王都の闇と、漆黒のステルススーツ
【第2章・王都編開幕!】
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カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!
※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!
迎賓館に帰還したポンタは、豪勢な夕食の席で、昼間に商業区で起きた出来事を仲間たちに共有した。
商人ギルド長ベルナルドから聞いた「旧市街の神隠し」と「地下の地鳴り」。
そして何より、エリスに明確な殺意を向けてきた『黒いローブの女』の存在。
「……というわけだ。連中は間違いなく、この王都の地下で何かを企んでいるし、エリスを標的として認識している」
「そんな……! じゃあ、あの人が、帝国から来た……」
エリスが、不安げに自身の銀糸の髪に触れた。
「大丈夫だ、エリス。連中に、お前の指一本だって触れさせはしねえよ」
ポンタは力強く断言し、仲間たちを見回した。
「だからこそ、今夜は俺が地下水道の『偵察』に出る。……エリスはここ(迎賓館)で待機だ。絶対に外へ出るな」
「で、でもポンタさん一人じゃ危険すぎます! 私も行きます、コネクターとして魔力を……」
「ダメだ。お前は今、一番狙われてる存在なんだぞ。それに、地下の閉鎖空間でのステルスミッションに、光や音を出す魔法使い(後衛)は不向きだ」
ポンタは毅然とした態度で首を横に振った。
「主殿の言う通りである、姫様。ここは我ら防衛陣に任せるが良い!」
ヒルデが力強く胸を叩く。
「私の『耳』もありますから、お屋敷の周囲に怪しい足音が近づけばすぐに分かります。警備は私たちに任せてください、ポンタ様」
ミリーナも、索敵役としての強い決意を瞳に宿して頷いた。
「ふんっ! あんたたちがいなくても、この屋敷は私が風の結界で完璧に守ってあげるわよ! 少しは安心して、自分の背中だけ気にしときなさいよね」
「あらあら〜。お掃除のついでに、近づいてくる不審者も綺麗にお洗濯しておきますねぇ」
シルフィが腕を組んで、頼もしい笑みを浮かべて胸を張り、マリーがニコニコと笑いながら物騒なことを言う。
『僕もしっかり見てるから大丈夫だよ。安心して行っておいで〜!』
エリスの杖から顔を出したユーグも、ふわりと笑って太鼓判を押した。
「(……確かに、このメンバーなら王城の近衛騎士団が攻めてきても返り討ちにできる防衛力だ)」
ポンタは内心で頷き、視線をルルに向けた。
「ルル。お前は俺と一緒に来い」
「えっ、私が?」
「ああ。お前、俺と出会う前は、一人で危険な遺跡に潜ってジャンクを漁ってたスカベンジャーだっただろ? 単独潜入や罠の解除はお手の物なはずだ。それに、帝国の連中が絡んでるなら、確実に『機械仕掛けの罠』や『電子ロック』が出てくる。俺の物理(銃弾)で強行突破すれば音がデカすぎる。お前のエンジニアとしての腕が必要だ」
ポンタに頼りにされ、そして自身の過去の経験を評価されたルルの琥珀色の瞳が、パァッと輝いた。
「任せて師匠! ちょうど、旅の合間に作ってた『新兵器』を試したかったところなんだ!」
「よし、決まりだ。……少し、装備を整えるぞ」
ポンタはそう言うと、自らの『インベントリ(FPS時代のストレージ)』を開いた。
ポンタ自身は、かつて遺跡跡のダンジョンで『カメレオンの魔物』から奪ったMODスキルを使えば、単独での完全な光学迷彩(ステルス化)が可能だ。しかし、そのスキルはルルには適用できない。そのため、今回はストレージから物理的なステルス装備を取り出すことにした。
この異世界において、彼がかつてゲーム内で使用していた「現代兵器(銃火器)」は、物理法則の違いにより直接取り出すことができないが、武器以外の「防具」や「ガジェット類」であれば、魔力的な反発を受けずにストレージから取り出すことが可能だったのだ。
ポンタが空間に手を入れると、無骨な黒い布の塊が現れた。
彼がかつて愛用していた、特殊部隊用の『光学迷彩機能付き・タクティカル・ステルススーツ』である。
ポンタが袖を通すと、元のゲームアバター(大人の男性)のサイズだったスーツが、スライムのようにシュルシュルと縮み、現在の十二歳の少年の体躯にピタリとフィットした。
黒を基調とした、一切の光を反射しないマットな質感。腰回りには無数のタクティカルポーチが備わっている。
「おお! 主殿、それは見事な隠密装束であるな! まるで熟練の暗殺者のようだ!」
「ああ。……で、こっちはルル用のやつだ」
ポンタはもう一着、小柄なサイズのステルススーツを取り出し、ルルに放り投げた。
「わぁっ! これ、すごく軽くて丈夫な生地! しかも工具を挿すループがいっぱいある! かっこいい〜!」
ルルは大はしゃぎで普段の作業着から着替え、スチームパンク風のゴーグルを頭に乗せた。赤い髪の少年と小柄なドワーフの少女。真っ黒なタクティカル装備に身を包んだ二人は、不気味なほどのプロフェッショナル感を漂わせていた。
