猫耳の少女ニアと、夜会への出立
【第2章・王都編開幕!】
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カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!
※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!
深夜の『特級・迎賓館』。
豪奢な玄関ホールの扉が静かに開き、ポンタとルルが帰還した。その腕の中には、ボロボロの服を着た猫耳の少女が抱えられていた。
「ポンタさん! ルルちゃん! ……っ、その子は!?」
起きて待っていたエリスが、ポンタの腕の中の小さな命を見て息を呑む。
「地下の工場で、カプセルに入れられてたんだ。……エリス、頼む」
「はいっ! すぐ治癒魔法をかけます!」
エリスは自身の魔力と、ユーグが宿る聖樹の枝杖を共鳴させ、温かく柔らかな光で少女の身体を包み込んだ。
「魔力枯渇による衰弱と、軽い栄養失調です。でも、命に別状はありません……!」
「よかった……。マリーさん、この子に何か食べさせてあげられますか?」
安堵の息を吐いたミリーナが、お留守番をしていた精霊姉妹に声をかける。
「ええ、もちろん。冷え切ったお腹には、温かくて消化に良いスープが一番ですねぇ。すぐ作ってきます」
「べ、別に心配したわけじゃないんだからね! 私が温かい風で、この薄汚い服を乾かしてあげるわよ!」
マリーが微笑みながら厨房へ向かい、シルフィがツンとそっぽを向きながらも、少女を底冷えから守るように優しい微風で包み込んだ。
◇ ◇ ◇
一時間後。
ふかふかのベッドの上で、少女はパチリと目を覚ました。
「……ヒッ!?」
見知らぬ天井と、自分を囲む大人たちの姿に、少女は誘拐された時の恐怖(黒いローブの連中)をフラッシュバックさせ、ガタガタと震えてシーツを被った。
「大丈夫だ。もう怖い奴らはいない」
十二歳の少年の姿であるポンタが、八歳ほどの彼女の目線に合わせてしゃがみ込み、その頭をポンと撫でた。自分より少しだけ年上の、落ち着いた少年の声と温かい手に、少女の震えが少しだけ収まる。
「……わたし、たべられちゃうの……?」
「食べないよ。ほら、マリー特製のスープだ。まずはこれを飲みな」
ポンタが差し出した木のスプーンから、温かいスープを一口飲む。
その瞬間、少女の大きな瞳から、ポロポロと大粒の涙が溢れ出した。
「あたたかい……。おいしい……おいしいよぉ……っ」
少女は泣きじゃくりながら、夢中でスープを飲み干した。
「……おかわりもありますから、ゆっくり食べてくださいね。あなたのお名前は?」
ミリーナが、元受付嬢らしい優しく包み込むような声で尋ねる。
「……ニア。ニアっていうの」
少し落ち着きを取り戻したニアは、ぽつりぽつりと自身の生い立ちを語り始めた。
物心ついた時から孤児で、王都のスラムで生きてきたこと。ろくでもない男に拾われ、毎日毎日、道端で物乞いをして集めた小銭を全て巻き上げられていたこと。
そして数日前、その男と一緒に、黒いローブの連中に攫われたのだという。
「……あのこわい男の人も、いっしょに地下につれていかれたの。でも、あの人、大きな筒に入れられて、ミイラみたいに干からびちゃって……っ」
ニアが恐怖に身を縮める。
「(ソフィア。あのクズ男は……)」
『マスター。ニアの証言と、地下工場で観測した死亡個体の身体的特徴が一致します。対象の生命活動はすでに停止しています』
「(……そうか。生体バッテリーとしてあの世行きか。胸糞悪いが、ニアから搾取する奴が一人消えたのは事実だな)」
ポンタは内心でそう呟き、「もうその男は君をぶたないよ」とだけ告げた。
『獣人族……しかも猫耳の亜人なんて、この人間の国では珍しいね』
エリスの杖から、半透明のユーグがひょっこりと顔を出した。
『普通はもっと南の大陸に住んでるはずなんだけど……。可哀想に、何かの理由ではぐれて、スラムに流れ着いちゃったんだね』
