」


あたしは早速机を動かし、お弁当片手にそう呼びかけた。


「お前やけに動きが早いな……」


「だってお昼休みだよ? お弁当だよ? むしろトロトロしてられる宮ちゃんの神経を疑うよ、あたしは」


「それはいくら何でも言いすぎだろっと」


肘で軽くあたしを小突いて、ニヤニヤと笑っている。

そして続けて言った。


「体育の時も、そんぐらい俊敏な動きを見せられればいいのにな」


うっ……痛いところつかれた。

あたしに弁明する気などさらさら無く。


「だって苦手なんだもん、運動とか……。そういえば宮ちゃん、体育は活躍しまくりだったね? まあ、その見た目で運動神経悪かったら、それはそれでどうかと思うけど」


「そういうお前こそ見た目通り運動音痴で、うちは安心したよ」


「むう……宮ちゃんの意地悪っ!」


拗ねたあたしをあやすように言う。


「まあまあ、うちの唐揚げ一個やるから、機嫌直せよな?」


「ほんと!? 宮ちゃんは天使だよ! まいエンジェル宮ちゃん!」


宮ちゃんは呆れ顔をして。


「お前は単純なやつだな……、ていうか、そのお弁当って自分で作ってるのか?」


あたしのお弁当に唐揚げを入れて、そう質問してきた。

これはあたしじゃなくて、にいが作ってくれてるけど、そんなこと言ったらバカにされそうだな……。

女子力をアピールすべく、あたしは嘘をついた。


「ま、まあね!」


「へえ……お前って意外とデキル女なのか? ちょっとは見直したぜ」


「……まあね……」


どうしよう、もの凄く後ろめたい気分が押し寄せてくる……。

けど、あたしのお弁当を見て、無邪気な笑顔を向けてくる宮ちゃんに今さら嘘ですなんて言えない。


とりあえず話をそらすために、あたしは適当に話題を変えた。


「そ、そういう宮ちゃんはどうなの? 手作り?」


「そうそう。ほんと朝は大変だよなあ……家族の朝飯作って、弁当作って、学校の準備して、もう大忙しだよ」


見かけによらず、宮ちゃんって家族想い?

それに比べてあたしは――


「奏、朝だぞ。支度しろ」


「ふあ~あ。はーい……」


「朝飯テーブルに置いといたから。それと弁当はカバンの中」


「にい……ありがとう……」


――と、こんな感じだし。


「ていうか、それ炊き込みご飯じゃん! おお……朝からそんなもん作るのか、お前?」


「え? ああ! ま、まあね? えへへ……」


「ん? それってなに? フルーツかなんか?」


そう宮ちゃんが指さしたのは、にいが昨日の夜作ったのであろう、デザートのプリンの入った容器が。


「こ、これは……その……」


興味津々な宮ちゃんは勝手に容器のふたを開けて。


「げえ! これプリンじゃん!? これもお前が……?」


「……うん……たぶん?」


歯切れの悪いあたしの言葉に、宮ちゃんは怪訝そうな表情を浮かべた。


「ほう……じゃあ試しに聞いてみるけど、どうやってプリン作るのか知ってるか?」


ええ!?

そんなの知ってる訳ないじゃん……あたし作ったことないし。

けどあれだよね、きっと卵は使うよね?


とりあえずあたしは「卵?」と言ってみた。


「あとは? まさか卵だけで出来るなんて思ってるんじゃないだろうな?」


宮ちゃんは不敵な笑みを浮かべてそう言った。

しかしあたしもここで食い下がるわけにはいかない。


うん、大丈夫。

あたしはやればできる子ってお母さんに言われてるもん。

自分を信じるのよ、奏!


「……お豆腐……とか……?」


「嘘つけえ!! そんなもんいれるわけないだろ!? さてはお前プリンなんて作ったことないな? 白状しろ奏!」


人差し指をあたし目がけて突き出して、眉間にしわを寄せている宮ちゃん。


「……あるもん……あたしの家ではお豆腐いれるもん……」


「もしそうだとしたらお前の家族はみんな間違ってるよ!」


うぅ……なんか全否定された……。


「じゃ、じゃあ宮ちゃんはプリンの作り方知ってるの?」


すると、やや言い淀んで。


「あ、あったりまえよ! プリンでもぷっちんプリンでもなんでござれだ!」


ぷっちんプリン?

