大峡谷の狙撃手と、滝の集落
【第3章・世界樹防衛編、堂々開幕!】
★毎日「朝7時」更新中!★
舞台は王都から世界へ! ついに「ファストトラベル」と「新たなロマン重火器(RPG&対空ミサイル)」が解禁!
剣と魔法のファンタジー世界を、FPSのロジックで圧倒する痛快無双劇!
※第1章・第2章(王都編まで)完結済み。今からの「一気読み」も大歓迎です!
大峡谷の頂上。夜明け前の冷たい空気が、赤土の大地を静かに包み込んでいた。
「ふぅ……冷えるな」
一人早起きしたポンタは、オリジナルアカマル号の側面に回り、カチャリと装甲のロックを外した。
車体のサイドパネルが下へ開き、フラットな調理台とシンクが現れる。ポンタは魔石駆動のガスコンロのつまみを捻り、青白い火を点けた。
アウトドア仕様のケトルで湯を沸かしながら、手挽きのミルでコーヒー豆をガリガリと挽いていく。やがて、ポコポコと沸騰したお湯をドリッパーに注ぐと、香ばしく深いコーヒーの香りが冷たい空気に溶け出していった。
「美味え……。やっぱ、こういう景色を見ながらの一杯は格別だな」
ポンタは小さく息を吐き、マグカップの温もりを両手で包み込んだ。
前世の自分は、寝食を忘れてFPSゲームに命を燃やす所謂『廃人』だった。だが、決して四六時中部屋に引きこもっていたわけではない。息抜きとして大自然の中で過ごすアウトドアもこよなく愛しており、暇を見つけては愛車でソロキャンプに出かけていたのだ。
その時の記憶が、この異世界でのオーバーランドの旅と重なり、ポンタに妙な心地よさを感じさせている。
「んん……ポンタさん、おはようございます。すごくいい匂いがします……」
「おはようございますぅ、ポンタ様ぁ……ふぁあ」
コーヒーの香りとベーコンを焼く音に釣られて、エリスやミリーナたちが次々と車内から起きてきた。
「おはよう。朝飯はホットサンドだ。顔を洗ったら食おうぜ」
ポンタが調理台で手際よくチーズとベーコンのホットサンドを焼き上げていると、ふと、出来上がった皿を運ぼうとしたヒルデが目を丸くした。
「む? ニアよ、お主の肩に乗っているその鳥はなんだ?」
「んふふー。さっき、ポンタお兄ちゃんが朝ごはん作ってる時にお友達になったなのー」
ニアの肩には、鋭い嘴と美しい褐色の羽を持つ立派な猛禽類がとまっていた。
『補足。この大峡谷に生息するキャニオン・イーグルです。大きさは一般的な鷲と同等ですが、極めて高い飛行速度と、数キロ先の獲物を見つける異常な視力を持っています』
ソフィアの解説を聞きながら、ポンタは苦笑した。
朝飯を用意しているほんの少しの間に、警戒心の強い野生の猛禽類をあっさりと手懐けてしまうとは。
「よし、全員揃ったな。今日の目的地は、このレッドキャニオンの奥深くにある『オアシス』だ。ギデオンの話じゃ、そこには独自の文化を持ったちょっとした集落があるらしいからな。そこで物資の補充と――」
ポンタがホットサンドをかじりながら今後の予定を話していた、その時だった。
「……っ!!」
食事の手を止めたミリーナが、耳を覆うイヤーマフに手をかけてスッと目を閉じ、意識を集中させた。
余計な雑音を遮断し、敵意や悲鳴にのみ反応する特注の高性能イヤーマフ。それが、遥か遠方からの凄まじい悪意を拾い上げたのだ。
「ポンタ様! かなり遠くの眼下からですが……誰かが襲われている音がします! 走鳥の足音と、たくさんの魔物の叫び声です!」
「なんだと?」
ポンタは即座に立ち上がり、崖際まで走った。
アイテムボックスから高倍率の双眼鏡を取り出し、眼下の荒野を覗き込む。
ミリーナの耳が捉えた方角、ここから数キロ先の遥か下層のルートで、土煙が上がっていた。走鳥に引かせた商人の馬車が、数十匹の赤土にまみれた凶悪な小鬼――キャニオン・ゴブリンの群れに完全に包囲されている。
「見つけた。商人の馬車がゴブリンの群れに襲われてる。……ここから下へ降りるには時間がかかりすぎるな」
ポンタは双眼鏡をアイテムボックスに放り込むと、代わりに一振りの長く無骨な銃器を取り出した。
ボルトアクション式スナイパーライフル『M24』。
ポンタは崖の縁にバイポッド(二脚)を立て、冷たい岩肌に伏せ撃ちの体勢をとった。
「ここからなら、丸見えだぜ」
スコープを覗き込む。対象までの距離、数キロ。通常であれば風や重力の影響で絶対に当たらない距離だが、ポンタには頼れる相棒がいる。
(ソフィア、風速と弾道落下の計算を頼む)
『了解しました。風向、南南西。風速7メートル。コリオリの力による偏差を計算……レティクルの修正データをマスターの視覚に投影します』
スコープの視界に、ソフィアが弾き出した赤い予測着弾点が浮かび上がる。
ポンタは静かに息を吐き、トリガーを引いた。
パシュンッ!!
