表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/85

旧王都の惨状と、機工士の閃き(チャフ・グレネード)

【第2章・王都編開幕!】

★毎日「朝7時」更新中!★

カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!

※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!


 ヘドロの悪臭が漂う、第4地下水道。

 暗闇の中、ポンタの『タクティカル・グラス』が映し出す緑色の視界には、無数の赤い線が幾重にも交差していた。


「(……不可視の魔力感知線レーザートラップか。触れれば一発で警報が鳴るな)」

 ポンタはハンドガンを構えたまま、背後にピタリと追従するルルにハンドサインを出した。


「ルル。俺の足跡だけを正確にトレースして歩け。一歩でもズレればアウトだ」

「うん、任せて師匠」

 二人は『光学迷彩機能』をフル稼働させ、周囲の景色に完全に溶け込んだ透明な状態のまま、呼吸を合わせてトラップ網を潜り抜けていく。

 途中、見回りの人間の帝国兵とすれ違ったが、彼らは目の前を通り過ぎる「透明な二人」に全く気づくことなく通り過ぎていった。ステルススーツの性能は完璧だった。


 トラップ地帯を抜けた先。

 そこには、地下水道のレンガ壁とは不釣り合いな、分厚い『鋼鉄の防爆扉』が立ち塞がっていた。


「出たな。帝国の電子ロックだ」

 ポンタが扉の横にある魔導パネルを睨む。

「ルル。出番だぞ」

「ふっふーん、待ってましたぁ!」


 ルルは自信満々にパネルの前に立つと、スチームパンク風のゴーグルを額に押し上げ、自身のユニークスキルを発動させた。


「――『技工の神髄ザ・メカニック』!」


 ルルの琥珀色の瞳が、カチリと機械的な光を帯びる。

 彼女の視界には、帝国の最新技術で作られたはずの強固な魔導ロックの『構造』『魔力回路』『パスワードの配列』が、まるで分解されたプラモデルの設計図のように一瞬で可視化されていた。


「あー、なるほどね。魔力パターンの認証と物理的な歯車の噛み合わせを連動させてるのか。よくできてるけど……この回路のバイパス、無駄が多いなぁ」


 ルルは工具すら使わず、パネルの隙間に指を滑らせて特定の魔力線を二本、チョンと弾いた。


 ガコンッ、プシューーーッ……。

 絶対に開かないはずの重厚な鋼鉄の扉が、何の抵抗もなく、無音で左右にスライドした。

 所要時間、わずか三秒。


「……お前、マジで規格外チートだな」

 ポンタは呆れ半分、感嘆半分で息を吐いた。

 本人はただの「知的好奇心(分解したい欲求)」で使っているだけだが、ルルのこのユニークスキルは、本気を出せば帝国の巨大兵器すら一瞬で機能停止(解体)させ得る、対メカニカルにおいて無敵のポテンシャルを秘めているのだ。


「えへへ、どんな複雑な機械でも、私には裸に見えちゃうからね!」

「……頼むから、俺のハンドガンにはそのスキルを使わないでくれよ」

「善処します!」


 軽口を叩き合いながら、二人は開かれた防爆扉の先へ――旧王都の遺跡へと足を踏み入れた。


 ◇ ◇ ◇


 しかし。

 扉の先に広がっていた光景に、二人の軽口は一瞬で凍りついた。

挿絵(By みてみん)


「……ウッ。なに、これ……」

 ルルが思わず鼻を覆う。それは、強烈な腐臭と、鉄錆の匂いだった。


 巨大な遺跡空間は、帝国によっておぞましい『機械工場』へと改築されていた。

 無数のパイプがのたうち回るその中央には、天井を突き破らんばかりの巨大な『歯車の塔』がそびえ立っている。

 そして、その塔の周囲には、何十もの透明な『魔導カプセル』が並べられていた。


 カプセルの中には、人間が――神隠しに遭った旧市街スラムの住人たちが、無数の管に繋がれて入れられていた。


『マスター。解析完了。……対象群の生命力マナは、強制的に抽出され、中央の塔への動力源として供給されています』

「(……チッ。スラムの人間を『生体バッテリー』にしてやがったのか)」


 カプセルの中の人々は、すでにミイラのように干からび、うつろな目を開けたままピクピクと痙攣していた。


「師匠……助けなきゃ……!」

 ルルが青い顔で駆け寄ろうとするが、ポンタがその細い腕をガシッと掴んで止めた。


「ダメだ。……もう、助からない」

「え……?」

『マスターの言う通りです。対象の生命力は99%枯渇しており、内臓器官も不可逆的な損傷を受けています。カプセルから外せば、数秒で絶命します』

「……ッ」


 脳内のソフィアの残酷な、しかし論理的な解析結果を聞き、ポンタはギリッと奥歯を噛み締めた。

 助けたい。だが、彼らはすでに『死体』同然なのだ。ここで無駄な情けをかければ、任務が失敗するだけでなく、迎賓館で待つエリスたちまで危険に晒すことになる。


「(ソフィア。あの巨大な塔はなんだ?)」

『抽出した生命力を動力とし、王都の地脈(マナの巡り)に強烈な「逆位相のノイズ」を流し込む装置です。波長を解析した結果、この装置の目的は……王都全域を覆う「世界樹の結界」を内部から完全に無力化・相殺ジャミングすることです』

