2面作戦と、獅子の咆哮
【第2章・王都編開幕!】
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カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!
※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!
ヘドロの臭いが微かに漂う、王都の地下水路。
暗く冷たい石造りの通路を、二つのパーティが息を潜めて進んでいた。
「(……信じられねえ。本当にただの子供か、こいつら?)」
『獅子の心臓』の斥候であるガルドは、最後尾から前方を歩く『アカマル』の面々を見て、内心で舌を巻いていた。
足場は悪く、少しでも気を抜けば水音を立ててしまう環境。それなのに、先頭を歩く小柄なルルと、最後尾で周囲を警戒するポンタの足運びは、あまりにも洗練されていた。まるで足裏が地面に吸い付くかのように、一切の環境音を立てていないのだ。
やがて、水路の出口付近。
一行の前に、重厚な『魔力式の防爆隔壁』が立ち塞がった。
「チッ……帝国軍が無理やり配線を弄った痕があるが、元のロックが複雑すぎて開けられなかったらしいな」
ガルドが舌打ちをする。力技で破壊すれば、巨大な音が響き渡り敵に気づかれてしまう。
『あー、これは第3紀の古代魔力配列だね。帝国のお馬鹿さんたちには解けないわけだ』
エリスの持つ聖樹の杖から、半透明の精霊ユーグがひょっこりと顔を出した。
『右から三番目の魔力線を、上の水属性の回路にバイパスすればいけるはずさ』
「……いけるか、ルル?」
ポンタの短い問いかけに、ルルは真剣な表情で頷いた。
「うん、ユーグの言う通りに繋ぎ変えればいけそう! 任せて!」
ルルが隔壁のパネルの前に歩み寄り、自身のユニークスキルを発動させる。
「――『技工の神髄』!」
ルルの琥珀色の瞳が機械的な光を帯びる。ユーグの古代知識と、ルルのチート級の分解・構築スキルが融合した瞬間だった。
ルルがパネルの隙間に指を滑らせ、見えない魔力線を数本弾く。
ガコンッ、プシューーーッ……。
絶対に開かないはずの古代の防爆隔壁が、何の抵抗もなく無音でスライドした。
「嘘だろ……?」
「これが『アカマル』……」
唖然とするレオンやフレヤたちをよそに、ポンタは「よくやった」と短く労い、銃を構えたまま隔壁の先――巨大な地下空洞へと足を踏み入れた。
◇ ◇ ◇
隔壁の先に広がっていたのは、おぞましい狂気の光景だった。
広大な古代遺跡の中央。そこには、無数のパイプがのたうち回る巨大な『魔導式結界粉砕機』が、不気味な脈動音を立ててそびえ立っている。
だが、レオンたち『獅子の心臓』の面々が息を呑んだのは、その機械そのものではない。
「……ッ! な、なんだあれは……!?」
大盾使いのボーマンが、思わず呻き声を上げた。
ジャマーの周囲には、何十もの透明な『魔導カプセル』がずらりと並べられていた。
その中には――人間が。神隠しに遭った旧市街スラムの住人たちが、無数の管に繋がれ、生きたままミイラのように干からびていたのだ。
「あれは……人間の生命力を強制的に抽出して、ジャマーの動力源にする『生体バッテリー』だ」
ポンタが冷徹な声で事実を告げる。前回、ルルと共にこの場に潜入した時に目撃した、帝国の非道なシステムの全貌だった。
「外道が……! 罪のない民草を、機械の部品扱いだと……ッ!?」
レオンがギリッと奥歯を噛み締め、大剣の柄を握る手に怒りの筋を浮かばせる。癒し手のシーラは、あまりの惨状に口元を押さえて目を伏せた。
『――ポンタ殿、聞こえるか』
その時、ポンタの脳内に直接、静かな声が響いた。
ルシウスからの『念話』による通信だった。
(ああ、聞こえてるぜ、ルシウス)
ポンタは無表情のまま、脳内通信で応答する。
