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救国の英雄たちと、終わらない建国祭

【第2章・王都編開幕!】

★毎日「朝7時」更新中!★

カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!

※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!


 抜けるような青空が広がる、建国祭パレード当日の朝。

 迎賓館のサロンは、かつてないほどの慌ただしさと華やかさに包まれていた。


「す、すごいです……。以前仕立てていただいた夜会用のドレスも信じられないくらい綺麗でしたけど、これは……次元が違いますね」


 姿見の前に立ったエリスが、ほうっと感嘆の溜息を漏らす。

 王宮から派遣された専属の仕立て屋たちが用意したのは、以前の高級店『金糸雀亭』の品すらも凌駕する、文字通り国家最高峰の技術と素材が注ぎ込まれた特注の『国賓用礼装』だった。


 エリスが身に纏うのは、世界樹の加護を思わせる淡いみどりの刺繍が施された、純白のドレス。一国の王女であった彼女の気品を極限まで引き出し、まさに女神のような神々しさを放っていた。


「ミリーナ様、こちらの髪飾りはいかがでしょう?」

「あ、ありがとうございます……っ。私なんかが、こんな国宝みたいなドレスを着ていいんでしょうか……」


 ミリーナは、夜空の星を散りばめたような深い蒼のロングドレスに身を包み、受付嬢時代の親しみやすさとは打って変わった、ミステリアスで艶やかな大人の魅力を醸し出している。


 ヒルデは王国の近衛騎士団長すら青ざめるほど凛々しい白銀の騎士礼服を完璧に着こなし、ルルはフリルたっぷりのドレス……のスカートの裏に、こっそり愛用のレンチを隠そうとしていた。


「こらルル! パレードにそんな油まみれの工具を持っていかないの! ドレスが台無しでしょ!」

「えーっ! だって何かあった時に困るじゃん! シルフィのケチー!」


 実体化して着付けを手伝っていたシルフィに工具を没収され、ルルが頬を膨らませる。

 そして。


「……おい。いつまで引っ張ってんだ、苦しいぞ」


 着替え用のパーテーションの奥から、心底不機嫌そうな声と共にポンタが現れた。


「「「…………っ!」」」


 その姿を見た瞬間、サロンにいた女性陣全員が息を呑んで硬直した。

 ポンタが着せられていたのは、漆黒の生地に銀の意匠があしらわれた『軍服風の特別礼装』だった。


 ただの貴族のタキシードとは違う。動きやすさを計算し尽くされたタイトなシルエットに、マントのように翻る長い裾。十二歳の少年でありながら、幾多の死線を潜り抜けてきた彼特有の『冷徹な戦士の覇気』と、この軍服風の礼装が、恐ろしいほどの化学反応を起こしていたのだ。


