神様転生チートという新しい話
カッとなって書きました。
後悔はしてないです。
最近の電化製品というのは壊れやすくていけない。
スティックがポッキリポンと折れてしまったゲーム機のコントローラーを見ながら、つくづくそう思う。ちょっと興奮して力を入れただけでこれだ、まったくメーカー諸君には頑張ってもらいたいものである。私は仕方なく予備を出すと、ゲームを再開した。
今やっているゲームは新空大戦という、戦闘機でドッグファイトを繰り広げるゲームだ。圧倒的な操作性、スピード感、次世代機の高画質をフルに活かした臨場感! どれをとっても超一流の名作だ。おかげでここ最近ずーっと徹夜しっぱなし。仕事とかいろいろやばいが……そのうちなんとかしよう。
「うッ……そこから当てるか!? クソ野郎!!!!」
画面左からの不意打ち。燃料タンクに被弾、燃料ゲージがみるみる減り始めた。幸い爆発はしなかったが、敵機は未だに三機が健在だ。苦しい、とても苦しい。
堕とせるか――!
指が超高速でボタンを連打する。まさに手に汗握る状況、額から自然と汗が滴る。私の愛機は大空をエイのように滑り、敵の弾膜をするりするりと通り抜けていった。ふ、舐めるなよ。私のゲームスキルはかの高橋名人をも凌駕する!
そうしていよいよ敵機の後ろにつけた時。バキッと嫌な音がした。こわごわ手元を見ると、今度はコントローラー全体に罅が入っている。なんてことだ、また破壊してしまった! 私は泣く泣くゲームを切り上げると、精神を落ち着かせるべくハーブティーを飲む。
「ふう、やっぱり紅茶はハーブティーに限るねえ」
リラックスリラックス。ソファに深く腰掛けると、全身の力を抜いて行く。余分な力があるからコントローラーを破壊してしまうのだ。必要最低限度の力だけにしておけば、あんなことにはならない。そうして動けるぎりぎりのところまで身体の力を抜くと、私は再びコントローラーを握った。
するとその時――
「危なーい!!!!!!」
私の方めがけて、巨大なトラックが突っ込んできたのであった。
「すいませんでした、ホントにすいませんでした!」
いつの間にか果てしなく白くて何もない空間に私は立っていた。そんな私の目の前で、白いひげをたっぷりと蓄えた爺さんが土下座している。顔面は蒼白で、床に頭をこすりつけているようだ。まさか……ね。私は何となく嫌な予感がしたので、そいつに尋ねてみる。
「あの、ここはどこ? あんたは誰?」
「ここはあの世とこの世の境にある転生専用の空間でございます。転生を司る神と転生者しか来ないスペースです。私は転生を司る神の責任者でございます」
「なるほど。ってことは……もしかして私死んだの?」
「はい、大変申し上げにくいのですが……死んでおります。死因は転生トラックの衝突です」
「転生トラックの衝突って、それあんたのミスじゃないの? ふざけんじゃないわよコラァ!!」
「すいません、すいません!! トラックの暴走については完全に私どものミスであります! ど、どうかお許しを……」
「だったら、今すぐ生き返らせて」
「それはその……私どもの力では蘇生は不可能に近く……」
爺さんはそれきり口ごもってしまった。納得できない。納得できないのだが……確かにこんなおいぼれ爺さんには私の蘇生などできないに違いない。はてさて、どうしたものか。私が思案に暮れていると、爺さんがそっと紙の束を手渡してくる。
「私どもで出来得る限りの転生プランをご用意いたしました。能力などについても、可能な限りご希望に沿わせていただきます……」
「ふーん、転生させてやるから納得しろと?」
「いえ、決してそのような意図があるわけでは!!」
「まあいいわ。じゃあ転生先は剣と魔法の世界でよろしく。えっと能力はそうね……私の知ってる漫画やアニメの力全部ってことで」
「それはさすがに……」
「できないって言うの? 普通加害者って言うのは……」
少し声にドスを聞かせてみた。すると爺さんの顔がたちまち蒼くなり、額から汗が滝のように滴る。
「わかりました、わかりましたよ! できるだけ頑張らせていただきます!」
「仕方ない、納得してあげるわ」
「ふう……。では、そこのゲートに入ってください。そこから転生できますので」
「サンキュ、ではまた百年後ぐらいに」
私は爺さんの脇に出来ていた黒い渦に飛び込んだ。意識が遠のき、何処へと運ばれていくような感覚がする――。
女が去った後の転生空間。そこに一人取り残された転生神はやれやれと胸をなでおろすと、崩れるように床に腰をついた。彼は先ほど転生した女のことを考えて、大きく息を漏らす。
「やれやれ寿命が縮むかと思ったわい。魂だけでもさすがにわしらとは格が違うのう。しかし、なんであれほどの力があるのにトラックにはねられた程度で死んだんじゃろうな、最高神様」
転生神の声は誰もいない転生空間に溶けていった。中間管理職である彼の苦労はまだまだ続いたりするのだが……それはまた別のお話である。
女神様は死んで良かったと思うんだ、天界的には