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作戦会議と獅子の心臓

【第2章・王都編開幕!】

★毎日「朝7時」更新中!★

カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!

※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!


 白亜宮の奥に位置する国王の執務室は、重苦しい沈黙に包まれていた。


「……なるほど。地下の『魔導式結界粉砕機ジャマー』とやらが作動すれば、王都を守る強固な結界に、軍隊が悠々と通れるほどの巨大な穴が開く。そしてこの忌々しい企ては、明日の建国祭のどさくさに紛れて決行される、というわけか」


 ダンッ!

 国王が怒りに任せて分厚い執務机を激しく叩きつけた。その衝撃で、ポンタが提出した極小の魔石――インフラ省大臣の『裏切りの音声』が録音された証拠品――が、宙にふわりと浮き上がり、カチャリと乾いた音を立てて転がった。


「その通りです。ただ……あの地下施設、帝国の手で一から作られたものじゃありません」

 ポンタは脳内の相棒からの報告を思い出しながら、静かに告げた。

『マスター。当該地下施設は、建築様式および魔力残滓から推測して、古代の遺物を流用・増改築した拠点である確率が極めて高いです』

「(ああ、ソフィアの言う通りだ。ゼロから作ればバレるが、元からあった遺跡を利用したなら話は別だ)」


 ポンタの言葉に、同席していた冒険者ギルド長・ルシウスが鋭く反応する。

「古代の遺跡……だと!?」

「ああ。だからこそ、王都の足元であれほど大規模な拠点を構築しながら、誰にも気付かれなかった。……大臣は、その隠蔽を『インフラ整備』という名目で手引きしていたネズミです」


 国王は額に手を当て、深く息を吐き出した。

「すぐさま中央騎士団を動かし、大臣を捕らえ、地下施設を制圧――」

「お待ちください、陛下」

 ルシウスが一歩前に出た。

「今、大臣を捕らえれば、帝国は作戦を前倒しするか逃亡する可能性があります。帝国の目標は我が王国への侵略とエリス殿の生け捕り。ならば、彼女を王城の最も強固な結界内に配置し、敵の主力を一箇所に誘導します。そこへ、冒険者ギルド本部の精鋭と王国の近衛・魔術師団を集中させ、完全な『防衛ライン』を敷くのです」