宮ちゃんそれ調理済みだよ。


「…………」


あたしは呆れて黙っていると、近くにいた子が話しかけてきた。


「あ、あのぉ? プリンはねえ、卵と牛乳とお砂糖、それからバニラエッセンスをいれるんじゃないかなぁ?」


ヒョイと横に首を傾ければ、そこには毛先をフワフワとさせた、いかにもお嬢様な感じの女の子が。


うわあ……これ絶対お金持ちだよね?

別荘とか何個も持ってるような、いわゆる上流階級の人ってやつ?


「えーっと、ごめんね? 名前なんだっけ? まだクラスの人の名前覚えられてなくて……」


軽く頭を下げて詫びると、ニッコリと微笑み返して。


「いいのよぉ、私まだあんまり目立つほうじゃないから。宝賀先由良ほうがさきゆい、それが私の名前です。由良って呼んで下さいねえ?」


そう言って、机の中から取り出したルーズリーフにさらさらと名前を書いて、あたしたちに見せる。

自己紹介をうけて、宮ちゃんは腕を組んでこう言った。


「どっからが名前でどっからが名字?」


あたしはどてんと盛大にこけて。


「いや今言ってたじゃん……? ほうがさき、の方が名字で、ゆいの方が名前でしょ?」


宮ちゃんは難しい顔して続けて言う。


「うちもそんなにバカじゃないから、そんぐらいは分かる。そうじゃなくて、どこからどこまでで、ほうがさきって読むんだ?」


ええ……?

普通に考えて宝賀先、でほうがさきじゃないの?

それで由良、でゆいじゃないの?


だが、アホの子宮ちゃんはこう言ったのだ。


「確かに常識的に考えて、宝賀先、まででほうがさきだろう。だがな、奏……もしかすれば、宝賀先由、と書いてほうがさきと読むのかもしれないだろう? それで、良、でゆいと読むのかもしれん……」


「宮ちゃん大丈夫?」


「ぐはっ……! 奏に心配された……」


カチューシャで露出されたおでこをおさえて悶える。

そして、立ち直った宮ちゃんは真剣な表情で。


「でも奏、常識というのは時に、非常識であることもあるんだぞ?」


「非常識なのは宮ちゃんでしょ?」


「…………」


ジト目であたしを見て、なにかを訴えかけている宮ちゃん。

でも、この場合どう考えても宮ちゃんが間違ってるもんね。

あたしも負けじと見つめ返す。


「…………」


「…………」


ぺしんと音がして、その瞬間頭に鈍い痛みが。


「痛たいよ宮ちゃん……何でいまあたしの頭殴ったの……?」


「なんかお前見てたらむかついた」


「理不尽だよ!! やっぱり非常識なのは宮ちゃんのほうじゃん!」


そうして漫才染みたことをしていると、由良ちゃんは笑いながら言った。


「うふふ……、二人とも仲がいいのねえ? 羨ましいわぁ……」


その言葉であたしたちは顔を見合わせる。

そして、互いに笑い合った。


あたしたちを少し離れた位置から見ている由良ちゃんは、笑顔を絶やさないで。


「もしかして、二人は幼馴染みか何かかしら?」


宮ちゃんは片手をパタパタとさせて否定する。


「違う違う。うちら昨日知り合ったばっかだよ?」


由良ちゃんは大きく口を開いて大袈裟に驚いてみせる。


「まあ……、昨日知り合ったばかりでこんなに仲良くなれるなんて、凄いわあ!」


宮ちゃんは照れたような顔をする。

もちろん、あたしもなんだか気恥ずかしい気分だ。


でも、そう言われてみれば、確かにあたしたちは凄いのかもしれない。

昨日出会ったばかりのに、もうこんなに打ち解けているのだから。

小中と思い返してみても、気の合う友達を見つけるのに結構時間がかかった気がするし。


もしかして……、あたしが成長したのかも?

あたしが精神的に大人になったから、こうして早くも友達ができたんだよ、きっと!

宮ちゃんが凄いとかじゃなくて、あたしが凄いんだよね!


