録音機作戦
【第2章・王都編開幕!】
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カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!
※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!
白亜宮の大広間。
華やかな音楽と貴族たちの喧騒から少し離れた壁際で、ポンタたちは密かに作戦会議を開いていた。
「(……ターゲットは『魔導インフラ省の大臣』と、背後にいる『黒いローブの女』。だが、国王陛下を動かすためには物理的な証拠が必要だ)」
ポンタは手にしたグラスの果実水を揺らしながら、仲間たちを見回した。
「少し、奴を揺さぶってみるか。……ルル、この前話していた『アレ』は出せるか?」
「ふっふーん、もちろん!」
ルルは得意げに笑うと、スチームパンク風のドレスのフリルの裏から、豆粒ほどしかない小さな真鍮色の魔導具を取り出した。
「『超小型・魔導録音機』だよ! これを相手の服にくっつければ、どんな小さな密談の音声でもバッチリ魔石に記録できるの!」
「上出来だ。エリスはここで、ヒルデと一緒に待機しててくれ」
「はいっ。気をつけてくださいね、ポンタさん、ルルちゃん」
エリスが心配そうに見送る中、ポンタはルルを連れて、恰幅の良い大臣の元へと堂々たる足取りで歩み寄った。
◇ ◇ ◇
「これはこれは、魔導インフラ省の大臣殿ですね。素晴らしい王都の街並み、感服いたしました」
ポンタは『次期男爵』としての礼儀を崩さず、しかしSランク冒険者としての堂々たる覇気を纏って、大臣に声をかけた。
「おお、これはアルメニアを救ったという英雄殿。このような若さで叙勲されるとは、いやはや末恐ろしい」
大臣は愛想の良い笑みを浮かべたが、その瞳の奥には明らかな侮蔑の色が混じっていた。アルメニアの田舎から来た子供が、たまたま運良く手柄を立てただけだろう、という傲慢さだ。
大臣の背後には、顔を隠すように深いフードを被った護衛が、石像のように無言で控えている。
「ええ。王都は本当に素晴らしい。特に――『地下のインフラ』は見事ですね」
ポンタはニコニコと笑いながら、突然、声のトーンを一段階落とした。
「はて……? 地下、とな?」
「ええ。昨日、少し『第4地下水道』の辺りを散歩したのですが……インフラ省は随分と、『黒いローブ』を着た優秀な作業員を雇っているようだ」
ピタリ、と。
大臣の顔からスッと血の気が引き、貼り付けたような愛想笑いが完全に凍りついた。
「(ソフィア。バイタルは?)」
『マスター。対象の心拍数が急激に上昇。極度のパニック状態を観測しました。……また、背後の護衛から鋭い殺気を検知。対象はマスターを「脅威」と認定し、臨戦態勢に入ろうとしています』
「(……図星だな。だが、動かすかよ)」
ポンタは、大臣の後ろでピクリと反応した黒いローブの護衛へと、視線だけを鋭く向けた。
その瞬間。ポンタは十二歳の少年の皮を被った、幾多の死線を潜り抜けてきた戦士としての底知れぬプレッシャーを、針の穴を通すように護衛ただ一人に向けて放った。
「――ッ!?」
動けば、殺される。
そう錯覚させるほどの重圧に、歴戦の暗殺者である護衛の全神経は、目の前に立つポンタへと強制的に釘付けにされた。
極限まで研ぎ澄まされた護衛の視界から、隣にいる小柄で無害そうな機工士の存在が完全に消え失せる。
「わぁ! 大臣様のこの懐中時計、王都の最新式ですか!? すっごくかっこいい!」
「ひっ!? な、なんだね君は!?」
大臣の思考がフリーズし、護衛の意識がポンタに縫い付けられた、その完全な死角。
無邪気な子供の顔をしたルルが身を乗り出し、大臣の燕尾服の腰の裏側に、極小の『録音機』を完璧な手妻で貼り付けた。
「それじゃあ、俺たちはこれで。……建国祭の『大仕事』、お互い頑張りましょう」
ポンタは意味深な言葉を置き去りにし、ルルを連れて優雅に踵を返した。
◇ ◇ ◇
「……ポンタ様。掛かりました」
少し離れた場所で、壁に寄りかかりながらグラスの縁で口元を隠し、静かに耳を澄ませていたミリーナが、小声で報告した。
ポンタのプレッシャーに耐えきれなくなった大臣は、逃げるように護衛を連れて、大広間の外にある人気の少ないバルコニーへと向かっていた。
「私の耳と、ルルちゃんの受信機を繋ぎます。……来ますよ」
ミリーナが魔力を通すと、ルルの手元にあるヘッドホン型の魔導具から、ひどく焦り切った大臣のダミ声と、対照的に冷たく落ち着いた女の声が聞こえてきた。
『……おい、どういうことだ! なぜあの小僧が第4地下水道の件を知っている! それに「黒いローブ」だと!? 貴様ら帝国の工作員がドジを踏んだのではないのか!』
『喚くな、豚。……なるほど、合点が通ったわ。商業区ですれ違った際、私の気配を完全に探り当てたあの感覚。そして先ほどの、歴戦の猛者のようなプレッシャー……』
護衛――帝国の幹部であるシャドウの艶やかな、しかし底冷えするような声が続く。
『あの生意気な小僧が、ガウスの言っていた「鉄のダルマ」の正体というわけね。フフッ、ダルマが人化するなんて……あの変態技術者が知ったら、涎を垂らして喜びそうだな』
『そ、そんなことより大丈夫なのか!? 万が一にでも、地下の「ジャマー」や「生体バッテリー」のことが騎士団にバレたら終わりだ! ええい、作戦を前倒しにする! 建国祭を待たず、今夜中にあのダルマも、銀髪の小娘も纏めて始末しろ!』
その瞬間。
録音機越しでさえ肌が粟立つような、濃密な『殺気』が音声に混じった。
『……ヒッ!?』
『口を慎め、俗物が。……皇帝陛下の勅命は「鍵」の生け捕りだ。あの娘の髪の毛一本でも傷つけてみろ。貴様を地下の生体バッテリーの部品にしてやる』
『ひぃっ……! わ、わかった! だが、どうするのだ!?』
『ジャマーの充填にはまだ日数がかかる。王都陥落の決行日は「建国祭」のままだ。……だが、あのイレギュラーな小僧の排除と、鍵の確保だけは、今夜私が直々に済ませておくわ。私の「コレクション」に加えてやる』
ザザッ、と音声が途切れた。
「(……なるほどな)」
音声を聞き終えたポンタは、笑みを深めた。
敵の狙いが「エリスの暗殺」ではなく「生け捕り」であること。巨大兵器の起動は建国祭であること。そして――今夜、シャドウが自分たちを狩りに来ること。
「大臣の悪事の証拠は押さえた。……おまけに、今夜『ネズミ』の方から俺たちの迎賓館へ遊びに来てくれるそうだ」
ポンタは手の中の極小の魔石を軽く放り投げた。
「さて。まずは国王陛下に『極上の手土産』を持っていくとしようぜ。……迎賓館の『お出迎えの準備』は、そのあとだ」
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