第十三話 戦い
第十三話 戦い
魔じゅつしは追いかけてくるわたしたちに気づくと、チラッと横目で見てニヤリと笑った。そして、ポケットからスッとはさみを取り出して、輝沙ちゃんのつり下げられているロープをプツンと切ったのだった。
「キャー!」
そうさけびながら、輝沙ちゃんは真っさかさまに落ちていく!
「葵!輝沙ちゃんをお願い!」
わたしは葵に輝沙ちゃんをまかせ、ほうきで魔じゅつしの後を追った。
魔じゅつしを追って着いたのは、広い公園だった。
魔じゅつしはクルリとふり返ってこう言った。
「ふふ。ライナさん、あなたがわたしと勝負することになるだろうと思ってね。ここなら誰もいないし、街からはなれてるから、人間をおどろかすこともないしね。」
わたしは、ぼうしについていた黒いリボンで髪を結び、ポニーテールにした。
「おぉ、気が入ってるね。いざ、勝負!!」
いきなり魔じゅつしは、わたしに石を投げつけてきた。わたしがそれをひょいとかわすと、わたしの後ろで石がむくむくむくと大きくなった。
魔じゅつしは、
「フハハハハ。巨大石の魔だ。おまえもその木といっしょに、つぶされてしまうがよい。」
と言った。その木はさくらの木で何か見覚えがある木だった。なんて考えているうちに巨大石は近づいてくる!石はさらに大きくなり、私を追ってきた。
私は魔法を使おうとした。
「私の前の巨大石よ!!ショーメツ!!」
しかし、魔法は効かなかった。
「ハハハハハ!!カタマーレ!!」
「うっ!!」
魔じゅつしの手によって私はかたまってしまった。
巨大石はどんどん近づいてきた。
{もう少し…、もう少しでつぶされてしまう…。}
私は思った。
その時、すさまじい強風がふいた。
石は、ごろんごろんと左に転がっていった。そして、
「あんた、今日は戦う元気がないようね。魔じゅつしって言うぐらいなんだから、わたしたちに気づいて強風を止めれば良かったのに。あなた、ちょっと瞬発力にぶいんじゃなーい?そんなこともできないなんてね。フッ。」
葵がそう言って鼻で笑った。
どうやら、うちわ強風の魔を使ったらしい。足下に落ちていたうちわで分かった。
「今度はわたしたちの番よ!」
輝沙ちゃんが言った。すると、葵がポケットから小さなチップのようなものを取り出し、手のひらのチップに息をふきかけている。そして、とつぜん魔じゅつしに投げつけた。
チップは風の刃となり、魔じゅつしに向かっていく。
「バ、バリア!」
しまった。バリアをはられてしまった。はね返って2つになった風の刃がわたしたちに向かって来る。わたしは、しかたなくバリアをはった。でも、このバリアはうすいのだ。もっとあついバリアをはるのには時間がかかる。めんどうくさいんだ。
もうそろそろバリアがやぶれる。もう、たくさんのきずがついているのだ。風の刃が16個になったとき、魔じゅつしのバリアがやぶれた。
なんと、葵と輝沙ちゃんは作戦を考えていたらしい。魔じゅつしのバリアがやぶれるしゅん間を狙って、わたしたちのバリアを投げた。するとバリアと風の刃がいっしょに魔じゅつしに向かって行く。
風の刃が、魔じゅつしにつきささろうとしたその時、
「タイム!」
と、わたしはさけんだ。
葵と輝沙ちゃんは、なんで時を止めるのかとおどろいてわたしを見ている。魔じゅつしは風の刃にやられてはいなかった。でも、気ぜつしてたおれていた。
わたしは二人が作成を実行している間にあのさくらの木のことを考えていた。でもカギのかかったドアを無理やり引っぱっているように思い出せなかった。
それが今、思い出したのだ。それは昔このさくらの木の苗を植えたときのこと─。
「このさくら、きれいにさくといいね。」
「そうね。みんなでがんばって植えた木だもの。きっときれいにさくわ。」
今から6年前、わたしが3才の時にこのさくらを植えた。
その時、ママはこう言った。
「ライナ、このさくらがきれいにさくように、あなたもすてきな魔女になりなさい。魔法とはおそろしいものよ。覚えれば何でもできるもの。ライナ、たとえどんなに魔法が使えても、性格がダメじゃいい魔女とは言えないわ。どんな相手でもやさしくないと。分かった?言いたいことはまだたくさんあるんだけど、このままじゃ帰れないわね。いい魔女になるために必要なことの本をさがしておいたの。家で見てね。」
「うん。じっくり読むよ。ありがとう、ママ。」
わたしはその本を読んでみた。
~いい魔女になるために~
誰にでもやさしく。
人にやさしくすることは、すべてのことにつながる。相手の事を優先すべき。
何かにまよったら、やさしさを考えて行動せよ。
~~~~~~~~~~~~
わたしは、はたして魔じゅつしのことを考えただろうか。こうげきで相手に分からせるのは、本当にいいことなのか。
そう考えたら、答えが出てきた。こうげきではなく言葉。
わたしは魔じゅつしのそばにすわった。すると気配がしたのか、魔じゅつしがうっすらと目を開けた。
「あなたは、今まで何人の魔女を人間として送り出しましたか。」
「何言ってんだ。あいつが1人目だよ。」
「あなたはウソをついていますね。ウソをついたって、わたしは知っています。10人でしょう。そして、あなたのその行動は、本当にいいことでしょうか。」
「あぁ、いいことだよ。」
「あなたは、人間を魔法に左右されずに生きていくために、魔女をつかまえて魔力をうばい、魔女を人間として送り出そうとしたのでしょう。でも、そうすると、その子は魔法が使えなくなってしまいます。魔法しか知らなかったその子は、知らない世界でどうやって生きていくのですか?家族もいない、会えないのに!孤独な人生をおくるに決まってます。それに、魔女の家族はとても心配します。魔力をうばわれたなんて聞いたらとても悲しむでしょう。あなたは人間のことばかりです。確かに、ここは魔女の住むところじゃない。魔女が人間の生活をじゃまするのはよくない。だから、魔女も人間のために関わらないようにしているんじゃないですか!なのに…。魔女や人間の両方を考えてください!みんなのことを考えて出た答えはきっと正しいはずなのだから。」
魔じゅつしは無言だった。
その時、太陽が上ってきた。
「大変、もう朝になっちゃったわ。葵、輝沙ちゃん、ほら、帰ろう。」
わたしはほうきに乗った。
上ってきたばかりの太陽がキラキラと輝いていた。
続く…。