 ルシウスの提案は、ポンタが考えていた『タワーディフェンス』の戦術と完全に一致していた。


「地上の異常や、結界外に現れるであろう帝国の主力軍は、我々が全て引き受けます。……ポンタ殿」

 ルシウスが真剣な眼差しをポンタに向ける。

「地下のジャマーの破壊と、敵幹部の排除だな?」

 ポンタの確認に、ルシウスは深く頷いた。

「はい。ですが、広大な遺跡の探索を少数で行うのは危険です。彼らを連れて行ってください」


 ルシウスが合図をすると、執務室の扉が開き、五人の男女が入ってきた。

 王都を拠点とする凄腕のAランクパーティ『獅子の心臓ライオンズ・ハート』の面々だ。


「話は聞いてるぜ。俺はリーダーの剣士、レオンだ」

 豪快に笑う大柄な剣士レオン。その後ろには、冷静な魔法使いのフレヤ、身軽な斥候のガルド、大盾を背負った重戦士のボーマン、そして治癒術師のシーラが続いている。

「いくら凄腕と噂のパーティとはいえ、こんな幼い子供たちと重要任務とはな……」

 斥候のガルドが、ポンタを見て呆れたようにため息をついた。


「子供扱いしてくれるのは構わねえが、足だけは引っ張るなよ、おっさん」

「……あ?」


 ポンタが冷たい視線を向けた瞬間。

 彼の全身から、幾多の死線を潜り抜けてきた本物の『戦士』の覇気が放たれた。それは、一切の容赦がない圧倒的なプレッシャー。


「――ッ!?」

 レオンたち五人は本能的に武器に手を掛け、冷や汗を流した。目の前にいるのは子供ではない。自分たちを凌駕するほどの、紛れもない『強者』だ。


「……悪かった。噂以上のようだな」

 レオンが真剣な表情で頭を下げる。

「よろしく頼むぜ、『アカマル』のリーダー。俺たちは共闘戦力として、お前たちの指示に従う」


「……こっちも大人気なく気を当てて悪かった。よろしく頼むぜ」

 ポンタはスッと殺気を収めると、小さく息を吐いて右手を差し出した。レオンは一瞬驚いた後、苦笑しながらその手を力強く握り返した。


 ◇ ◇ ◇


 白亜宮での作戦会議を終え、迎賓館へと戻ったポンタたちは、『アカマル』のメンバーだけで密に詳細な打ち合わせを始めた。

 テーブルの上には、ソフィアの解析とニアの証言をもとに作成された簡易マップが広げられている。


「……大人には通れないけど、昔、わたしが遊んでた『水路』があるの。そこなら、あの大きな機械の真上に出られるの」

 ニアがマップの一部を指し示した。


「よし。ニア、お前はこの迎賓館でお留守番だ」

「えっ……わたしも行きたい! ポンタお兄ちゃんや、みんなの役に立ちたいの!」

「駄目だ。ここから先は本物の戦場になる。お前まで連れて行く余裕はねえ」

 ポンタが諭すように言うと、ルルが元気よく前に出た。


「ルルが道を開く! 師匠はうしろからドカンって撃ってニアちゃんの分まで、ルルがいーっぱい悪い奴らをやっつけてくるからね!だからね。」

「ルルさん……うんっ! わたし、いい子で待ってるの!」


「そうですね。ニアちゃん…全て終わらせたら街で美味しいものいっぱい食べましょう」

ミリーナが続く。


「わーい、楽しみなの」


 ニアが満面の笑みを浮かべて頷くと、側にいたシルフィがふわりと優しい風を纏いながら彼女の頭を撫でた。

「ここで私たちがしっかり守ってあげるから、安心して待っていなさい」

「うふふ。温かいお茶でも淹れて、ゆっくりお留守番していましょうねぇ」

 マリーもおっとりと微笑みながら後に続く。


「ほう、シルフィも素直に優しくなれるのだな。感心感心」

 その様子を見ていたヒルデがニヤニヤと茶化すと、シルフィは途端に顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。

「なっ……! べ、別に優しくなんか……! 精霊としての務めを果たそうとしただけよ!」


 ふふっ、と部屋に温かな笑い声が広がる。

 そんな和やかな空気が流れる中、エリスが意を決したように凜とした声で前に出た。


「私も、行きます」

「エリス? お前は地上でルシウスたちに守られていた方が……」

「いいえ。敵の狙いが私なら、私のせいで地上の誰かが傷つくのは嫌です。それに……」

「私もアカマルの一員です。皆んなと…ポンタさんと一緒に戦います。」


『僕も行くよ。古い時代の結界や罠なら、僕の知識が役に立つはずさ』

 エリスの杖から半透明の精霊ユーグがひょっこりと顔を出し、自信満々に胸を張る。


そうだ、確かにエリスの気持ちを考えれば一緒に行動すべきかもな。

安全を考えるあまり戦略的に考えすぎていたかも知れない。


「そうだな…エリス、お前の気持ちを汲み取ってやれずすまなかったな。俺たちは全員一丸となって任務を遂行しよう!」

「ただし、絶対にヒルデのそばを離れるなよ」


「はいっ!」


エリスの満面の笑みを見て

やはり離れての行動は出来るだけしまいと再度決意した。


「ご安心くだされ、主殿あるじどの。姫様のことは私の命に代えても守り抜く」

 ヒルデも力強く胸を叩いた。

 これで、後顧の憂いは絶たれた。


 ◇ ◇ ◇


 翌日。建国祭の開催を明日に控え、王都は最高潮のお祭りムードに包まれていた。

 大通りには色とりどりの屋台が立ち並び、街中が活気と喧騒に溢れている。


「(……人の導線は問題ない。だが、これだけ人が多いと、敵の残党が紛れ込んでいても見つけにくいな)」

 ポンタは一人、街の地形や逃走経路を最終確認するために市街地を歩いていた。


 一方その頃。白亜宮の自室では、王女セリアが不満を爆発させていた。

「もうっ! お父様もルシウス様も、何で急に騎士団の動きを慌ただしくしてるのよ! 私には『安全のため部屋から出るな』だなんて……子供扱いしないでよね!」


 建国祭という最大のイベントを前に、自分だけが蚊帳の外に置かれている。そのストレスに耐えきれなくなったセリアは、地味なメイドの服を羽織った。

「退屈なお城なんて、抜け出してやるわ!」


 護衛もつけず、秘密の抜け道から街へと飛び出したセリア。

 祭りの喧騒と珍しい屋台の数々に、彼女の機嫌はすぐに直り、無邪気に市街地を歩き回っていた。


 しかし、彼女は気付いていなかった。

 その「上質すぎる肌つや」と、隠しきれない「高貴な所作」が、裏社会で生きる者たちの目を惹きつけてしまっていることに。


(……おい、見ろよ。あんな上玉が、護衛もつけずに一人で歩いてるぜ)

(どこの貴族の令嬢かは知らねえが……身代金か、遊郭か、どっちにしろ高く売れそうだな)


 路地裏から、質の悪い裏組織のゴロツキたちが、下劣な視線でセリアを追従し始めていた。


「……ん?」

 同じ頃、市街地の調査をしていたポンタの『索敵レーダー』が、群衆の中に紛れる微かな『殺気』を捉えた。

 視線を向けると、そこにはお忍び姿で屋台を眺めるセリアと、彼女を取り囲むように距離を詰める不審な男たちの姿があった。


「あの馬鹿姫、こんな時に何やってんだ……面倒なことになりそうだな」

 ポンタはため息をつきながら、セリアが向かった路地裏へと静かに足を踏み入れた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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