四話・わだい欠いたわ(後日の面倒が襲来した五日目)
期限があった提出物を紛失してしまい、対策するのもも億劫だったぼくは、形骸化を計り、事なきを得ようとしたものの、記憶力の優れた担任教師の前では無力だったようで、罰の代わりに、作文の課題を科せられた。
文章作成は、不慣れでない。
一時期はそれなりに創作意欲が溢れていたぼくだ。入力がキーボードからペンに移行したとはいえ、苦行にはならないのだが、いかんせん。題目は特に決められていない、というのは中々苦労させられる。
高等学校に入学したぼくに、作文で苦労があるとは思わなかった、などと嘆くものの、それが解決の糸口になる訳でもない。早いうちに面倒事が終わるのなら、終わらせようとぼくは思案を展開する。
さて。
まずは題目からだ。
何にするべきか……?
勿論、担任に直接渡す物なのだから、幼稚が過ぎるアイデアには首を振ろう。……とは考えた物の、畏まった――というか賢い奴ぶった創作を晒しても、知能の低さが露呈するだけの様な気がするので、良いバランスを一番の課題にするべきだ。
程よいジョークを忘れてはいけない。が、ぼくにそのような能力は無いのが大きな問題だ。また困った。大体、ジョークとは何なのだ。好きな女性のタイプは? の問いに、人体模型です、って答えたら、沈黙するのがジョークなのだろうか? ぼくのジョークには、そんな嫌な過去くらいしかない。どうせ今回の作文でも、目の大きな女性が好きです。最近は、カマキリが愛らしくて仕方ありません。などとアホを晒す未来が見えるようだ。
ぼくは悩む。
他にも作文用紙を配られていた生徒をちらほら見かけたが、題目で既にここまでの時間をかけたのはぼくくらいだろう。
ぼくの将来の夢でも語ればいいのだろうか? 無難の様で、それはキツイ。他人にどうでもいい情報を握られると言うのは、家族でも躊躇する。こう表現してぼくの人間不信を露呈させるのもあれだけど、厚顔無恥に、お前って、○○になりたいんだっけ? とか聞かれるのは、苦痛以上に何と言えばいい。足の小指の爪になりたいです! とか、徳川将軍の一人として名前を残したいです! くらいのつまらないジョークならば何とも思わない。しかし、なぜに自分を何も知らない奴が、ぼくの将来をそれ一つに制限する様な言葉をかけるのだろうか?
いやー。決まらない。
帰宅中、自転車を漕ぎながら口笛を吹いてみても、インスピレーションは欠片も降ってこないのだ。通行人が迷惑そうにしていて、口笛を吹くのをやめた。
よくよく考えれば、ぼくが他人と会話する為に用意した話題と言うものは、皆無と言っていい。というか、何事も中途半端な奴なんだ。ぼくは。
趣味は読書だけれど、ディープな知識は無い。特技は……。一日の中で一番幸福を感じる時間は睡眠時。没個性の塊だ。
と、言う訳で。
この葛藤を文章化して載せようと思う。
タイトルは、わだい、欠いたわ。
今日のウソ
口笛を吹きながら→口笛を吹いて登校して、通行人にいやな顔をされたのは半年前。結構、ダメージが。
好きな女性のタイプは? → そんな質問をされた事があまりない。勿論、ジョークを言う程会話中にゆとりを持っていない。




