お姫様はサクッと助ける
【第2章・王都編開幕!】
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カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!
※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!
大通りの喧騒から少し離れた、薄暗い路地裏。
華やかな祭りの音楽は、入り組んだ建物の壁に遮られ、ここまではほとんど届かない。
「……っ、こっちに来ないで!」
グランゼリア王国の王女、セリア・フォン・グランゼルは、冷たい石壁に背中を押し付けながら震える声を上げた。
彼女の目の前には、薄汚れた身なりに下劣な笑みを浮かべた四人の男たちが立ち塞がっていた。
「おいおい、そんなに怯えんなって。お祭りの日に迷子とは可哀想に。俺たちが『安全な場所』まで案内してやるよ」
「その上等な服……どこの貴族のお嬢ちゃんかは知らねえが、こりゃあ相当な値がつきそうだぜ」
男たちが舌舐めずりをして距離を詰めてくる。
セリアは絶望に目を閉じた。自分を子供扱いする大人たちに反発して、お忍びで城を抜け出した軽率さを今さら激しく後悔していた。
護衛の騎士はいない。助けを呼ぼうにも、祭りの熱狂にかき消されて誰にも届かない。
(お父様……ルシウス様……助けて……っ!)
男の汚い手が、セリアの細い腕に伸びたその時だった。
「――おい。祭りの日にシケた顔させんなよ」
路地の入り口から、静かだがよく通る声が響いた。
男たちとセリアが一斉に視線を向ける。そこに立っていたのは、黒い軽装に身を包んだ、十二歳ほどの見慣れぬ少年だった。
「あぁ? なんだガキ、すっこんでろ。怪我したくなかったら――」
男の一人が威嚇するようにナイフを抜いた瞬間、少年の姿がふっとブレた。
「え……?」
セリアが瞬きをした次の瞬間には、少年――ポンタは、男の懐に完全に潜り込んでいた。
ドンッ!
「ガハッ!?」
一切の予備動作がない、無駄を極限まで削ぎ落とした掌底が男の顎を正確に打ち抜く。脳を揺らされた男は白目を剥き、糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。
「なっ……てめぇ!!」
残る三人が激昂し、一斉にポンタへと襲い掛かる。
魔法も、派手な剣技も必要ない。前世でFPSのトッププロとして極限の『立ち回り』と『エイム(正確性)』を鍛え上げられたポンタにとって、素人の大振りな攻撃など止まって見えるに等しい。
ポンタは最小限のステップ(縮地)で刃を躱すと、すれ違いざまに二人の膝の関節を的確に蹴り砕き、最後の一人の鳩尾に、全体重を乗せた重い拳を沈めた。
「ぐ、あ……っ……」
時間にして、わずか数秒。
四人の大男が、苦悶の声を漏らしながら冷たい石畳の上で完全に沈黙していた。
「……クリアリング完了、と。やっぱり治安が少し乱れてるな」
ポンタは何事もなかったかのように軽く手首を回すと、へたり込んでいるセリアを振り返った。
「大丈夫か? 怪我はねえか」
月明かりに照らされたポンタの横顔。
自分より少し背が低いだけの少年。だが、その背中はどんな騎士よりも大きく、頼もしく見えた。
「あ……」
ドクンッ、と。セリアの胸の奥で、今まで感じたことのない激しい鼓動が跳ねた。
恐怖からではない。先ほどまでの圧倒的な強さと、自分を見下ろす涼やかな瞳に、彼女は完全に心を奪われていた。
「……ん? あんた、どこかで……あ」
ポンタはセリアの顔をマジマジと見つめ、思い出したように溜息をついた。
「白亜宮にいた、ワガママ姫か。こんなところで何やってんだ」
「ワ、ワガママじゃないわよ! 私はセリア! セリア・フォン・グランゼルよ!」
ポンタの言葉に、セリアは顔を真っ赤にして立ち上がった。助けられた嬉しさと、意中の相手に子供扱いされた恥ずかしさが混ざり合い、見事なツンデレ反応を見せる。
「はいはい、セリア様。……親父さん(国王)に内緒で抜け出したんだろ? 大通りに出れば近衛の巡回がいる。そこまで送ってやるよ」
「えっ……でも、お城の人に見つかったら、私……」
「なら、こうしようぜ」
ポンタはセリアの目線に合わせてしゃがみ込み、悪戯っぽく笑った。
「俺がここをうろついてたのも、ちょっとした『秘密の任務』でね。お前が抜け出したことは黙っといてやるから、俺がここにいたことも黙っててくれ。お互い様、秘密の取引ってことで」
「……っ。ひ、秘密の取引……」
二人だけの秘密。その甘美な響きに、セリアはボフッと音が出そうなほど顔を赤くし、コクコクと激しく頷いた。
「わ、わかったわ! 約束よ!」
その後、大通りの近くまで送り届けられ、ポンタが闇に紛れて消えた後も、セリアは自分の胸をギュッと押さえたまま、その場にへたり込んでいた。
「ポンタ……ポンタ……かっこいい……っ!」
王都の路地裏で、お姫様の初恋がひっそりと幕を開けた瞬間だった。
◇ ◇ ◇
翌朝。
抜けるような青空の下、王都の広場にファンファーレが鳴り響いた。