一方――


うちは昔から友達とかすぐにできるタイプの人間だった。

それこそ、友達百人どころか友達千人ぐらいの勢いだったさ。


だけど、親友と呼べる人は一体、何人いるだろうか。

恐らく、指で数えれば、右手だけでおさまってしまうほどだ。


じゃあ、奏はどうだ?

こいつは単なる友達か?


うーん、会ったばかりだから何とも言えないけど、でも確実に親友になるだろう。

この高校生活を通して。


もしや……うちは成長したんじゃないだろうか?

人間として一回り大きくなったのだろう、きっと。

その賜物が奏という存在だ。


うん、やっぱうちって偉大だな。

奏が偉大なんじゃなくて、うちが偉大なんだ――


と、こうしてお互いによく分からない妄想をしたまま、納得するのであった。


「ところでさ、由良ちゃん。もし良かったら一緒にお昼ご飯食べない?」


なんだか大人な気分のあたしは、気前よくそう提案した。

これには宮ちゃんも異議はないようで、黙って由良ちゃんを見つめている。


「あらあら? 私なんかがご一緒してしまっていいのかしら?」


「もっちろん! ご飯はみんなで食べたほうが美味いからな!」


「そうだよ由良ちゃん! 一緒に食べようよ!」


「嬉しいわあ……それなら遠慮なくそうさせてもらうわね?」


「どうぞどうぞ」


由良ちゃんはか細い腕でゆっくりと机を運び、あたしたちの机とくっつけた。


「ドッキング完了であります、隊長!」


……え? 今なんて?

今なんか、由良ちゃん変なこと言わなかった?


慌てて隣の宮ちゃんを確認するも、あたしと同じようなに驚いている。

仕方がないので、あたしは由良ちゃんに聞いてみる。


「いま……何て言ったのかな……?」


すると、由良ちゃんはオロオロと慌てた様子。

そして何かを釈明するように言った。


「あ、あら……? あらあら? おかしいわ、この国では某ガンダムのネタを会話に織り交ぜれば好感度アップって聞いたのだけれど……?」


誰でしょうか、そんなとんちんかんな情報を吹き込んだバカは。

しかも某ガンダムってそれ、何も隠せてないんだけどな。


いやいや、そんなことより。


「あたしはその某ガンダムには詳しくないけど、多分そんな台詞はないと思うよ? それから、この国では、って今言ったけど、それってどういうこと?」


わざとらしく、ポンっと手を叩いて。


「あらあら、私まだ言ってなかったかしら? 実は私、帰国子女なんです。今までずっとスイスのほうで暮らしてて、だからまだ日本には慣れていないの」


開いた口が塞がらないとは、まさしくこのことだ。

宮ちゃんにおいては、さっきまでしっかりとつけていたはずのカチューシャが、前のほうに吹っ飛んでいったし。


「お嬢様なんだろうな、とは思ったけど、まさか……ねえ、宮ちゃん? って宮ちゃん?」


前髪が垂れ下がり、もはやこれが宮ちゃんかどうかも分からない。


「おーい、宮ちゃん? 大丈夫―?」


ハッと意識を取り戻し、ここにきてようやく慌て始めた宮ちゃん。

さっとカチューシャを装着して。


「へ、へろー? ま、まいねーむ、いず、みやこ? い、いえーす!」


「宮ちゃんしっかり!? ここは日本だよ!? しかもなんか英語ぎこちないよ!?」


ぐいっとあたしのブレザーの襟を引っ張って。


(おい、だってこいつ、外人なんだろ……? うち英語とか苦手だし、なに話していいか分かんないよ!?)


あたしにこそこそと耳打ちしてくる。

とりあえずあたしもそれに乗っかって。


(宮ちゃん、よく思い出して! さっきまで普通に由良ちゃん日本語話してたよ? だから大丈夫、日本語でコミュニケーションとればいいんだよ! それと外人じゃなくて帰国子女だから!)


(そ、そうか……)


ここでようやくひそひそ話は終了して。


「わ、悪い悪い! 帰国子女なんて初めて見たからさ! つい動揺しちゃったよ」


しばらくキョトンとしていた由良ちゃんは、何かを思いついたような顔をした。


「make yourself at home. I want to take it easy more」


「…………」


さささ、っと再びあたしを引き寄せて。


(おいおいおい! やっぱ英語じゃんか!? どうすりゃいいんだよ! なに言ってんのかさっぱりだよ!)