ユーグは、本体である遺跡の結界維持に力の大半を割いているため、大規模な精霊魔法を使うことはできない。だが、彼が持つ悠久の時を生きる『膨大な知識』は、こうしてエリスたちの何よりの助けになっていた。
「許せんな」
ルルから地下工場の凄惨な事実(人間を動力源にしていたこと)を聞いたヒルデが、静かに、しかし激しい怒りを込めて拳を握りしめた。
「ええ。こんな非道、絶対に許してはおけません」
エリスも、聖樹の杖を強く握りしめる。
「帝国の連中は、『建国祭』の本番で巨大なジャマーを起動させる気だ」
ポンタは冷徹な声で告げた。
「それまでに、連中の企みを根こそぎブッ潰すぞ」
◇ ◇ ◇
翌日の夕刻。
重苦しい空気を振り払うかのように、迎賓館の玄関ホールは華やかな空気に包まれていた。
「わぁ……っ! エリスちゃん、すっごく綺麗……!」
「ミリーナさんこそ! 大人の女の人って感じで、ドキドキしちゃいます!」
商業区の『金糸雀亭』で仕立てた、最高級のドレスと礼服のお披露目である。
純白のシルクドレスに身を包んだエリス。深いネイビーのスリットドレスを着たミリーナ。近衛騎士風の礼服で凛々しく立つヒルデ。そして、真鍮の歯車飾りがあしらわれたスチームパンク・ゴスロリドレスを着てはしゃぐルル。
「お前ら、似合ってるぞ。……動きにくそうだが」
「ポンタさんだって! その黒いタキシード、すっごくかっこいいです!」
少年用のタイトな黒タキシードを着こなすポンタに、女性陣から黄色い声が上がる。
「ニアちゃんのことは、私たちにお任せくださいねぇ。美味しいご飯をいっぱい食べさせて、ふっくらさせておきますから」
「せいぜい、外で恥かかないように気をつけてきなさいよね!」
マリーとシルフィが、ベッドで眠るニアの護衛として屋敷に残る。物理防御の要であるヒルデが抜けても、この精霊姉妹がいれば迎賓館の守りは鉄壁だ。
ユーグはいつものように、エリスの持つ杖の中にスッと溶け込んだ。
「行くぞ。馬車が来てる」
ポンタたち一行は、王家が手配した豪奢な馬車に乗り込み、王都の中心にそびえる『白亜宮(王城)』へと向かった。
◇ ◇ ◇
王城のプレ・パーティ(夜会)の会場は、地下水道の暗闇とは正反対の、目が眩むような光に溢れていた。
巨大な魔導シャンデリアが輝き、シルクと宝石で着飾った大貴族たちが、優雅な音楽に合わせてグラスを傾けている。
「ひええ……っ! 空気が……空気が重いです……!」
平民であるミリーナが、圧倒的なVIP空間の気配に押し潰されそうになり、エリスの袖をギュッと掴んだ。エリスもまた、緊張でガチガチになっている。
「ビビるな、お前ら。堂々としていればいい」
ポンタはタキシードの襟をスッと正し、静かに目を細めた。
彼の瞳には、華やかな貴族たちの姿が、まるでFPSゲームの『索敵レーダー(HUD)』上の無数の点のように映っていた。
「いいか。国王陛下やギルドの顔役たちは、俺たちのアルメニアでの功績を認めてくれている。基本的には友好的なはずだ。……だがな」
ポンタの声が、一段低くなる。
「旧王都の遺跡を丸ごと改造するようなあんな超巨大施設が、王都の足元で誰にも気づかれずに建造されていた。……ありえねえよ。帝国の隠蔽工作が完璧だったのか、それとも……この『光の当たる場所』に、帝国に寝返った『内通者』がいるのか」
ポンタの言葉に、エリスたちがハッとして息を呑む。
王都の中枢に、すでに敵の魔の手が入り込んでいるかもしれないという事実。
「これも一種の『ステルスミッション(潜入)』だ。俺たちの敵になり得る奴が誰なのか……。この華やかな戦場の隅々まで、しっかり『クリアリング』してやるぞ」
ポンタは不敵な笑みを浮かべ、仲間たちを率いて、巨大な権謀術数が渦巻く白亜宮のホールへと、堂々と足を踏み入れた。
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