英雄の微笑み(スナイパー・スマイル)と、白亜宮の密談
【第2章・王都編開幕!】
★毎日「朝7時」更新中!★
カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!
※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!
「ち、違います男爵閣下! もっとこう、民衆に安心感を与えるような、慈愛に満ちた柔らかな笑顔を……ッ!」
迎賓館の広いサロンに、初老の男の悲鳴のような声が響き渡った。
彼の正体は、王室から派遣されてきた超厳格な儀典官である。明日に迫ったパレードに向けて、『救国の英雄』たちに優雅な手の振り方と微笑みを叩き込むためにやってきたのだ。
「愛想よく、ねぇ……。こうか?」
言われた通り、ポンタは口角をわずかに上げて『笑顔』を作った。
しかし、その瞳の奥には微塵の笑みもなかった。それどころか、FPSゲームでスナイパーライフルを構え、遠距離からターゲットの眉間に照準を合わせている時の、絶対零度の冷徹な眼差しになっていた。
「ひぃっ!? こ、殺されるぅっ!?」
あまりの威圧感に、儀典官がガクガクと震えながら後ずさる。
『警告。マスターの表情筋から発せられる殺気が規定値を大幅に超過。対象に98%の確率で死の恐怖を与えます。スマイルの再演算を推奨します』
「(るせえ、愛想笑いなんか慣れてねえんだよ)」
脳内で淡々と響くソフィアの容赦ないAIツッコミに、ポンタは内心で悪態をついた。
「次、ヒルデ様! 手の振り方が違います! それではまるで……」
「む? こうか! さあ来い! 我が拳のサビにしてくれるわッ!」
「だからそれは闘技場での決闘の合図ですぅぅっ!」
黄金のガントレットを装着したまま、群衆(架空)に向かって闘志満々に拳を突き上げるヒルデ。儀典官が頭を抱えたその時、横から呆れたような声が飛んだ。
「ちょっとヒルデ! あんたそれ、どう見ても決闘の合図じゃないのよ! やっぱりそんなゴツいガントレット、外した方がいいんじゃない? ほんと、救いようのない脳筋ね!」
「むぐぐ……ッ! し、仕方あるまい、我は誇り高き戦士ぞ!」
いつもからかわれている鬱憤を晴らす絶好のチャンス。ここぞとばかりに逆襲を決めたシルフィは、ツンと腕を組んで心底ご満悦なドヤ顔だ。対するヒルデは顔を真っ赤にして言い返すが、どう見てもシルフィの言う通りだった。
さらにその後ろでは、ルルがリュックから奇妙な機械を取り出していた。
「ふっふっふー! だったらこれの出番だね! ルル特製『自動おててフリフリ機(ぜんまい式)』! これを背中に背負えば――」
「パレードにそんなふざけたガラクタを持ち込まないでくださいぃぃっ!」
ルルも儀典官から大目玉を食らい、しょんぼりと機械を片付けている。
「皆様、肩の力を抜いて。こうして、指先を揃えて胸元で円を描くように……『本日はありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします』」
そのカオスな空間を救ったのは、ミリーナだった。
彼女はイヤーマフに手を添えながら、洗練された営業スマイルと無駄のない美しい所作を披露した。ギルドの受付嬢時代はサボることばかり考えていた彼女だが、天性の愛嬌の良さで冒険者たちからのウケは抜群だった。いざとなれば、この手の対応は意外なほど器用にこなすのだ。
「す、素晴らしい……! なんという洗練された動き!」
「はい、ポンタさん。腕の角度はこのくらいですよ」
さらに、元王女であるエリスが、生まれ持った完璧で優雅なロイヤル・スマイルでお手本を見せる。
「おおおおおっ! まさに女神! あなた様たちだけが、私の唯一の救いです……ッ!」
儀典官は感動のあまりポロポロと涙を流し、エリスとミリーナに向かって深々と拝み倒していた。
そんな阿鼻叫喚の特訓を、少し離れたソファから見学している者たちもいた。
「エリスお姉ちゃんもミリーナお姉ちゃんも、すっごく綺麗なの! ポンタお兄ちゃんは顔が怖いなの!」
「うふふ、平和でいいですねぇ。ニアちゃん、クッキーも食べますかぁ?」
「あははっ! ポンタの顔、獲物を狙う悪役みたいだよー!」
無邪気に手を叩いて応援する(そして的確にポンタをえぐる)ニアと、その横でのんびりとお茶をすするマリー。さらにエリスの杖から飛び出し、宙をふよふよと漂いながら爆笑する精霊ユーグの声が、サロンに響き渡っていた。
「(……マジで地獄だ。誰か助けてくれ)」
ポンタの精神力が限界を迎えかけた、その時だった。
「おや、少しお邪魔だったかな」
「ルシウスのおっさん! いや、ルシウスさん!」
サロンの入り口に、ルシウスが姿を現した。ポンタにとってはまさに地獄からの救世主だった。