この『距離無制限・無詠唱・無遅延・傍受不可』という常識外れの戦術通信を初めて披露した時、ルシウスは、アルメニア領主でありギルドマスターも兼任するギデオン以上に激しく動揺した。
『……念話、ですか。魔力の波長すら一切感知させず、これほどの遠距離を繋ぐ通信魔術など……私の知る限り、古代の文献にすら存在しませんよ。君は本当に、底知れないお方だ』
魔道を探求し、その深淵を覗く者だからこそ、この魔術の異常性を誰よりも深く理解し、静かに戦慄していたのだ。
『地上は予定通り、敵主力軍の包囲網の構築が完了しました。あとはジャマーの起動を待つのみです』
(了解した。こっちも中枢の前に到着してる。ジャマーが起動し、敵の大軍が完全に結界内(罠)に入り込んだタイミングで……コアをぶっ壊す)
通信を切り、ポンタは視線をジャマーの周囲へ向ける。
多数の帝国兵に加え、古代遺跡から発掘・改造された重装甲のゴーレム部隊。そしてその奥には、ポンタが以前交戦した暗殺部隊『シャドウ』の幹部らしき、全身を機械化した異様な剣士が腕を組んで立っていた。
「……作戦通り、部隊を二つに分ける」
ポンタは『獅子の心臓』の面々を振り返った。
「俺たちが中枢を叩く。レオン達は派手に暴れて、敵の目を惹きつけてくれ」
「ふっ……任せな。子供にばかりいい格好はさせねえよ」
レオンが凶悪な笑みを浮かべ、大剣を肩に担ぐ。
「帝国の外道どもに、王都のAランクがどれだけ恐ろしいか、たっぷり教えてやる」
ズゥン……ッ!!
その瞬間、地下空間全体が大きく揺さぶられた。
巨大ジャマーの中央塔が禍々しい赤光を放ち、周囲の魔導カプセルから一斉に莫大な生命力が吸い上げられる。
地上の『結界』が消滅し、帝国軍が罠に足を踏み入れた合図だった。
「今だッ! 行くぞお前ら!!」
レオンの咆哮と共に、『獅子の心臓』の五人が正面から堂々と突入した。
「喰らいなさい! 『爆炎の嵐』!!」
フレヤの放った極大の炎が帝国兵の陣形を吹き飛ばし、レオンの大剣が重装甲ゴーレムを一刀両断にする。ボーマンの鉄壁の盾が敵の反撃を弾き、シーラの支援魔法が味方を強化し、ガルドが死角から次々と敵を仕留める。
「な、なんだ貴様らは!?」
「迎撃しろ! ジャマーに近づけるな!!」
Aランクパーティの圧倒的な猛攻に、帝国軍とゴーレムの注意が完全に彼らへと釘付けになった。
◇ ◇ ◇
「(……引っかかったな)」
喧騒と爆炎の死角。
ポンタは光学迷彩に身を包み、サプレッサー(消音器)付きのハンドガンを構えながら、中枢への最短ルートを滑るように進んでいた。
シュガッ! シュガッ!
「……ッ!?」
暗闇から放たれた不可視の銃弾が、立ち塞がる兵士たちの眉間を音もなく正確に撃ち抜いていく。
「姫様、ご無理はなさらぬよう!」
「はいっ!」
ヒルデが大剣で道を切り拓き、ポンタとエリスの背後を完璧にカバーする。
「ルル、ミリーナ! コアの前に出るぞ!」
「了解!」
ポンタの指示で、ミリーナが杖を構え、精霊マリーをこの場へ喚び出すための『召喚魔法陣』の展開を開始した。
中枢はもう目の前だ。
「――ネズミが紛れ込んだと思えば。貴様か、我々の計画を邪魔する『噂のイレギュラー』というのは」
突如、強烈な殺気がポンタたちの行く手を塞いだ。
ジャマーのコアの前に立ち塞がったのは、全身の半分以上を機械化した『シャドウ』の幹部だった。その手には、高周波の魔力を纏った不気味な刃が握られている。
「ミリーナ、そのままマリーの召喚準備を続けろ! ルル、ヒルデ……エリス、行くぞ!」
ポンタはハンドガンを幹部の眉間にピタリと合わせ、不敵な笑みを浮かべた。エリスもまた、震える両手に力を込め、ポンタと肩を並べて杖を構える。
巨大なジャマーの脈動音と、遠くで響くAランクパーティの激戦の音が交差する中、規格外の少年と帝国幹部との死闘の火蓋が切って落とされた。
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