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帰還の朝と、大げさすぎる叙勲式

【第2章・王都編開幕!】

★毎日「朝7時」更新中!★

カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!

※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!


 王都の空が白み始め、夜明けの柔らかな光が街を包み込もうとしていた頃。

 ポンタたち『アカマル』の面々は、拠点である超特級・迎賓館の重い扉を押し開けた。


「あ、みんな! おかえりなさいなの!」


 エントランスに足を踏み入れた瞬間、ソファーで丸まっていた小さな影が跳ね起きた。

 お留守番を任せていた8歳の猫耳の獣人の少女、ニアだ。


 彼女はすっかりポンタたちに懐ききった様子でタタタッと駆け寄ってくると、ピンと猫耳を立て、細い胸を張って見せた。


「誰も入れないよう、私がちゃーんとここでお留守番してたなの!」

「ああ。お前の完璧な道案内のおかげで、王都が助かった。立派な仕事だったぜ、ニア」


 ポンタがしゃがみ込み、猫耳の間の髪を優しく撫でてやると、ニアは「えへへ……なの」と嬉しそうに目を細めた。


 ――きゅるるぅ〜。


 直後、静かなエントランスに彼女の盛大な腹の虫が響き渡り、皆から温かい笑い声が漏れた。


 ◇ ◇ ◇


 数十分後。

 迎賓館のダイニングには、温かい朝の陽ざしとスープの良い匂いが満ちていた。


「まったく、泥だらけで帰ってきちゃって。ほら、冷めないうちにさっさと食べなさいよね」

「うふふ、たくさん作りましたからねぇ」


 腹を空かせていた一同は、ひとまずお風呂は後回しにし、エリスの便利な『洗浄魔法クリーン』でサクッと全身の泥と汚れを落としてから食卓についていた。


 呆れたように腰に手を当てるシルフィと、おっとり微笑むマリー。

 エプロン姿で実体化した精霊姉妹が、エリスやミリーナと共に手際よく食事を並べていく。


 テーブルに着いたニアは目を輝かせ、両手で大きなパンをむんずと掴むと、背中の尻尾をご機嫌に揺らしながら、猛烈な勢いでシチューを平らげていた。


 そんな和やかな食卓の端で、カチャリ、と小さな金属音が鳴った。

 ポンタがジト目で視線を向けると、ルルがポケットからコソッと『巨大ジャマーの配線と歯車の一部』を取り出し、ニヤニヤと眺めていた。


「……おい、ルル。地下を出る時、王国の調査団に任せろって言ったよな?」

「!?ち、 違うよ師匠! これはガラクタじゃなくて……そう、最新鋭のバターナイフだよ!」


 ルルは誤魔化すように、油まみれの歯車でパンにバターを塗る真似をした。

 それを見ていたヒルデが、腕組みをして不思議そうに小首を傾げる。


「ルルよ。お主、食事にそんな機械の部品を使うとは……さては鉄分でも欲しいのか? ならば我がガントレットでそのガラクタを削って、スープに振りかけてやろうか?」

「ひ、ヒルデ!? いや、大丈夫だよー! えっと、これは……ッていうか削らないで! 鉄粉スープとか絶対お腹壊すから!」


 豪快かつ天然ゆえに「本気でやりかねない」ヒルデの提案に、ルルは慌ててガラクタをポケットに突っ込んで隠した。

 その漫才のようなやり取りに、食卓はどっと笑いに包まれる。


「ん……おいし……ふぁ……」


 その笑い声の隣で。

 お腹がいっぱいになり、心底安心しきっているニアが、スプーンを握ったままコクリと船を漕いだ。

 そして、そのまま横にいたポンタの腕にコテンと寄りかかって、スヤスヤと無防備な寝息を立て始めた。


「……食ってすぐ寝ると牛になるぞ」


 ポンタは口では呆れながらも、静かに微笑み、自分の上着を外して小さな肩にそっと掛けてやった。


 ◇ ◇ ◇


 それから、数日の時間が流れた。


 激闘の疲れを癒やすように、迎賓館ではゆったりとした穏やかな日々が続いていた。

 王都がすっかり落ち着きを取り戻し始めた、ある日の午後。


 迎賓館のサロンでくつろいでいたポンタたちの元へ、大魔導士ルシウスが数名の騎士と共に訪ねてきた。


「ゆっくり休めましたかな。此度の極秘任務、改めて感謝します。君たちがいなければ王都は火の海になっていました。」


 ルシウスは深く頭を下げた後、居住まいを正して本題を切り出した。


「さて、君たちが王都へ来た本来の目的――『Sランク昇格』および『男爵への叙勲式』の件ですが」


 本来、それは王宮内で厳かに、一部の貴族のみを集めて行われる予定だった。


「国王陛下の鶴の一声で変更されました。事態が落ち着いた数日後に、延期された建国祭のパレードと君たちの叙勲式を合同で行い、『救国の英雄』として民衆の前で大々的にお披露目することになりました」