「(……なるほどな。連中の本当の狙いは王都そのものの陥落(大規模攻勢)か。聖王国アイギスを滅ぼしたように、この国も飲み込むつもりなんだな)」


 ポンタは暗視ゴーグルの奥で、帝国の巨大な悪意の全貌を理解し、冷たい怒りの炎を燃やした。


 ◇ ◇ ◇


「……ルル。感傷に浸ってる暇はねえぞ。あそこの監視室にある制御端末から、この施設のデータを全部引っこ抜け」

「……うんっ、分かった!」


 ルルは涙を拭い、無人の監視室へ飛び込むと、持参した小型端末を帝国のコンソールに接続した。

 凄まじい速度で、ジャマーの設計図や帝国の暗号通信がダウンロードされていく。


『――警告。マスター、通路の奥から複数の敵対的熱源反応(重装甲オートマタ)が接近中。数は四。この監視室へ向かってきています』

「(見回りか。……まあいい、俺たちの姿は光学迷彩で見えねえ)」


 ポンタが余裕を見せたその時、ソフィアが冷酷な事実を告げた。

『マスター。当該オートマタには、生体熱を感知する「サーモグラフィ」および「魔力探知センサー」が搭載されています。視覚のみを誤魔化す光学迷彩は、奴らには無意味です』


「なにっ!? チッ、ポンコツロボットのくせに生意気な索敵機能積みやがって……!」

 ポンタは慌ててハンドガンのセーフティを外し、扉の影に身を潜めた。

「ルル、あと何秒だ!?」

「あと二十秒! 設計図は抜けたけど、決行日のデータが重くて……!」


 ガシャン、ガシャンという、機械兵の重い足音が徐々に近づいてくる。

 もしここで発砲すれば、光学迷彩も解け、工場内にいるすべての帝国兵が押し寄せてくるだろう。


「(……時間切れだ)」

 ポンタが覚悟を決め、ナイフを逆手に構え直したその時だった。


「師匠、抜けた! ……これ使って!」

 ルルが端末を引っこ抜くと同時に、タクティカルポーチから『野球ボール大の銀色の球体』を取り出し、ポンタに放り投げた。


「なんだこりゃ?」

「旅の合間に作った新兵器だよ! ピンを抜いて、奴らの足元に投げて!」


 ポンタは言われるがままにピンを抜き、監視室に入ろうとしていた四体のオートマタの足元へと、銀色の球体を転がした。


 カキィィンッ!!


 爆発音はなかった。

 代わりに、強烈な閃光と共に、目に見えない『高密度の魔力障害電波』が半径十メートルにドーム状に展開された。


「ピーーッ……ガガガ……熱源探知エラー……魔力探知エラー……目標、ロスト……」

 オートマタたちの赤いカメラアイが明滅し、ガシャガシャと意味不明な動きを繰り返して完全に沈黙した。彼らの視覚センサーと熱源・魔力探知が、完全に『盲目』になったのだ。


「……おいルル。これって……」

「えへへ。一時的に周囲の魔力探知と視覚を撹乱する『魔力ジャミング手榴弾』だよ! 相手が機械なら、数分間は使い物にならなくなるの!」


 ポンタは、完全に機能停止したオートマタたちを見て、背筋に悪寒すら覚えた。

「(おいおい……こいつ、とんでもねえモンを作りやがったな。これ、現代兵器の『チャフ・グレネード(電波・赤外線妨害弾)』と全く同じ効果じゃねえか。これなら、光学迷彩の天敵である熱源探知も完全に無力化できる)」

 地球の軍事知識など一切ない異世界の少女が、ただの発想とインスピレーションだけで、現代の対電子戦兵器を具現化させてしまったのだ。


「お前……マジで天才だな」

 ポンタが本気で呆れ返って褒めると、ルルは照れくさそうに頭を掻いた。

「えへへ、師匠と出会ってから、なんかインスピレーションが止まらないんだよね! 頭の中にポンポン新しいアイデアが浮かんでくるの!」


「頼もしい限りだ。……よし、データも抜いた。ずらかるぞ」


 ◇ ◇ ◇


「――待って、師匠!」


 二人が監視室を飛び出し、来た道を戻ろうとした時だった。

 ルルが、部屋の隅にある『まだ配線が繋がれていない、搬入されたばかりのカプセル』に駆け寄った。


「この子……まだ息がある!」


 ポンタが駆け寄ると、カプセルの中には、ボロボロの服を着た八歳くらいの『猫耳の獣人の少女』が眠らされていた。

『バイタル低下。しかし、魔力の強制抽出はまだ行われていません。不可逆的な損傷はなし。……マスター、救出可能です』


「……ルル、ロックを開けろ!」

「うんっ!」

 ルルが再び『技工の神髄』を発動し、一瞬でカプセルのロックを解除する。

 プシューと開いた扉から、ポンタは素早く猫耳の少女を抱き上げた。驚くほど軽い。


「よくやった、ルル。……帰るぞ」


 ポンタは小さな命をしっかりと抱き抱え、ルルと共にダクトへ飛び乗った。

 眼下を歩く帝国兵の「ジャマーの起動は『建国祭』の本番だ。それまでに確実に動力エサを集めろ」という会話を背中で聞き流しながら、二人は無音で地下水道を逆走する。


 決行日とジャマーの構造図。そして、消えかけていた『小さな命』。

 それらを抱え、ポンタとルルは王都の夜空の下へと生還した。


「(……これほどの巨大な施設が、王都の足元で誰にも気づかれずに建造されている。帝国の隠蔽工作が完璧なのか、それとも……)」

 ポンタは背中の少女の微かな寝息を聞きながら、王城の方角――白亜宮を冷徹に見据えた。

「(明日の夜会で、この街の『防壁セキュリティ』が信用に足るものかどうか……見極めてやる)」


ここまで読んでいただきありがとうございます!


もし「面白い!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、 ブックマーク登録や、広告下の【☆☆☆☆☆】から評価ポイントを入れていただけると嬉しいです!


執筆の励みになります!

↓↓【☆☆☆☆☆】評価お願いします↓↓

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