白亜宮の夜会と、子生意気な姫君
【第2章・王都編開幕!】
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カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!
※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!
王城『白亜宮』の大広間は、文字通り光の海だった。
天井から吊るされた巨大な魔導シャンデリアが眩い光を放ち、最高級のシルクと宝石で着飾った大貴族たちが、優雅な音楽に合わせてグラスを傾けている。
その華やかな喧騒の中にあって、ポンタの仲間たちはそれぞれの形で大いに会場の注目を集めていた。
深いネイビーのスリットドレスを着こなすミリーナは、その大人の色香で十分に視線を惹きつけていた。しかし、それ以上に『希少な精霊魔法の使い手』という噂を聞きつけた宮廷魔術師たちから、「どのような術式構築を!?」「マナの循環効率についてぜひご教示を!」と矢継ぎ早に質問攻めにされ、「えっと、あの、感覚的なもので……」とタジタジになっている。
一方、近衛騎士風の礼服に身を包んだヒルデは、まるで劇場の男役トップスターのような凛々しさで、貴婦人たちのハートを完全に鷲掴みにしていた。「まあ、なんてお美しい騎士様……」「どうか私とお茶を……」と扇子で口元を隠して熱視線を送る婦人たちに囲まれ、屈強な地竜人の戦士は「む、むむ……主殿、どうすればいいのだ……」と完全に戸惑っている。
そして、真鍮の歯車飾りがあしらわれたスチームパンク風のゴスロリドレスを着たルルは、流行に敏感な若い令嬢たちの輪の中心にいた。「まあ、そのドレスの意匠、とっても斬新ね!」「えへへー、でしょ? 実はこのフリルの裏から……じゃーん! 全自動でお化粧の風を送ってくれる小型扇風機が出るんだよ!」「すごーい!」と、武器ではないちょっとした発明品を披露してはキャアキャアと大ウケしていた。
そんな個性豊かで魅力的な仲間たちの中でも――ひときわ、圧倒的な存在感を放っていたのが、エリスだった。
銀糸の髪を結い上げ、純白のドレスに身を包んだ彼女の清廉な美しさに、会場中の視線が釘付けになる。
「美しい……。どうか一曲、私と踊っていただけないだろうか?」
「いや、アルメニアを救った聖女殿のエスコートは、この私が――」
すかさず、野心と下心を隠し持った若い貴族たちが、我先にとエリスを取り囲んだ。エリスは社交界の空気に慣れておらず、オロオロと後ずさる。
そこへ、黒いタキシード姿の少年がスッと間に入り込んだ。
「悪いが、俺の『相棒』のスケジュールは当分空いてねえよ」
ポンタは冷たい笑顔を浮かべ、貴族たちを一瞥した。十二歳の子供の姿とはいえ、幾多の死線を潜り抜けてきたFPS世界王者の『威圧感』に、若い貴族たちは思わず息を呑んで道を空ける。
「あ、ありがとうございます、ポンタさん……っ」
エリスが顔を真っ赤にして、ポンタの腕にギュッと掴まる。その手にある聖樹の枝杖から、ポンタの脳内にだけ直接、ユーグの茶化すような念話が届いた。
『あはは、ポンタ君ってば過保護だなぁ。まるで騎士様みたいだよ〜』
「(うるせえ。これも護衛の一環だ)」
「……国王陛下の御成である!!」
その時、高らかなファンファーレが鳴り響き、大広間が水を打ったように静まり返った。
玉座に現れたのは、豪奢な王衣を纏い、厳しい顔つきをした初老の男――この国の絶対権力者である国王だった。
国王は厳格な声で、アルメニアのスタンピードを防いだポンタたちの功績を讃える言葉を述べた。一切の隙を見せないその厳かな立ち振る舞いに、ポンタは静かに目を細めていた。
◇ ◇ ◇
国王の公式な挨拶が終わり、パーティが歓談の空気に戻った頃。
ポンタたちの前に、見知った顔が現れた。王都の冒険者ギルド本部のギルド長であり、かつてギデオンと共にSランクパーティで活躍した大魔導士、ルシウスだ。
「やあ、ポンタ殿、エリス殿。堅苦しい公式行事はお疲れ様」
正装に身を包んだルシウスは、周りに聞こえないよう小声でウインクした。
「さあ、本当の『顔合わせ』に行こうか。……ある御仁が、君たちと個人的に話したがっている」
ルシウスに案内され、人目を忍んで通されたのは、王城の奥にある防音のVIPルームだった。
重厚な扉を開けると、そこには――
「おおっ! よく来てくれた、アルメニアの英雄たちよ!」
先ほどまでの厳格な威厳を完全に脱ぎ捨て、ソファーにふんぞり返って豪快に笑う国王の姿があった。
「堅苦しいのは疲れるな! 旧友のギデオンやルシウスから、君たちの活躍は嫌というほど聞かされているよ。この国を救ってくれたこと、一人の人間として心から感謝する!」
