炎の記憶と、黄金の盾
【カクヨムコン参加中の話題作、ついに「なろう」解禁!】
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日が暮れ始め、森が深い藍色に染まる頃。 俺たちは川沿いの開けた場所で野営をすることにした。川のせせらぎが心地よいBGMになっている。
「よし、ここにするか」
場所を決めたはいいが、ふと重大な問題に気づいた。 俺たちはテントを持っていない。それに、食材はあるが、手足のない俺がどうやって調理をする? エリスに任せるにしても、彼女も疲れ切っている。
(……しまったな。勢いで野宿にしたが、準備不足だったか?)
俺が焦りを感じていると、脳内でソフィアの涼やかな声が響いた。
『提案。マスター、『ストレージ(倉庫)』内の未開封データを展開してください』 (あ? 未開封データ?) 『はい。貴方の前世のアカウントデータから、戦闘に関与しない「支援アイテム」および「サブスキル」の移植が完了しました』
その言葉に、俺は色めき立った。
(マジか! ってことは、俺が愛用していた最強スナイパーライフル『SR-99』も取り出せるのか!? あれがあれば無双できるぞ!) 『否定。こちらの物理法則と異なる「地球製の武器」は物質化できません。』 (……あ?) 『この世界において、貴方自身が最強の武器です。過去の遺物に頼るのではなく、現地の能力(MOD)を奪取し、貴方だけの兵装を構築してください』 (……なるほどな。持ち込み武器での「強くてニューゲーム」は無し。「現地調達」で強くなれってことか。……ハッ、望むところだ。その方がゲーマー魂が燃えるぜ)
俺は納得し、インベントリの「支援アイテム」リストを開いた。 そこには、戦闘用ではないが、便利なあのセットがあった。
「エリス、ちょっと離れてろ」 「えっ? はい……」
俺はインベントリから、そのアイテムを取り出し、地面に放り投げた。
「展開! 『戦術野営キット(タクティカル・キャンプセット)』!」
ボンッ!
小気味よい音と共に、煙が晴れると、そこには高機能な迷彩柄のテントと、焚き火台、折りたたみ椅子が一瞬にして展開されていた。
「ええっ!? お家が一瞬で……!?」
目を丸くして驚くエリス。 だが、驚くのはまだ早い。次は飯だ。
(ソフィア、料理はどうする? 包丁も握れねぇぞ) 『回答。ゲーム内の「簡易クラフト(素材合成)」システムを応用します。食材を選択し、完成品をイメージしてください。工程は魔力で自動化されます』 (なるほど、ゲームと同じで「混ぜてボタンポン」でいいってことか。便利すぎるぜ!)
俺はさらに、狩った食材を空中に放り投げた。 スキル【簡易クラフト(クッキング)】発動。 俺の視界に『Cooking...』のプログレスバーが出現し、高速でゲージが溜まっていく。
ピコーン♪
軽快な電子音と共に、大鍋いっぱいに湯気を立てる『スリープ・ファンガスとファイア・バードの特製クリームシチュー』が完成した。 香ばしい鶏肉の脂と、キノコの芳醇な香りが森に広がる。
「さあ食え。温かいうちにな」 「い、いただきます……」
エリスは恐る恐るスプーンを口に運び、一口食べた瞬間、カッ!と目を見開いた。
「……んんっ!! おいしいっ! キノコの出汁がすごく濃厚で、お肉もホロホロで……こんな美味しいシチュー、初めてです!」 「へへっ、だろ? 俺は食わねぇから、全部お前の分だ。遠慮なく食え」
焚き火を囲み、ハフハフと白い息を吐きながらシチューを頬張るエリス。その幸せそうな横顔を見ていると、ふと彼女がポツリと呟いた。
「……野営って、こんなに楽しいものだったんですね」 「ん? やっぱり前のパーティじゃ、こんな風には扱われなかったか」 「……はい。『鉄の牙』にいた頃は、私はテントに入れてもらえなくて。雨の日は泥の上で、冷たくて硬いパンを齧りながら朝を待っていました。それが冒険者の当たり前だと思ってたんです」
俺は内心で盛大に舌打ちした。やっぱりあいつら、ただのクズじゃねぇか。ブラック企業の上司でももう少しマシな扱いをするぞ。 だが、エリスは焚き火の炎を見つめながら、どこか遠い目をして穏やかに微笑んだ。
「あの頃は、夜が来るのが怖かった。暗くて、寒くて……また、あの日のことを思い出してしまうから」 「あの日?」 「……はい。私の国が、焼かれた夜のことです」
