微笑みの断頭刃(ウォーター・ギロチン)
【第2章・王都編開幕!】
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カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!
※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!
「――撃ち抜け、マリー!!」
ポンタの号令が地下空間に響き渡った瞬間。
水精マリーは、いつものおっとりとした微笑みを浮かべたまま、紡ぎ出された致死の魔法名を口にした。
「はぁい……こんな悪い子はお豆腐みたいに切っちゃいます。
『水精の断頭刃』」
放たれたのは、極限まで圧縮された一本の極細の『水』のレーザー。
それは轟音も、派手な爆発も起こさなかった。ただ「チィィィンッ……!」という、鼓膜を劈くような恐ろしい高周波音だけが暗闇を走る。
次の瞬間。
分厚い魔鋼石で覆われていた巨大ジャマーの装甲と、その奥にある中枢コアが、まるで熱したナイフでバターを切るように、音もなく斜めにズレて滑り落ちた。
「……なっ」
四肢を破壊され、床に転がっていたサイボーグ幹部・ヴァイパーが絶望に目を見開く。
「あの対魔力装甲を……ただの水で、斬っただと……!? 化け物め……ッ!」
真っ二つに両断されたジャマーは、不気味な赤光を数度明滅させた後、完全に沈黙した。同時に、無数のカプセルに繋がれた生体バッテリーからの魔力抽出も強制的に停止する。
ポンタの「地下を崩落させない」という制約の中で、単体への貫通力・切断力に全てを全振りしたマリーの規格外の狙撃が、帝国の野望を完全に断ち切った瞬間だった。
◇ ◇ ◇
同じ頃、地上。
王都の外壁に位置する巨大な正門が、帝国軍の破城槌によってついに打ち破られた。
ズドォォォォンッ!! という鼓膜を揺らす轟音が、王都中に響き渡る。
華やかな建国祭が行われていた市街地では、突如として鳴り響いた破壊音と、遠くから聞こえる帝国軍の鬨の声に、パレードの音楽がピタリと止んだ。
「な、なんだ!? 敵襲か!?」
「門が破られたぞ! 帝国が攻めてきた!!」
お祭りムードから一転、数万の市民たちの間に絶望とパニックが広がりかける。
しかし、その混乱は即座に鎮圧された。
「落ち着きなさい! 事前の手配通り、指定の地下避難所へ速やかに移動を!」
「我々王国騎士団と冒険者ギルドが、命に代えてもこの内壁は抜かせない! 慌てず誘導に従うんだ!」
大魔導士ルシウスの事前の采配により、市街地の各所に配備されていた騎士や冒険者たちが、見事な連携で市民の避難誘導を開始したのだ。
ポンタの「帝国は必ず来る」という言葉を信じ、最悪の事態を想定して避難経路を確保していたルシウスの準備が功を奏した。この迅速な対応により、暴動や群衆雪崩による死傷者はゼロ。
建国祭は一時中断となったが、誰もが「後日、平和を取り戻して必ずまたこの祭りをやり直せる」と信じ、整然と避難していった。
そして――市民が完全に避難を終え、もぬけの殻となった内壁のさらに外側。外壁と内壁の間に設けられた、広大な防衛用広場(緩衝地帯)。
歓声を上げ、意気揚々とそこへなだれ込んできた数千規模の帝国先遣部隊は、異変に気付いた。
「……おい、なんだこの静けさは。なぜ誰もいない?」
「チッ、内壁も固く閉じられているぞ! 構わん、魔法部隊で城門を吹き飛ば――」
先遣部隊の隊長が指示を飛ばそうとした、まさにその時だった。
ブゥゥゥンッ!!