「(ソフィア、光学迷彩と環境音の遮断モードの起動を確認しろ)」
『了解しました。スーツのバッテリー残量、98%。……マスター。本ミッションの推奨ロードアウト(装備構成)は、サプレッサー(消音器)付きのハンドガン、および近接用コンバットナイフです』
ポンタは腰の剣帯を外し、代わりにインベントリからマットブラックの軍用ナイフを取り出した。
ボルグのじいさんから貰い受けた『炎の魔剣』は白兵戦では最強クラスの威力を誇るが、いかんせん刀身から炎が噴き出すため、暗闇でのステルス行動には致命的に不向きだったからだ。
「(分かってる。派手なアサルトライフルと魔剣は封印だ。……行くぞ、ルル)」
いざ出立しようとするポンタの背中に、エリスが不安げな、けれど祈るような声をかけた。
「ポンタさん……っ! 気をつけてくださいね。絶対に、怪我しないで帰ってきてください」
その声にポンタは足を止め、振り返ってイタズラっ子のような、しかし自信に溢れた笑顔を見せた。
「ああ、すぐ戻る。……安心しろ、俺は『かくれんぼ(ステルス)』の世界チャンピオンだからな」
こうして、ポンタとルルの二人は、夜闇に包まれた王都の街へと音もなく姿を消した。
◇ ◇ ◇
華やかな第一商業区や貴族街から一転。
王都ゼリアの東側、城壁の影にへばりつくように広がる『旧市街』は、月明かりすら届かない、欲望と悪臭が渦巻く掃き溜めだった。
娼婦の客引きの声、酔っ払いの怒声、そして路地裏に転がる行き倒れの姿。
「うぇっ……。アルメニアのスラムより酷い匂いだよ、師匠」
鼻をつまみながら、ルルがポンタの背中に隠れるようにして歩く。
「喋るな。……ソフィア、目的のポイント(地下水道への入り口)は近いか?」
『現在位置から北東へ300メートル。廃棄された「第4地下水道」の入り口へ通じるマンホールが存在します。しかし、当該ポイントの周辺には、複数の敵対的熱源反応が配置されています』
「(見張りを立ててるってことは、やっぱりそこが「当たり」だな)」
ポンタは路地裏の影に身を潜めた。人間の姿である今、ダルマの時のように光学センサーが標準装備されているわけではない。
「(ソフィア、ナイトビジョンを回せ)」
『了解しました。魔力視覚アシスト、起動します』
ポンタの目の前に、エリスから供給された魔力を媒介にして、薄く青光りするホログラム状の『タクティカル・グラス』が形成され、瞳を覆った。
緑色に染まった視界の先、巨大な鉄格子のマンホールの前で、武装した荒くれ者たちが四人、酒瓶を片手に談笑しているのが見える。帝国兵ではなく、小遣い稼ぎで雇われた地元のチンピラだろう。
「……ルル、ここで待ってろ。俺が片付ける」
「うん、お願い」
ポンタは腰のホルスターから、愛用の軍用ナイフ(コンバットナイフ)を静かに引き抜いた。
そして、ステルススーツの『光学迷彩』を起動する。彼の少年の姿が、周囲の景色に溶け込むようにフッと透明になった。
「――っ!?」
チンピラたちが異変に気づいたのは、仲間のひとりが、音もなくその場に崩れ落ちた時だった。
「お、おい!? どうしたザック……急に倒れ……」
声を上げた男の背後に、透明な「何か」が滑り込んだ。
ポンタは男の口を背後からガッチリと塞ぎ、ナイフの柄で延髄を的確に強打する。くぐもった呻き声とともに、二人目が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
「な、なんだ!? 誰かいるのか!?」
残る二人が慌てて剣を抜こうとするが、遅い。
ポンタは迷彩を解除すると同時に、低い姿勢から足払いをかけ、体勢を崩した男の顎を容赦なく蹴り上げた(三人目沈黙)。
そして、最後に残った男の胸ぐらを掴み、冷たい石壁に叩きつける。首元には、鋭いナイフの切っ先が押し当てられていた。
「ヒッ……!! ガ、ガキ……!? いや、お前どこから……!!」
男は、目の前の十二歳の少年の瞳に宿る、圧倒的な『殺意の冷たさ』に恐怖で失禁しそうになっていた。
「声を出せば、喉を掻き切る」
ポンタは氷のような声で囁いた。
「質問は二つだ。ここ最近の『神隠し』の連中は、この第4地下水道へ運ばれたのか? そして、奥にいる『黒いローブの連中(帝国)』の数は?」
「ひ、ひぃぃっ! し、知らねえよ! 俺たちはただ、ここを見張ってろって銀貨を渡されただけで……っ! ただ、奥には分厚い『鉄の扉』があって、俺たちじゃ絶対に開けられない仕掛けになってるってのは聞いた……!」
「……そうか。ご苦労」
ドンッ。
ポンタはナイフの柄で男の意識を刈り取り、ゴミのように路地裏へ放り捨てた。
四人の完全な無力化。所要時間、わずか八秒。
「終わったぞ、ルル」
「さっすが師匠! 鮮やかなステルスキル(暗殺)だね!」
ルルが影から飛び出してきて、重い鉄格子のマンホールを二人で押し退けた。
ヘドロの臭いが下から噴き上がってくる。
「……行くぞ。ここからが本番だ」
ポンタとルルは顔を見合わせ、光の届かない暗黒の地下水路へと、静かに足を踏み入れた。
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