エリスの視線は、焚き火の揺らめきを通して、3年前の記憶へと飛んでいた。
――3年前。 聖王国アイギスの王都は、紅蓮の炎に包まれていた。 石造りの城壁が、帝国の魔導兵器によって紙細工のように砕かれる轟音。 人々の悲鳴と、肉が焦げる異臭が充満する夜。
当時14歳だったエリスは、王城の地下深くに張り巡らされた脱出用水路にいた。 冷たい石の床。響き渡る軍靴の音。 彼女の手を引いていたのは、幼い頃から母親代わりだったメイド婦長だ。
『姫様、こちらへ! 急いで!』
婦長は震える手で、古びた小舟にエリスを押し乗せた。
『マリア! あなたも乗って!』
エリスが叫ぶが、婦長――マリアは首を横に振り、岸にある鉄格子のレバーを引いた。 ガシャアンッ!! 重厚な鉄格子が落下し、エリスとマリアを隔てる。
『私はここまでです。追っ手を引きつけます』 『嫌っ! 開けて! 一緒に逃げてよマリア!!』 『姫様……どうか生きて。生きて、この国の希望を繋いでください』
その時、通路の奥から帝国の兵士たちが現れた。 鈍く光る鎧。手には血に濡れた槍。 マリアはスカートの裾を破り捨て、隠し持っていた短剣を構え、鉄格子の前に立ちはだかった。
『ここから先は通しません!!』 『マリアァァァッ!!』
水流に乗って遠ざかる小舟。 エリスの視界の端で、マリアの白いエプロンが鮮血に染まるのが見えた。 無慈悲な槍が、彼女の胸を深々と貫いたのだ。
それでもマリアは、崩れ落ちるその最期の瞬間まで、エリスから目を逸らさなかった。 口元から鮮血を溢れさせながらも、彼女は泣き叫ぶエリスを安心させるように、いつもの慈愛に満ちた笑顔を向けていた。
そして、遠ざかる視界の中で、彼女の唇が微かに動くのをエリスは見た。
『――どうか、生きて』
エリスが小さく体を震わせ、我に返る。 目の前には、あの日の地獄の業火ではなく、パチパチと燃える優しい焚き火があった。 そして、冷たい水路ではなく、心配そうにこちらを見つめる、丸くて赤いダルマがいた。
「……ごめんなさい、暗い話しちゃって」 「謝るな。辛かったな」 「……はい。でも、今は怖くありません。ポンタさんがいてくれるから、すごく温かいです」
エリスの中に、じんわりと安堵と感謝が広がっていく。 この温かい時間を、絶対に失いたくない。もう二度と、大切な人を理不尽に奪われたくない。 彼女がそう強く願った、その時だった。
バサバサバサッ!!
突然、頭上の木々から鳥たちが一斉に飛び立った。 不自然な静寂が森を包む。風が止まった。
「……ん? (レーダーに反応なし? いや、ステルス系のスキル持ちか?)」
俺が警戒レベルを上げ、周囲をスキャンしようとした瞬間。
ガサアアアッ!!
エリスの背後の茂みが爆発するように弾け飛んだ。
「グルルルアアアアアッ!!」
現れたのは、戦車のような巨体を誇る『グレート・ボア』。その双眸は血走り、異様な殺気を放っている。 だが、おかしい。野生の魔物は危険を察知し、殺気を放つ俺を本能的に警戒するはずだ。 なのにこいつは、俺には目もくれず、エリスの命だけを狙って一直線に突進してきたのだ。
「しまっ……エリスッ!!」
スキル発動が間に合わない。エイムを合わせるコンマ数秒すら惜しい距離だ。 思考するより先に、俺の「魂」が反応した。 俺はブーストを全開にし、物理的にエリスの前に割り込んだ。
ドゴォォォッ!!
凄まじい衝撃。世界が揺れた。 俺の体はエリスを守りきって吹き飛ばされ、近くの大木に叩きつけられた。
「ぐっ……!」 『警告。外装甲破損。耐久値低下』
俺の視界に赤い警告灯が点滅する。 そして、エリスの目の前で、俺の赤いボディの側面に「ピキッ」と亀裂が走った。
「ポンタさんッ!!」
エリスの悲鳴が森に響く。 彼女は俺の亀裂を見て、顔面蒼白になった。呼吸が止まる。 脳裏に鮮烈にフラッシュバックするのは、血の海に沈んだマリアの姿。
(私のせいで……また……! 大切な人が、私の目の前で壊れちゃう……!)
「いやぁぁぁっ!!」
エリスは杖を握りしめ、泣き叫ぶように俺に手を伸ばした。 理屈ではない。魔法理論など関係ない。 ただ、失いたくないという魂の叫び。
(嫌だ! もう誰も死なせたくない! 治って……お願い、治ってぇぇ!!)