「ぽ、ポンタさん……すっごく、かっこいいです……!」


 エリスが顔を真っ赤にして両手で口元を覆う。


「……ふ、ふんっ! まあ、アンタにしては悪くないんじゃないの!? ちょっとは英雄らしく見えるわよ!」


 シルフィはツンとそっぽを向いたが、その尖った耳の先までリンゴのように真っ赤に染まっていた。


「みんなー! 私もお着替えしたなのー!」


 そこへ、おめかしをした可愛いワンピース姿のニアが、尻尾をご機嫌に揺らしながら駆け込んでくる。


「うふふ、皆様とてもお似合いですよぉ。さあ、そろそろ馬車がお迎えに来る時間です」


 マリーがおっとりと告げると同時に、窓の外から地鳴りのような歓声が聞こえてきた。

 いよいよ、救国の英雄たちのお披露目が始まる。


 ◇ ◇ ◇


「「「うおおおおおおっ!! 英雄万歳!!」」」

「「「アカマル! アカマル!!」」」


 王都のメインストリートは、数万の市民による熱狂の渦に包まれていた。

 色とりどりの花吹雪が舞う中、ポンタたちを乗せた六頭立ての豪華なオープン馬車が、ゆっくりと大通りを進んでいく。


「すごい人です……! ポンタさん、皆様に手を振らないと!」


 エリスやミリーナが、昨日の特訓の成果を存分に発揮し、優雅なロイヤルスマイルで歓声に応える。その美しさに、沿道からは「女神様だ!」と黄色い悲鳴が上がっていた。


「(……クソ、的当てのターゲットになった気分だぜ。ええと、愛想笑い、愛想笑い……)」


 引きつる顔筋を必死に動かし、ポンタは口角を上げた。

 だが、その目は完全にFPSで獲物の眉間に照準エイムを合わせている『冷徹なスナイパーの笑み』になっていた。昨日、儀典官を恐怖のどん底に陥れたあの表情だ。


「キャアアアアッ!! 黒髪の少年よ! あの鋭い眼差しを見て!」

「ああ! この熱狂の中でも決して浮かれず、常に周囲を警戒してくださっているのね! なんてクールで孤高な英雄様なの……っ!!」


 なぜか沿道の女性陣から、失神寸前の凄まじい歓声が巻き起こった。


『報告。マスターの威圧的かつ殺気立った表情が、群衆の好感度と興奮度を逆に120%上昇させています。……人類の心理は、私の演算領域を超えています』

「(……世の中、何がどう転ぶか分からねえな)」


 脳内で響くソフィアの呆れたような声に、ポンタは内心で深い溜息をついた。


 ◇ ◇ ◇


 パレードの終着点。王城のバルコニーからは、中央広場を埋め尽くす大群衆が見渡せた。

 国王が直々に演説を行い、帝国の陰謀を水際で防いだ『アカマル』の功績を声高らかに讃える。


「――よって此度、彼ら『アカマル』を、冒険者の最高位である【Sランク】へ特例昇格とする!」


 ギルドマスターから、ポンタたち全員の首に、選ばれた者しか持つことを許されない『黒き認識票ブラックタグ』がかけられた。

 広場の最前列でその様子を見守っていた『獅子の心臓』のレオンたちが、誰よりも大きな拍手を送る。


「あいつら……本当に一気に駆け上がりやがったな。とんでもねえ化け物たちだぜ」


 ベテラン冒険者たちの顔には、嫉妬ではなく、純粋な誇らしさと敬意が浮かんでいた。


「さらに、リーダーであるポンタよ。前に出よ」


 国王が厳かに告げ、ポンタの胸元に輝かしい勲章を身につけさせた。


 その国王の斜め後ろでは、豪奢なドレスに身を包んだセリア姫が、祈るように両手を胸の前で組み、ポンタの姿をじっと見つめていた。

 漆黒の軍服風礼装を着こなし、堂々と国王と対峙する少年の勇姿。その洗練された横顔に、セリアは頬をほんのりと朱に染め、ただただ見惚れていた。


(……かっこいい、なんて。……絶対に言ってあげないんだから)


 相変わらずのツンデレな内心とは裏腹に、彼女の熱を帯びた視線は、ポンタから一秒たりとも離せなくなっていた。


「その功績に報い、特例としてそなたに『名誉男爵』の地位を授ける。これより彼らは、我が国の誇り高き英雄である!!」


 ドォォォォンッ!!


 国王の宣言と共に、王都の空に無数の祝砲と魔法の花火が打ち上げられた。

 地を揺らすほどの万雷の拍手と歓声が、王都の空へ吸い込まれていく。それは間違いなく、規格外の少年と仲間たちが、名実ともにこの世界の頂点へと足を踏み入れた瞬間だった。


 ◇ ◇ ◇


 しかし――その三十分後。

 感動的な式典が終わり、貴族たちによる堅苦しい挨拶回り(という名のコネ作り)が始まりそうになった瞬間。


「よし。目的は果たした。ズラかるぞ」

「はいっ!」


 ポンタの合図で、彼らは『空間収納インベントリ』から取り出した地味なローブを豪奢な礼装の上からすっぽりと被り、王城のバルコニーから見事に脱走エスケープを果たしていた。


 そのまま市街地へと抜け出した一行は、お祭り騒ぎに沸く大通りで、屋台を巡っていた。


「ポンタお兄ちゃん! あそこのお肉、すっごくいい匂いがするなの!」

「おう。おっさん、このジャンボ串焼き十本くれ」

「私はあっちのリンゴ飴がいいです! ルルちゃん、一緒に行きましょう!」


 両手に串焼きとクレープを持ち、目を輝かせるニアとルル。

 誰も彼らが、先ほどバルコニーで歓声を浴びていた救国の英雄だとは気づかない。


『うわぁ! 美味しそうな匂いがいっぱいだね! ポンタ、僕にも一口ちょうだい!』

「お前は実体がないから食えねえだろ。マリーとシルフィにでも分けてやれ」


 杖から顔を出してはしゃぐユーグを軽くあしらいながら、ポンタは温かい串焼きに齧り付いた。


 最高級の屋敷も、使い切れないほどの金貨も、男爵の地位も手に入れた。

 だが、彼らにとっての『本当のご褒美』は、こうした何気ない仲間たちとの日常のバカ騒ぎなのだ。


「……ポンタさん」


 ふと、隣を歩いていたエリスが、ローブのフードを少しだけ下げて微笑みかけてきた。

 夜空には、建国祭の夜を彩る美しい魔法の花火が次々と打ち上がっている。


「最高の建国祭ですね」


 花火の光に照らされる、美しく無邪気な笑顔。

 ポンタは一口かじった串焼きを下ろし、夜空を見上げて、今度こそ誰に作らされたものでもない、自然な笑みを浮かべた。


「ああ。……悪くねえな」


 彼らの笑い声は、平和を取り戻した王都の喧騒の中に、優しく溶けていった。



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