白亜宮のバルコニーから国王が姿を現し、高らかに『建国祭』の開会を宣言する。民衆の割れんばかりの歓声と拍手が、王都全体を震わせた。
しかし、その華やかな熱狂の裏側では、全く異なる空気が張り詰めていた。
「各員、配置につけ。――敵が『罠』にかかるのを待つんだ」
ルシウスの声が、路地裏や建物の影に潜む冒険者ギルドの精鋭たち、そして王国騎士団に飛ぶ。彼らは武器の柄に手をかけ、来るべき『帝国の侵攻』に備えて静かに牙を研いでいた。
彼らの脳裏には、昨夜行われた白亜宮での軍会議の光景が焼き付いていた。
『ジャマーをあえて発動させるだと!? 正気か、少年!』
騎士団長が声を荒げる中、ポンタは平然と地図の上に駒を置いた。
『ああ。作戦前にジャマーを壊せば、帝国は尻尾を巻いて逃げ帰り、また次の機会を狙うだけだ。だから、あえて奴らの作戦通りに結界を消滅させる』
『なっ、それでは王都が火の海に……!』
『ならねえよ。敵の侵攻ルートはすでに絞れている。そこを完全な「キルゾーン」として包囲網を敷いておくんだ。帝国軍が意気揚々と王都に足を踏み入れた瞬間――俺たちが地下のジャマーを破壊する。ミリーナ、いけるな?』
『はい。精霊マリーの超高圧の水魔法なら、地下遺跡を崩落させずに一点集中でジャマーを破壊出来ると思います』
『その通りだ。ジャマーが壊れれば、王都の結界は即座に復活する。……結果、どうなると思う?』
ポンタの問いかけに、歴戦の将軍たちが息を呑んだ。
『……結界内に侵入した敵の先陣は孤立し、後続は結界に阻まれて完全に分断される……。完璧な「分断包囲」戦術……ッ!』
わずか十二歳の少年が提示した、あまりにも冷徹で完璧な軍略眼。その場にいた大人たちは全員、ポンタの実力に底知れぬ畏怖と敬意を抱くことになったのだ。
そして今、もう一つの戦場。
王都の地下深く、ニアが教えてくれた『隠し水路』の入り口前。
じめじめとした冷たい空気が漂う中、二つのパーティが静かに並び立っていた。
「ここが、例の抜け道か……。さすがのガキんちょも、ビビって足がすくんでるんじゃないか?」
『獅子の心臓』の斥候ガルドが、緊張をほぐすように軽口を叩く。
しかし、彼が視線を向けた先では、全く怯える様子のない子供たちが準備を進めていた。
「師匠、ルルが一番前を歩くね!斥候は任せて。」
ルルが自身の身長ほどもある巨大なモンキーレンチを担いで、ドンと胸を張る。
「おいおい、お嬢ちゃん。そんなデカい得物じゃ、狭い水路や潜入の邪魔になるぜ?」
ガルドが呆れたように指摘する。
「大丈夫! ――『技工の神髄』!」
ルルがウインクと共にスキルを発動すると、彼女の手に握られていた巨大なモンキーレンチが、カチャカチャと音を立てて無数のパーツに分解され、ふっと空中に溶け込むように消滅した。
「なっ……消えた!?」
背後で見ていたレオンたち『獅子の心臓』の面々が目を丸くする。
「アイテムボックス持ちの空間収納か!? いや、違う。今、自らの手で複雑な魔力構成を分解して……信じられない」
魔法使いのフレヤが驚愕の声を漏らす。
ポンタは驚くベテラン冒険者たちをよそに、「相変わらず便利だな」と軽く肩をすくめた。
「エリス、大丈夫か?」
「はい。……帝国には、私の故郷(聖王国アイギス)を奪われた過去があります。正直に言えば、今でも足が震えるくらい、怖いです」
エリスは両手で聖樹の杖を強く握りしめた。その手は微かに震えていたが、真っ直ぐに顔を上げた彼女の瞳には、かつての逃げるだけだったお姫様の面影はない。
「でも、私は『アカマル』のエリスです。守られるより、皆さんと、ポンタさんと一緒に戦いたいですから!」
その言葉に、ポンタは目を細めて嬉しく笑った。
「(……強くなったな、エリス)」
そもそも、ポンタにとってエリスは絶対に手放せない存在だ。彼女の『接続者』のスキルを通じて地脈から供給される莫大なマナがなければ、大火力兵装である『タイタンモード』はおろか、ポンタ自身の存在すらこの世界に維持できない。二人は、文字通り一蓮托生の絆で結ばれているのだ。
「姫様、私の背中から決して離れぬよう」
「ヒルデさん、ありがとうございます」
ヒルデの頼もしい言葉に、エリスは柔らかく微笑み返した。
「私の召喚魔法も、いつでも発動できるように魔力を高めておきます」
ミリーナも静かに『魔力の弓』を顕現させ、見えない弦を引き絞る構えを見せる。
「……おいおい、どっちがベテランだか分からねぇな。俺たちも気合い入れ直すぞ!」
リーダーのレオンが苦笑しながら剣の柄を叩き、フレヤやボーマンたちも力強く頷いた。
「よし」
ポンタはサプレッサー(消音器)付きのハンドガンの安全装置を解除し、暗く口を開けた地下水路の奥を見据えた。
「これより、地下遺跡『巨大ジャマー』の破壊工作を開始する。――行くぞ!」
華やかな祭りの歓声が遠く地上から微かに響く中、ポンタたち遊撃部隊は、王都の運命を懸けた深い暗闇の中へと静かに足を踏み入れた。
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