その瞬間。 彼女の中で錆びついて閉ざされていた巨大な水門が、感情の奔流によって内側から破壊された。
ドクンッ!!
『警告。対象の感情値がリミッターを超過。魔力回路、強制開放!』 「あ? なんだこのアラートは……!?」
俺が戸惑う間もなく、視界が真っ白に染まった。 カッ!! と目も眩むような金色の光が、エリスの全身から爆発的に溢れ出したのだ。 それは魔法と呼ぶにはあまりに荒々しく、けれど温かい、奔流のようなエネルギーだった。
『高濃度魔力、着弾。……これは!?』
光の波が俺を包み込む。 光の粒子が傷口に吸い込まれていく。まるで逆再生映像を見ているかのように、ボディの亀裂が跡形もなく塞がっていった。 それだけではない。 俺の周囲の空間に、光の粒子が高速で結合し、幾何学模様を描き始めたのだ。
「(おいソフィア、なんだこれは!? 俺の周りに……ハニカム構造の障壁だと!?)」
俺は空中に復帰し、自分の周りに浮かぶ六角形の集合体を見た。 FPSでも見たことがある。これは物理演算を無視して対象を保護する、絶対防御のフィールドだ。
『解析終了。……信じられません。彼女はパニック状態で、無意識に【ヒール】と伝説級のユニーク防御魔法を同時展開しました』 『術式特定……名称【聖盾アイギス(Aegis)】』
「(アイギス……? 聖なる盾か。……そうか、彼女の国の名前と同じ名を冠するスキル。出来すぎなくらい完璧な守りだ)」
エリスは自分が何をしたのか分かっていないようで、ただ杖を握りしめたまま、涙目で俺を見つめている。 だが、その祈りは最強の盾となって具現化していた。
「グルルルッ!!」
ボアが再び地を蹴る。獲物を仕損じた怒りに任せ、最大戦速で突っ込んでくる。
(……来るぞ! エリスの祈りがどれだけの硬度か、試させてもらうぜ!)
俺はあえて避けずに、正面から受け止めた。
ガギィィィンッ!!
甲高い、硬質な金属音が森に響き渡る。 黄金の盾は微動だにしない。ヒビ一つ入らない。 逆に、ボアの自慢の巨大な牙が、根本からへし折れて宙を舞った。
「ブギィッ!?」 「実験成功だ。カッチカチだなおい! ありがとなエリス、最高のバフだ!」
俺は混乱して後退るボアを見下ろした。 さて、お礼参りと行こうか。さっき拾った新機能(MOD)のテストだ。 俺はボアの鼻先に向けて、新スキルを発動した。
プシューーーッ!
高濃度の紫色のガスが噴射され、ボアの顔面を包む。
ドサッ。ズザザザ……。
巨体が地面を滑る。一瞬で白目をむいたボアは、大いびきをかいて昏倒した。
「ハッ、便利すぎるぜ。……永遠におやすみ」
ズキュン。
眠るボアの眉間を、俺の魔弾が慈悲深く撃ち抜いた。
***
戦闘後、俺は光の粒子となって消滅していくボアを見ながらソフィアに問いかけた。
(なあソフィア。野生の魔物ってのは、本来もっと殺気に敏感なはずだろ? なんで俺という脅威を無視してエリスを狙った?) 『……不可解です。自身の生存本能をねじ伏せてでも、エリスという存在を排除しようとする……まるで何者かに強制されたかのような異常な挙動でした』
ポンタはまだ肩で息をしているエリスのもとへ飛んでいき、その頭を優しく撫でるように旋回した。
(……さっきエリスは、婦長に『姫様』と呼ばれていたと言った) (滅ぼされた国、聖王国アイギスの生き残り……。あんな少女が、そんな重いもん背負ってやがったのか)
俺はエリスの震える小さな背中を見つめ、改めて覚悟を決めた。 (……なんかキナ臭ぇな。こりゃ、もっと強くなんねぇとこの子を守りきれねぇぞ)
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【キャラクター紹介:エリス・フォン・アイギス】
Class: Carrier / Healer & Buffer
(運び手 / 治癒・支援術師)
Unique: 命の恩人であるポンタに絶大な信頼と尊敬を寄せており、どんな無茶な作戦でも彼を信じて共に走る。今は滅亡した聖王国アイギスの元王女。聖盾アイギスというユニークスキルを持つ。
Voice: 「私……もう逃げません。ポンタさんが背中を押してくれたから」
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