「……はぁ!?」


 静かに叙勲だけ済ませて帰りたかったポンタは、盛大に顔をしかめた。


「なんで俺がパレードのメインディッシュみたいになってんだよ! めんどくせえ……」

『おっ! エルフのギルド長さんだ! 今日も肩書きばっかりで堅苦しいね!』


 ポンタがぼやいたその時、エリスの持つ聖樹の杖から、半透明の精霊ユーグがひょっこりと顔を出した。


「お、おおおおおおっ! 世界樹の若枝様ッ!」


 先ほどまでの理知的な大魔導士の顔は一瞬で消え去った。

 ルシウスはエルフの矜持をかなぐり捨て、床にめり込むほどの凄まじい勢いで『土下座』をした。


「本日も麗しき御姿、この卑小なエルフの目に焼き付けさせていただきますぅぅっ!」

「(……相変わらず、キャラ崩壊がひでえな)」


 ポンタが呆れた目を向けていると、そこへお茶の乗ったトレイを持ったマリーとシルフィがやってきた。


「あらぁ。うふふ、ユーグ様もお茶はいかがですかぁ?」


 マリーはルシウスの土下座など気にする様子もなく、いつもと変わらぬおっとりとした笑顔でユーグにティーカップを勧める。


「ち、ちょっとマリー! ちゃんとユーグ様に挨拶しなさいよ!」


 慌てたシルフィがトレイをテーブルに置き、その場でサッと片膝をついて、背筋を伸ばした騎士のような敬礼の姿勢をとった。

 月の魔力(ルナ一族)との親和性で『上位精霊』へと至った彼女たちにとっても、本来なら精霊の頂点であるユーグは畏れ多すぎる存在なのだ。


『あー、そういうのいいから気楽にして〜、二人とも! ジャマーの切断お疲れ様! ポンタもエリスも、すっごくかっこよかったよ!』


 しかしユーグ本人は、畏まるシルフィをひらひらと手で制し、のびのびと宙を泳ぎながらフレンドリーに笑いかけた。


「(な、なんと……ッ!)」


 ルシウスは土下座の姿勢のまま、隣でお茶を勧めるマリーと片膝をつくシルフィから放たれる『規格外の魔力』に気づき、滝のような冷や汗を流していた。


 彼らエルフが神と崇める『世界樹の若枝』。そして、大魔導士の自分でさえ恐れおののく強大な『上位精霊』たち。

 そんな至高の存在たちが、無邪気にイレギュラーな少年を慕い、まるで家族のように温かいやり取りを交わしている。


 そのあまりにも常識外れな光景に、ルシウスの理知的な頭脳は完全にショート寸前だった。


「ほら、ルシウスが引いてるぞ。さっさと杖に戻れ」

『えー、ポンタのケチー!』


 ポンタが軽くユーグを小突いて杖に引っ込めさせると、ルシウスは信じられないモノを見る目でポンタを見上げた。


「……君という存在は、本当に底知れない」

「買い被りすぎだ。それより、パレードは辞退――」


「すでに王室専属の儀典官が、パレード用の『英雄としての優雅な手の振り方』や『民衆への微笑み方』を指導するため、こちらに向かっています。逃げられませんよ、男爵閣下」


ルシウスがいつもの理知的な笑みを取り戻して告げると、エリスやルルたちが「ポンタさんの優雅な微笑み……!」「えへへ、師匠の引きつった顔が目に浮かぶね!」と嬉しそうに盛り上がり始めた。


 ソファで丸まって昼寝をしているニアを起こさないよう、小さな声で悪態をつきながらテーブルに突っ伏すポンタ。

 規格外の英雄の、ひどく憂鬱で、しかしどこまでも賑やかな午後が始まっていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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