王都の商人ギルドと、少女たちの武装(ドレス)
【第2章・王都編開幕!】
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カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!
※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!
王都ゼリアの中心部から少し南に位置する、第一商業区。
そこは、石畳の大通りに街路樹が整然と立ち並び、ガラス張りのショーウィンドウを持つ高級店が軒を連ねる、王都で最も華やかなエリアだった。
行き交う人々は皆、上質な絹や魔導繊維の服に身を包んでおり、平民の立ち入る隙など微塵もない空気が漂っている。
「す、すごいですね……。アルメニアの商店街とは、歩いている人の服装が全然違います……!」
エリスが、目を白黒させながら周囲を見渡した。
「なんか、みんなピカピカしてるね! あそこの看板なんて、魔力で文字が浮いてるよ!」
ルルはあちこちの魔導具に興味津々で、首がもげそうなほどキョロキョロしている。
そんな中、ポンタは十二歳の少年の姿で、一枚のメモを見ながら呆れ顔で歩いていた。
「ええと、ここだな。王城の御用達にして、王都商人ギルド直営の最高級服飾店……
『金糸雀亭』」
目の前にそびえ立つのは、真っ白な大理石で造られた三階建ての豪奢なブティックだった。入り口には屈強な警備員が立っており、完全な「一見さんお断り」のオーラを放っている。
「ポンタさん、本当にここに入るんですか? 私、こんな高そうなお店、絶対につまみ出されちゃいますよぉ……」
元受付嬢のミリーナが、怯えた小動物のようにポンタの背中に隠れた。
「主殿、我らのような武装した者が入る場所ではなさそうだが。鎧を置いてくるべきであったか?」
ヒルデも、自分の無骨な鎧と高級店のギャップに少し戸惑っている。
「気にするな。堂々と入ればいい。……アルメニアの商人ギルド長が、『王都に行くなら絶対にここへ行け』って、手回ししてくれてるはずだからな」
ポンタはそう言うと、怯えるエリスたちの手を引いて、堂々とブティックの扉を開けた。
カラン、と上品なベルの音が鳴る。
途端に、店番をしていた初老の支配人が、弾かれたように飛んできた。
「お、お待ちしておりましたァァッ!! ポンタ男爵閣下ですね!? ようこそ、ようこそ我が『金糸雀亭』へ!!」
「……やけに熱烈な歓迎だな」
支配人は額に滝のような汗を流し、揉み手をしながら深々と頭を下げた。
「と、当然でございます! アルメニアのゴルドー様から、直々に恐ろしい……いえ、熱烈な推薦状が届いておりますゆえ! 『我が街の恩人に少しでも無礼を働けば、王都への魔石と素材の物流を全て止める。首を洗って待っていろ』と……!」
「(……あの柔和な顔をしたハーフリングのじいさん、相変わらず手回しがえげつないな)」
ポンタは内心で苦笑した。ゴルドーの温厚な笑顔の裏にある商人としての抜け目なさは、王都のギルドさえも震え上がらせるらしい。
「ささ! 一般のお客様はお通ししない、最上階の『VIP専用フロア』へご案内いたします! 本日は我が店の最高峰の職人とデザイナーを総動員して、お連れ様方を世界一美しく着飾らせてご覧に入れますぞ!」
支配人の合図とともに、奥から十人近い女性スタッフが現れ、「さあ皆様、こちらへ!」と、エリスやミリーナたちを嵐のように奥の更衣室へと連行していった。
「えっ、ちょ、ポンタさぁーん!?」
「師匠ーっ! 私、動きやすい服がいいーっ!」
悲鳴を上げながら消えていく仲間たちを見送り、ポンタはふぅと息を吐いて、VIP用のふかふかなソファに腰を下ろした。
◇ ◇ ◇
それから、優に一時間が経過した頃。
「ポンタ様、お待たせいたしました! まずは、エリス様とミリーナ様のお着替えが完了いたしました!」
支配人の声とともに、巨大なベルベットのカーテンが開かれた。
「…………っ」
ポンタは、思わず息を呑んだ。
いつもは冒険用の動きやすい服を着ているエリスが、純白のシルクで仕立てられた『正統派のイブニングドレス』に身を包んでいたのだ。