「ポンタ殿。国王陛下が、非公式に貴方とだけお会いしたいと呼んでおられます」
「おお! それは大変だ、すぐに行かないとな!」
ポンタはかつてないほどの素早さで立ち上がった。
「悪いなお前ら、あとは任せたぜ!」
本日一番の、嘘偽りのない清々しい自然な笑顔を浮かべ、ポンタは仲間たちの羨ましそうな視線を背に受けながら、足早にサロンから逃亡したのだった。
◇ ◇ ◇
白亜宮の奥に位置する、重厚な扉に守られた秘密の会談室。
そこにいたのは、ルシウスと、グランゼリア国王ただ一人だった。
「よく来てくれた、ポンタよ」
一国の主である国王は、玉座ではなく対等な丸テーブルにポンタを座らせると、なんと12歳の少年に向かって深く頭を下げた。
「此度の働き、見事であった。……王都と、数万の民の命を救ってくれたこと、一人の父親として、そして王として、心より感謝する」
「頭を上げてくださいよ、陛下。俺たちは冒険者としての仕事をやっただけなんで」
ポンタがTPOをわきまえた口調で淡々と返すと、国王は苦笑して顔を上げた。
「相変わらず欲のない少年だ。……君たち『アカマル』のSランク昇格はすでに手配済みだ。加えて、王都の一等地にある広大な屋敷と、莫大な金貨を恩賞として用意している。明日のパレードの場で、君に正式に男爵の爵位と領地を与えたい」
それは以前からルシウス経由で打診されていた話だった。ポンタは少しだけ困ったように頭を掻いた。
「屋敷と金貨はありがたく頂戴します。ただ、男爵の爵位については……大変栄誉なことだとは分かってるんですが、できれば辞退したいんです」
「ほう……? 理由を聞こう」
「領地の管理とか、堅苦しい貴族の義務はごめんなんです。俺は貴族の派閥争いや面倒事の処理なんかする気はないし、性に合わない。欲しいのは、仲間たちと自由に動ける特権と、面倒事を押し付けられない自由だけなんで」
王を前にしても取り繕うことのない、どこまでも自然体な本音。
その欲のなさと、国に縛られることを良しとしない圧倒的な器の大きさに、国王は満足げに深く頷いた。
「……よかろう。ならば君には、領地管理や派閥の義務が一切発生しない、特例の『名誉男爵』の地位を与えよう。さらに、これを受け取ってくれ」
国王がテーブルに滑らせたのは、漆黒に輝く一枚のカードだった。
「それはSランク専用の『ブラックカード』。ギルドでの無制限の権限と、国家間のフリーパスを保証するものだ。君たちの自由は、我が国が全力で保証しよう」
「最高の条件ですね。商談成立です、陛下」
ポンタは口角を上げ、漆黒のカードをポケットに滑り込ませた。
◇ ◇ ◇
会談を終え、一人で白亜宮の長い回廊を歩いていたポンタは、ふと足を止めた。
豪華な大理石の柱の陰で、なぜかそわそわとした様子の少女が待ち伏せしていたからだ。
「……よぉ、ワガママ姫。こんなところで何やってんだ?」
「っ!? べ、別にあなたを待ってたわけじゃないわよ!」
ポンタが声をかけると、セリア姫はビクッと肩を跳ねさせ、顔を真っ赤にして振り返った。夜の路地裏でポンタに助けられてからというもの、彼女はポンタの顔をまともに見られなくなっていた。
「た、ただ……その……」
セリアはモジモジと指先を絡ませ、意を決したようにポンタを見上げた。
「……王都を救ってくれて……ありがとう、って……言いたかっただけだから!」
消え入りそうな声で不器用に告げられた感謝。
「気にしてねえよ。ワガママ姫も元気そうで何よりだ」
ポンタはふっと笑うと、以前と同じように、セリアの金糸の髪をポンポンと乱暴に撫でた。
「っ……!? ちょっと、子供扱いしないでよねっ!」
「はいはい」
ひらひらと手を振って歩き去っていく少年の背中を見送りながら、セリアはその場にへたり込み、撫でられた頭を押さえて顔から火を噴きそうになっていた。
「……もう、バカ」
誰にも聞こえない小さなつぶやきが、静かな回廊に溶けていく。
一方、迎賓館への帰り道を歩くポンタは、沈みゆく夕日を見上げながら深いため息をついていた。
「やれやれ……明日が一番の激戦になりそうだ」
いよいよ明日は、数万の民衆が待ち受ける建国祭パレードの本番。
規格外の英雄にとっての、逃げ場のないご褒美回が幕を開けようとしていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
もし「面白い!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、 ブックマーク登録や、広告下の【☆☆☆☆☆】から評価ポイントを入れていただけると嬉しいです!
執筆の励みになります!
↓↓【☆☆☆☆☆】評価お願いします↓↓