(お、お、お、落ち着いて宮ちゃん! 確かに今の英語だったけど、きっと簡単な挨拶だよ、あれは!)


(じゃ、じゃあお前なんか話してみろよ!)


ええ……?

なんであたしが……?


宮ちゃんに無理やり押し出されたあたしは、とりあえず適当に話してみた。


「お、おう! まい、ぶらざー! ゆーあーまいふれんど! おーけい? ん? スパスィーバ?」


しかし、まったくあたしの英語は通じなかったようで。


「…………?」


(全然だめじゃんか! ていうか、スパスィーバってなんだよ!? それはロシア語だろうが! もういい、うちが行く)


ずんずんと前に歩み寄り、何故か偉そうに宮ちゃんは言った。


「あーゆーおーけい?」


「Кaк дела?」


「ひぃぃぃぃぃぃ!! なんかまったく聞きなれない言葉話したぞ、こいつ!?」


そうして、宮ちゃんはガクガクと怯えて隅っこのほうに隠れてしまった。


うん、なるほど。

きっと宮ちゃんって外人恐怖症なんだね。


「あ、あのぉー? 私何か変なこと言いましたか?」


「日本語喋ってる!?」


「え、ええ? いちようそれなりに勉強したのよ?」


「じゃ、じゃあ何でさっきは外国語話してたの……?」


あたしの率直な疑問に由良ちゃんはさらっと答える。


「ええっと、私に外国語話してほしいのかなあ、って思ってえ……」


なるほど。

じゃあ由良ちゃんは、なんか変な誤解した結果、ああいう行動に至ったってことかな。

なーんだ、緊張して損した気分だな、なんか。


「ほら、宮ちゃん? もう大丈夫だよー?」


そう言って振り返ると、そこにはいつも通りの宮ちゃんの姿が。


「ふ、ふん……、そんなことだろうと思ったぜ。ははっ、ちょっくら騙されてやったんだよ! どうだ、参ったか由良!」


絶対嘘だよそれ。

だってあんなに怯えてたもの。


由良ちゃんは気にしないといった様子で、宮ちゃんのバカのりに便乗する。


「まあ! それは凄いわね! うふふ……なんだか、二人とお話しするのは楽しいわ」


スカートの袖をパタパタとさせ、子犬のように愛くるしい笑顔を振りまく由良ちゃん。

そんな由良ちゃんを見てあたしは思った。


もしかしたら……由良ちゃんって天然?

人口天然なんかじゃなく、これは紛れもなく純粋な天然キャラなんじゃ。


「うん? 私の顔になにかついてるかしら?」


じっと様子を観察していると、あたしの視線に気づいた由良ちゃんは言った。


「いやいや、由良ちゃんって天然なんじゃないかな、って思ってさ」


「それを言うならお前もだろうが」


あれ、あたしってそう認識されてるのかな?

ていうか、それを言うなら宮ちゃんだって……。


「な、なんだその目は……? うちは違うぞ? 断じて違う!」


「じぃ……」


「おい、擬音表現が言葉に出てるぞ……?」


なんだか微妙な雰囲気が流れたの察知したのか、由良ちゃんはすかさず話題を変える。


「と、ところで二人とも……? もう部活は決まってるのかしら?」


あ、そういえばそうだよ!

あたしは昼休みその話をしようと思ってたんだよ!