突如、上空が眩い光に包まれ、巨大な光のドーム――『世界樹の結界』が瞬時に復活したのだ。
それも、外壁のすぐ内側をなぞるように。
「な、なんだと!? なぜ結界が復活する!?」
「た、隊長! 城外で待機していた主力軍が、結界に弾かれて入れません! 我々だけで完全に分断されました!!」
結界内に侵入した数千の先遣部隊は、後続との連携も退路も完全に断たれ、巨大な檻の中に閉じ込められてしまったのだ。
「見事です、ポンタ殿。……まさか本当に、あの巨大な帝国軍を完全に『罠』にハメてみせるとは」
内壁の上からその様子を見下ろしていたルシウスは、少年の描いた恐るべき軍略に改めて戦慄していた。
帝国に「あえて結界を破らせて」侵入させ、一歩も退けない閉鎖空間に誘い込んだ上で、即座に結界を復活させて蓋をする。あまりにも完璧な『分断包囲』戦術。
「全軍、攻撃開始! 一人の敵も内壁に入れるな!!」
ルシウスが高く掲げた大魔導士の杖を振り下ろす。
それを合図に、内壁の上や広場を囲む塔に潜んでいた王国騎士団と冒険者ギルドの精鋭たちが、一斉に魔法と矢の雨を降らせた。
「ぎゃあぁぁっ!?」
「防げ! 盾を持て! ひぃっ、退路がないぞ!?」
陣形も崩壊し、逃げ場もない帝国兵たちは為す術なくバタバタと倒れていく。
王都の入り口は、帝国にとっての完璧な死地と化していた。
◇ ◇ ◇
「……馬鹿な。ジャマーが破壊され、ヴァイパーもやられたというのか。なぜ、完璧だった我々の計画がこうも脆く……ッ!」
復活した結界のすぐ外側。
主力軍と共に待機していた暗殺部隊のトップ『シャドウ』は、忌々しげに舌打ちをした。漆黒の装束に身を包んだ、細身で冷酷な美貌を持つ女性幹部だ。
彼女の脳裏に、かつて迎賓館を襲撃した際にポンタに良いようにあしらわれた屈辱が蘇る。さらに、事前の夜会での会話がフラッシュバックした。
「……思えば、あの夜会。奴はあの時すでに、地下水道の入り口について触れていた。まさか、あの時点から我々の作戦を完全に見破っていたというのか……! くっ、どこまでも忌々しい小僧だ……!」
シャドウは妖艶な口の端を歪め、凄まじい殺気を滲ませる。
「よかろう。この借りは必ず返すぞ、イレギュラー」
彼女は被害がこれ以上拡大する前に、即座に帝国軍の主力に撤退の指示を出した。こうして、建国祭を狙った帝国の恐るべき侵略作戦は、王都の土を踏むことすらなく水際で完全に防がれたのであった。
◇ ◇ ◇
地下遺跡。
ジャマーが沈黙したことで、残存していた帝国兵たちも完全に戦意を喪失し、『獅子の心臓』のレオンたちが容易く武装解除を進めていた。
「おいおい……俺たちは陽動で暴れてただけだぞ。たった数分で敵のボスを落として、戦争を終わらせやがった」
レオンは、綺麗に両断された巨大な機械と、手も足も出ずに捕縛されたサイボーグ幹部を見て、額の冷や汗を拭った。
「俺たちAランクが聞いて呆れるぜ……。こりゃあ、お前らが近々Sランクに昇格するって話も納得だな」
レオンたちベテラン冒険者の瞳には、もはや子供扱いする気配は微塵もなく、『アカマル』というパーティへの底知れぬ畏怖と敬意が宿っていた。
「ふぅ……終わりましたね」
後衛でマリーの召喚を維持していたミリーナが、着けていたイヤーマフの位置を直しつつ、安堵の息を吐く。
『マスター。ジャマーの完全沈黙、および地上の結界再展開を確認。戦術目標の達成率は100%です』
ポンタの脳内で、ソフィアが淡々と冷徹な報告を上げる。
『おっこのチャンネルだね! 君、ポンタの頭の中にいるのかい? すごく正確で理知的な精神体だね! でもでも、僕の古代防壁の知識も役に立ったでしょ!?』
突如、ポンタの脳内通信に、精霊ユーグの念話が割り込んできた。高位精霊である彼は、エリスを通じてポンタの精神に直接リンクし、ソフィアの存在を知覚したのだ。
『……肯定します。未知の精霊個体のバイパス提案により、作戦の進行速度が14.2%向上しました。マスター、彼の戦力評価を上方修正することを推奨します』
『やったー! 褒められた! もっと褒めて!』
「(……お前ら、案外いいコンビだな)」
端から見れば、ポンタとエリスの杖がただ無言で見つめ合っているだけの光景だが、ポンタの脳内ではAIと古代精霊の奇妙で高度なやり取りが交わされていた。ポンタは思わず内心で苦笑いをこぼす。
「師匠! ジャマーの残骸、あとで分解して部品持って帰ってもいい!?」
「駄目だ。それは王国の調査団に任せろ。お前はすぐゴミ……いや、ガラクタを拾おうとするからな」
「むぅ、ケチ!」
頬を膨らませるルルを横目に、ポンタは四肢を縛り上げたヴァイパーを軽々と担ぎ上げた。
「エリス、ヒルデ、怪我はねえか?」
「はい! 私はかすり傷一つありません」
「主殿のおかげだ。我ら『アカマル』に死角なしですな。此奴の運搬は我にお任せ下さい。」
ヒルデが黄金のガントレットを打ち鳴らし、誇らしげに笑う。
「よし。じゃあ、ミッション・コンプリートだ」
ポンタは暗い地下水道の出口――地上へと続く道を振り返った。
「さっさと帰ろうぜ。迎賓館でニアが心配して待ってる。早く顔を見せて、安心させてやろう」
(いずれ再開されるであろう建国祭のパレードで、自分たちが『救国の英雄』として熱狂的な歓声を浴びることになるなど、この時のポンタは知る由もなかった――)
かくして、規格外の少年と仲間たちによる、王都の命運を懸けた裏の戦いは幕を閉じた。
地上で待つ、平和な日常の場所へ向かって、彼らは足を踏み出した。
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