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プロローグ

「ただいま。」

 誰もいないとわかってはいるけれど、小さい頃からの習慣で自然と口にしてしまう言葉。それに返事が無い事で余計に寂しさに拍車が掛かる気がする。もう一人暮らしを始めて二年も経つというのに一向に慣れない寂しさが、疲れた体をますます重くさせる。真っ暗で冷えきっている部屋の電気を付けてソファーに座り、テレビの電源を入れる。たまたまついたニュース番組は、就職説明会の解禁を知らせるものだった。自分ももう一年経てば、テレビに映っている人達の様にスーツに身を包み必死に有名企業のパンフレットに目を通し、説明された事をメモするのに躍起にならなければいけないのだろう。考えただけでも溜息が出てしまう。その事実から逃げるようにリモコンの電源ボタンを押す。


 大学二年。後一年しか猶予が無いにもかかわらず、私は何がやりたいのか、何になりたいのかわからない。いや、正確には見つけれていない。普通の中学を卒業して普通の高校に行った私は、将来の事などまだ先の事だと、友達と毎日を楽しむ事しか頭になかった。友達と同じ様に大学に入学して、そこで見つければ良い。決めればいいと思っていた。でも、必死に見つけようとしたこの二年間。見つけるどころか、友達のやる気に満ちた夢を耳にし、焦り不安になるばかりになってしまった。もっと早くから探していれば、真剣に考えていれば見つかっていたかもしれないな。なんて思ったけど、きっと今でも見つけれないものが、今より若い私なんかには見つけられない、無理だったどろうなと苦笑がこぼれる。いつか自分だけにしかできない何かが見つかる。それが無理でもこれしかないと思える事に出会えると思っていたけど、その[いつか]は一体いつになるのだろうか。もしかしたらその時は自分には訪れないのかもしれない。また出てしまった溜息から、気持ちを切り替えるために深呼吸をして背筋を伸ばす。もしあと一年で見つからなくても、人生まだ長いんだからきっと見つかる。見つければいい。そう自分に言い聞かせる。


「よし、取り敢えず明日の授業は朝一から入ってるから早く寝よ。」


 勢いをつけてソファーから立ち上がると、まるでタイミングを見計らったかの様に携帯電話の着信音が鳴る。すぐに確認すると大学に入ってからできた友達の紗千からのメールだった。明日の授業の課題、持ち物の確認と、最後に一言遅刻しないようにと添えてあった。自分が忘れていないか確認しているのを装っているけど、これはきっと私が忘れないようにメールしてくれたんだなと思った。紗千は本当にいい子だ。私の事をいつも気にかけてくれる。申し訳ないと思いつつも、気にしてくれる事がとても嬉しい。良い友達を持てたなと思わず笑みがこぼれた。すぐにメールの返信を打ち送信し、紗千に言われた通りに遅刻しないようアラームをセットする。紗千のおかげで気分が良くなり、すぐに眠りに就けそうな気がする。そのままベッドに直行し潜り込む。疲れもあってか横になれば一気に眠気がおそってきた。明日こそ自分だけの何かが見つかるといいなと頭の隅で思いながら、抗うことなく闇に意識を手放した。

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