迎賓館の夜襲
【第2章・王都編開幕!】
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カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!
※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!
深夜。
王都の中心に位置する迎賓館は、深い静寂と暗闇に包まれていた。
その敷地内に、音もなく十一名の影が降り立つ。
帝国の幹部『幻影』のシャドウと、彼女が率いる十名の黒装束の隠密部隊だ。
「小僧と邪魔者は始末しろ。……だが、銀髪の娘(鍵)だけは無傷で捕獲するのだ。散開」
シャドウの冷酷な手信号により、帝国の精鋭たちは屋敷の各所へと散っていった。
しかし、彼らは致命的な勘違いをしていた。
自分たちが『奇襲』をかけているつもりで――完全に『包囲』されているということに。
『――索敵完了。敵は十一。予定通り、各個撃破をお願いします』
迎賓館の屋根裏。
ポンタのスキル『分隊通信』による不可視の念話ネットワークを通じ、ミリーナの冷静な声が仲間たちの脳内に響き渡る。
彼女の聴覚と魔力感知は、敷地内に散らばる隠密たちの座標を、文字通り『丸裸』にしていた。
庭の茂みを抜けようとした隠密の一人が、ふと足を止めた。
次の瞬間。彼が身を隠していた石柱を迂回するように曲がってきた不可視の魔法の矢が、正確にその眉間を撃ち抜いた。
「(……一人目、沈黙)」
屋根裏で指先を向けたミリーナが、小さく息を吐く。
シルフィの『風魔法の加護』を付与された彼女の『マジックアロー』は、風の軌道に乗って遮蔽物を躱し、音も光も発することなく確実に標的を沈める、凶悪な狙撃魔法へと昇華されていた。
◇ ◇ ◇
屋敷の東回廊。
音もなく忍び歩く二人の隠密の前に、ひょっこりと小柄な影が現れた。
「あははー! こっちこっちー!」
動きやすい普段の作業着姿のルルがアカンベーをしてから、パタパタと角を曲がる。舐められた隠密たちが殺気を放って飛び込んだ瞬間――ピンッ、と極細のワイヤーが弾けた。
「なっ!?」
天井から落下してきた強靭な魔導ネットが二人を絡め取り、同時にルルがおもむろに投げつけた『特製・催眠ガス弾』が炸裂。隠密たちは声を上げる間もなく、白目を剥いて昏倒した。
一方、中庭。
侵入した三人の隠密の前に、シルフィとマリーが立ち塞がっていた。
「もう……お屋敷を壊さないように加減するのって、大変なんだから」
シルフィがため息をつく。隠密たちが即座に無数の投げナイフを放つが、シルフィは涼しい顔で『風の障壁』を展開。空中でピタリと静止したナイフ群は、彼女が指を弾くと同時に逆軌道で跳ね返り、隠密たちの手足の衣服だけを正確に壁へと縫い付けた。
「うっ……!?」
「はい、おしまい」
身動きが取れなくなった彼らに向け、マリーが静かに手を振るう。
ポコンッ、と現れた水魔法の球体が、隠密たちの頭部だけをすっぽりと包み込んだ。息ができずに肺を痙攣させ、三人の隠密は次々と酸欠で意識を刈り取られていく。
◇ ◇ ◇
そして、標的であるエリスの寝室。
窓の鍵を特殊な薬品で溶かし、二人の隠密が音もなく侵入した。彼らの手には、暗殺用の刃ではなく、魔力を封じる『捕縛用の魔導布』が握られている。
しかし、ベッドはもぬけの殻だった。
「――『遅滞』」
部屋の隅。地下水道で保護したばかりの小さな猫耳の少女――ニアを背後に庇うように立ち、エリスが凜とした声で支援魔法を発動した。
隠密たちの動きが、まるで水底に沈んだように泥臭く鈍る。
「むんっ!!」
その直後、護衛のヒルデが前に出た。
ガントレットを装備した剛腕で、スローモーションになった敵の捕縛具を易々と弾き飛ばすと、地竜人の強靭な脚力を活かした高度な歩法『縮地』を発動。
瞬きする間に敵の懐へと潜り込んだヒルデの、岩をも砕く重いボディブローが、隠密の鳩尾に深々と突き刺さる。
「ガ、ゴォッ……!?」
肋骨を粉砕された隠密たちは、悲鳴を上げることもできず、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
◇ ◇ ◇
「……どういうことだ」
屋敷の屋根に潜んでいたシャドウは、背筋に冷たい汗が伝うのを感じていた。
自身が率いてきた十名の精鋭たち。その気配が、悲鳴一つ上げることなく、次々とこの屋敷から消滅していくのだ。
罠だ。それも、自分たちの襲撃を完全に把握し、完璧な迎撃態勢を敷いている。
「他人の家に土足で踏み込んでおいて、随分と隙だらけだな」
「――ッ!?」
シャドウが弾かれたように振り返る。
完全に意識の外――歴戦の暗殺者である彼女の、さらに『死角』となる漆黒の闇の中から、十二歳の少年が音もなく姿を現した。
ポンタの右脚が、空気を裂いてシャドウの顔面へと迫る。
シャドウは間一髪で腕を交差させて防御したが、その規格外の威力に、身体ごと屋根の瓦を砕きながら数メートルも後方へと吹き飛ばされた。
「ガッ……! 貴様、本当にあのダルマなのか……!」
痺れる両腕を押さえ、シャドウは血を吐き捨てるように睨みつけた。
勝てない。
自身の誇る隠密スキルも、暗殺の技術も、目の前に立つこの少年の前では、まるで児戯に等しいと本能が警鐘を鳴らしていた。
「……今日は挨拶だけにしておいてやる。首を洗って待っていろ」
シャドウがマントを翻すと同時に、強烈な閃光と煙幕が炸裂した。
煙が晴れた後には、転移の魔導具を使ったのであろう、シャドウの気配は微塵も残っていなかった。
「……逃げ足だけは一丁前だな」
ポンタは追撃することなく、静かに足元の瓦へと視線を落とした。
やがて、屋敷の安全が完全に確保され、一階のホールに無傷の仲間たちが集結する。
「師匠! こっちのネズミは全部縛り上げといたよ!」
「ポンタ様、周辺の索敵圏内に新たな敵影はありません」
「ご苦労。……みんな、見事な連携だった」
ポンタは仲間たちの無事を確かめると、王城の方角――夜空を見上げた。
帝国軍の幹部を単独で退け、精鋭部隊を赤子のように全滅させた。
この圧倒的な戦力差を見せつけたことで、帝国もこれ以上、軽々しくエリスに手出しはできなくなるはずだ。
「これで、連中も簡単にちょっかいはかけられなくなったはずだ。……さあ、本番(建国祭)に向けて、たっぷりと迎撃の準備を始めようぜ」
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