「……あんたがトップで安心したよ」
ポンタはタキシードの襟を緩めながら、国王の対面のソファーに腰を下ろした。
「(ソフィア、バイタルチェックはどうだ?)」
『マスター。対象の心拍、発汗、魔力波長に異常なし。極めて誠実な精神状態です』
「(よし、完全に『シロ』だな)」
ポンタは、国王が信頼に足る人物だと確信すると、単刀直入に本題を切り出した。
「公式な場じゃないんだ、手短にヤバい情報だけ共有させてもらう。……旧市街の地下、第4地下水道の奥にとんでもねえモンが作られてるぞ」
ポンタが、昨晩のステルスミッションで掴んだ事実――人間を生体バッテリーにする巨大なジャマーの存在、そして『建国祭』を狙った帝国の王都陥落計画――を伝えると、国王とルシウスの顔から血の気が引いた。
「バカな……王都の地下に、それほどの巨大な施設が……!?」
「ええ。物理トラップと電子ロックで厳重に隠蔽されていました。あんな大規模な工事、都市開発を牛耳っている人間に『内通者』がいなければ絶対に不可能です」
ルルの言葉に、国王がギリッと奥歯を噛み締める。
「……インフラの全権を握る『魔導インフラ省の大臣』か。まさか、奴が帝国に王国を売っていたとは」
国王の言葉に、ポンタが首を傾げる。
「すぐに拘束して吐かせられないのか?」
「そう簡単にはいかんのだ。奴は古くから王家にも強い影響力を持つ大貴族でな。確固たる証拠なしに断罪すれば、貴族社会が真っ二つに割れてしまう。今は何より、地下の施設と帝国の企みに対応することが先決だ」
国王は深く息を吐き、ポンタに真剣な眼差しを向けた。
「ポンタ殿。恥を忍んで頼む。建国祭に向けて、我が王国の軍事力と、君たちの遊撃力で極秘の協力体制を築いてくれないか」
「ああ。エリスを狙う限り、帝国は俺の敵だ。協力するぜ」
強固な同盟が結ばれた、その時だった。
「お父様! 私を差し置いて、英雄たちを独り占めするなんてずるいわ!」
バンッ! と扉が勢いよく開き、豪奢なドレスを着崩した少女が飛び込んできた。流れるような金髪に、澄んだ翡翠の瞳をした、十四歳ほどの勝気な王女・セリアである。
「セリア! 今は大事な密談中だ、はしたないぞ!」
「堅苦しいお城の生活は退屈なの!」
国王の静止を振り切り、セリアはポンタの目の前までズカズカと歩み寄った。そして、十二歳の少年の姿であるポンタを上から下までジロジロと眺め、あからさまに拍子抜けした顔をした。
「えっ……あなたが、あの『最強のダルマ』から元の姿に戻ったっていう少年? 嘘でしょ。私より背も低いし、ただの子供じゃない!」
「なっ、主殿を侮辱するか小娘!」
「ちょっとお姫様! 師匠の凄さが分からないなんて、目ぇ節穴じゃないの!?」
ヒルデとルルが前に出ようとするのを、ポンタは片手でスッと制した。
「やれやれ。お姫様の子守り(お遊び)は、クエストの依頼内容に入ってねえぞ」
ポンタはセリアの言葉を完全にスルーし、大人の余裕で肩をすくめた。
「なっ……! なによその態度! ちょっと魔物を倒したくらいで調子に乗らないでよね!」
完全に子供扱いされたセリアが、顔を真っ赤にして地団駄を踏む。その子生意気で世間知らずな姫君を尻目に、ポンタたちは密談の部屋を後にした。
◇ ◇ ◇
再び、華やかな大広間。
「ポンタ様。あそこにいる太った貴族……」
索敵役のミリーナが、小声でポンタに耳打ちする。
彼女が持つユニークスキル『地獄耳』は、意識を向ければ一定範囲のどんな小さな声も聞き漏らさず、さらに魔力の波動から相手の悪意すらも読み取ることができる。
冒険者ギルドの受付嬢時代、趣味の噂話集めのためにいつも聞き耳を立てて培われたその能力が、今、この陰謀渦巻く夜会で『最強の諜報スキル』として余すことなく発揮されていた。
「先ほど国王陛下が仰っていた『魔導インフラ省の大臣』です。周りの貴族に、ひどく高圧的な態度で都市開発の自慢話をしています。……言葉の端々に、黒い悪意が滲んでいます」
ポンタはグラスを手にしたまま、視線だけをその大臣へ向けた。
同時に、緑色の『タクティカル・グラス(HUD)』を網膜に展開する。
『マスター。対象の背後、バルコニーの影に控えている護衛の魔力波長を解析……。以前、商業区でエリスに殺意を向けた個体と完全に一致します』
「(……ビンゴだ)」
ポンタの口角が、凶悪な狩人のように吊り上がった。
「見つけたぞ。あの大臣が王国を売ったネズミ(内通者)で、後ろの護衛が帝国の工作員か」
光り輝くシャンデリアの下。華やかな社交界という隠れ蓑の中で、ポンタは冷徹な視線で標的を完全にロックオンした。
「さて……どうやって尻尾を掴んでやろうか」
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