サプレッサー(減音器)によってくぐもった、しかし鋭い発砲音が頂上に響く。
放たれた魔力弾は、大峡谷の風を切り裂きながら一直線に落下し――数キロ先で商人の馬車に群がっていたゴブリンのリーダーの頭部を、寸分の狂いもなく撃ち抜いた。
ポンタはボルトを引き、空の薬莢を弾き出して次弾を装填する。
パシュンッ! パシュンッ!と立て続けに放たれた神業のような超長距離狙撃が、ゴブリンたちを次々と沈めていく。見えない場所からの不可視の一撃にパニックを起こした群れは、這々の体で岩陰へと逃げ出していった。
「よし、群れは散らした。だが、あの商人たちも何が起きたか分からず怯えてるだろうな。……ニア、そのキャニオン・イーグル、少し借りていいか?」
「うんなの! 鳥さん、お使いできるなの!」
ポンタはメモ帳に『群れは片付けた。俺たちはすぐ上の頂上にいる。今からそっちへ向かうから、その場で待機しろ』と書き殴り、イーグルの足に巻きつけた。
「頼んだぞ」
ニアが空を指差すと、キャニオン・イーグルは鋭い鳴き声を上げ、伝書鳩ならぬ『伝書鷲』として、一直線に眼下の商人の元へ滑空していった。
◇ ◇ ◇
その後、アカマル号で斜面を下りきったポンタたちは、無事に商人の馬車と合流を果たした。
「あ、ああ……! 崖の上からの恐るべき魔法、そして賢い鷲の使い魔……! 助けていただき、本当にありがとうございます!」
恰幅が良く、派手な装飾品を身につけた初老の男が、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながらポンタの手にすがりついた。彼はマルコと名乗った。
「あんた、こんな荒野で何をしてたんだ?」
「私は交易商人でしてな。あの先のオアシスの集落へ、王都の布や香辛料を下ろしに行く途中だったのです。代わりにこの地域特有の魔石や薬草を仕入れる予定でして」
そう語るマルコの背後には、狼の耳と尾を持った青年が、傷だらけになりながらも油断なく周囲を警戒して立っていた。彼の手には、刃こぼれした長剣が握られている。
「……護衛の冒険者は、彼一人か?」
「いえ……護衛に雇っていた冒険者たちは、先ほどの奇襲で命を落としてしまいましてな。生き残ったのは、私とこの付き人の彼だけです」
マルコは悲痛な顔で首を振った。ポンタは狼の青年を見つめる。彼の首には、奴隷紋や隷属の首輪の類はない。
「奴隷じゃないんだな」
「ええ。昔、彼が孤児だった頃に少しばかり援助しましてね。それ以来、恩義を感じて私の護衛をしてくれているのですよ。彼がいなければ、私も今頃死んでいました」
「お兄ちゃん、お耳としっぽがあるなの! ニアとおんなじなの!」
マルコの話の途中で、ニアが目を輝かせて狼の青年へと駆け寄った。
自分以外の獣人を初めて見たニアは興味津々で、青年の周りをぐるぐると回っている。青年も戸惑った様子を見せながら、ニアの頭を不器用に撫でた。
「行き先が同じなら、放っておく理由もない。俺たちのアカマル号で、あんたたちの馬車の護衛も兼ねて並走しよう。案内を頼めるか?」
「おおっ、なんと慈悲深い……! ありがとうございます、確実なルートをご案内しますよ!」
マルコの案内のもと、二台の馬車は峡谷の奥深くへと進んでいく。
やがて、峡谷を吹き抜ける乾いた風の音が、次第に地鳴りのような「轟音」へと変わっていった。
「なんだ、この水の音は……」
巨大な岩壁が真っ二つに割れたような狭い通路を抜けた瞬間。
一行の目の前に、信じられないような光景が広がった。
「こ、これは……!」
「うわぁ……! すごいですっ!」
エリスとルルが窓に張り付いて歓声を上げる。
そこには、まるでナイアガラの滝のように、広大な赤土の断崖絶壁から凄まじい水量の滝が流れ落ちていた。巻き上がる巨大な水しぶきが、太陽の光を反射して美しい虹の橋を架けている。
乾ききった大地の奥底に隠された、生命の源。
広大な滝壺の周辺には青々とした豊かな緑が広がり、そのほとりには、ネイティブ・アメリカンのティピー(円錐形のテント)のような、木と獣皮で組まれた様式の建物が無数に立ち並んでいた。
「到着しました。ここが、レッドキャニオンの恵み……『滝の集落』です」
マルコが誇らしげに振り返る。
壮大な滝をバックに佇む、独自の文化が息づく未知の集落。
大自然の神秘に圧倒されながら、ポンタたちは新たな休息地へと、ゆっくりと足を踏み入れた。
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