由良ちゃんナイス。


「あたしと宮ちゃんはまだ決まってないよ? 由良ちゃんはどう?」


うーんと呻って、天井を見上げる。


「それが、私もまだ決まってないの。ここの学校、色んな部活があるでしょう? だからどれにしようか迷っちゃって……」


宮ちゃんも同じように上を見て言う。


「ほんとだよなあ……、活動内容がよく分かんない部活もあるし、どうしていいか分かんねえ」


同じようなポーズをしてる二人が面白くて、あたしは静かに笑う。

って違う違う、笑ってる場合じゃないよ、あたし。


「それでさっき、新しく部活を作ろうって話になったんだけど、由良ちゃんはどう思う?」


「あはっ! それはとても面白そうだわ! ぜひやりたいわ! ねえ、宮子ちゃん?」


「そうは言ってもなあ、具体的な案が出ないと、どうしようもないだろ?」


宮ちゃんと由良ちゃんはお互いに見つめ合う形になって。


「確かにそうねえ……、活動内容はおいといて、まず部員確保が必須よね?」


「そうそう。とりあえず、うちと奏と由良の三人は集まったけど、あと一人いないと発足できないし」


「誰か、心当たりのある友達はいないのね?」


心当たり……うん、いない。

ここはあたしの地元の高校だけど、知り合いとは離れ離れになっちゃったし。


「あたしはいないかな……宮ちゃんは?」


「うちもいないよ」


「そっかぁ……」


どうしようもない事実を前に落ち込む宮ちゃんとあたし。

しかし、由良ちゃんは違った。


「それなら……一度勧誘をしてみたらいいんじゃないかしら?」


宮ちゃんは椅子の上であぐらをかき、言った。


「何も決まってないのに?」


あたしは頭の中で想像してみる――


「部員募集してまーす!」


女の子は聞く。


「なんの部活ですか?」


そしてあたしたちは一斉にこう答えるのだ。

「まだ決まってませーん――」


「って全然だめじゃん! そんな部活!」


勢いよく身を乗り出して、二人に強く言った。


「うおっ、なんだよいきなり?」


「そんなんじゃ誰も来てくれないよ!? まっと真面目に考えてよ宮ちゃん!」


「う、うちに言われても困る……、だいたい言いだしっぺはお前だろう? お前の方こそちゃんと考えろよな」


む、失礼な。

あたしだってちゃんと考えてる。


「考えてるもん!」


「じゃあ聞かせてもらおうか?」


いかにも興味なさそうな態度の宮ちゃん。

横目で由良ちゃんを見れば、期待で満ち溢れた様子である。


とりあえず右手で、由良ちゃんにピースをして、それからあたしは言った。


「うちのクラスの人にアイデアをもらう!」


「結局人任せかよ!?」


「違うよ? みんなから意見をもらって、それを参考にして考えるんだよ?」


「だからそういうのを人任せって言うんだろ……?」


なかば投げやりな感じで宮ちゃんは言った。

でもあれだよね、人の意見にケチつけてばっかりで、宮ちゃんなんも意見だしてないよね。


「それはいい考えだわ! ぜひ一度、クラスのみんなに意見を聞いてみましょう?」


あたしたちがにらみ合っていると、突然由良ちゃんはそう言った。


「え、まじで言ってるの?」


「ええ、まじです!」


「さすが由良ちゃん! あたしのよき理解者は由良ちゃんだけだよ!」


どっかの誰かさんと違って……。

でも、あたしの意見はなかなか良い筋いってるよ。

自分で言うのもなんだけど。


「んー……、っと、もう昼休み終わるな。じゃあ続きは放課後にでも」


あれ、もうそんな時間?

時計に目を向ければ、確かにもうじき昼休みが終わる時刻である。


「そうだねー、じゃあ続きは放課後!」


「ええ、そうね。それじゃあ」


机をもとに戻して次の授業の準備に取り掛かる。

それにしても、時間がこんなにも早く感じるのは久しぶりかも。

ちょっと前まで受験生だったから、毎日毎日勉強だったし。


あれ、ちょっと待って?

あたしそんなに勉強してたっけ?


塾にも行ってたわけじゃないし、これといって勉強もしてたわけじゃない。

てことは、受験生だったからっていうのは関係ないのかも。

じゃあ単純に、ここ最近時間を忘れて楽しめるようなことしてなかったってことかな。


あたしは昨日と今日の出来事を軽く振り返る。

こうやって考えると、楽しい思い出しかない。

たった二日間とはいえ、その二日間はとても充実していたと思える。


あはは、なんだか不思議だな。

宮ちゃんや由良ちゃんって今までの友達となにが違うんだろう。

違いはよく分からないけど、でも今までの友達とは確実に違う。


「奏、なにボーっとしてんだよ? もう授業始まるぞー?」


「あ、ううん。何でもない」


いけないいけない、宮ちゃんに言われちゃったよ。

さてと、午後の授業もがんばろっと――


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