銀色の美しい髪は上品に編み込まれ、胸元と裾には細やかな魔導糸の刺繍が光を反射してキラキラと輝いている。その姿は、おとぎ話から抜け出してきた本物の『お姫様』そのものだった。
「あ、あの……ポンタさん。変じゃない、ですか……?」
エリスが顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに裾を摘む。
その破壊力に、ポンタの脳内に常駐しているFPSゲーマーとしての冷徹な『キルモード』が、音を立てて解除された。
「……いや。すごく、綺麗だ」
「えへへ……。ありがとうございますっ!」
エリスは花が咲いたように微笑んだ。
「あ、あの……私も、大丈夫でしょうか……。こんな立派な服、着たことがなくて……」
エリスの後ろからおずおずと出てきたのは、ミリーナだった。
彼女が着せられていたのは、深い夜空のようなネイビーブルーのドレス。平民である彼女の遠慮をよそに、デザイナーが「この方には大人の色気がある!」と見抜いて用意した、足元に少しだけスリットの入った、上品かつ艶やかなデザインだ。
「ミリーナも、すごく似合ってる。受付嬢の制服もよかったが、こっちも大人の魅力があって最高だぞ」
「お、大人の魅力……っ! そ、そんなこと言われたら、どうしていいか……っ」
ポンタに直球で褒められ、ミリーナは耳まで真っ赤にして顔を覆ってしまった。
『マスター。心拍数の上昇を検知。これ以上の直視は、マスターの精神的リソースに負荷をかけます』
「(うるせえソフィア、黙ってろ)」
――ガシャンッ!!
その時、隣の更衣室から凄まじい破壊音が響いた。
「も、申し訳ありません主殿! ドレスを着ようとしたら、背中の筋肉と尻尾がつっかえて、布が弾け飛んでしまったのである!」
半泣きで出てきたヒルデに、スタッフたちが「お待ちください! お客様にはこちらを!」と、別の衣装を急いで着せにかかる。
数分後、再び現れたヒルデを見て、今度はエリスとミリーナが「きゃあっ!」と黄色い歓声を上げた。
ヒルデが着ていたのはドレスではなく、純白の生地に金の装飾が施された『近衛騎士風の女性用礼服』だった。
地竜人特有の長身と引き締まった体躯が、恐ろしいまでにその男装の麗人スタイルにマッチしている。
「おお! これなら剣も振れるし、尻尾の穴も開いておる! 素晴らしい『武装』ではないか!」
マントを翻してポーズを決めるヒルデは、完全に宝塚の男役トップスターだった。
「見て見て、師匠ーっ!」
最後に飛び出してきたのは、ルルだった。
彼女が着ていたのは、なんと真鍮の歯車や時計のパーツが装飾としてあしらわれた、ボルドー色の『スチームパンク風・ゴスロリドレス』だった。
フリルとリボンで最高に可愛らしいのに、どこか無骨な機械の匂いがする、まさに機工士の彼女にぴったりのデザインだ。
「このドレス、ただ可愛いだけじゃないんだよ! ほら、スカートの裏地を見て! レンチとかボルトを仕舞える『隠しポケット(ホルスター)』がいっぱい付いてるの!」
「おい、せっかくのドレスに工具を突っ込むな。油で汚れるだろ」
「えーっ!」
ポンタが笑いながら突っ込みを入れると、支配人が満面の笑みでポンタの方へ振り返った。
「さあ! 最後は男爵閣下のお着替えでございます! とびきりフリルとレースをあしらった、可愛らしい貴族の坊ちゃん服をご用意しておりますぞ!」
「……は? いや、俺は別に……」
「ささ! ポンタさんも! 私が着せてあげますから!」
「おいエリス、やめろ、引っ張るな……っ!」
抵抗も虚しく、ポンタはエリスたちに更衣室へと引きずり込まれた。
数分後。
更衣室から出てきたポンタは、支配人が用意したフリフリの服を全力で拒否し、漆黒の生地で仕立てられた、タイトでスタイリッシュな『少年用タキシード』を着ていた。
真っ赤な髪に黒いタキシードという組み合わせは、十二歳の少年でありながら、どこか危険な暗殺者のような底知れない色気を漂わせている。
「わぁ……っ! ポンタさん、すっごくかっこいいです! 本物の貴族様みたいです!」
「主殿! 見事な着こなしであるぞ!」
仲間たちから大絶賛を浴びるが、ポンタ本人は露骨に顔をしかめていた。
「……肩周りがキツい。これじゃ、右腕に銃を顕現させてから照準を合わせるまでに、0.2秒の遅れが出る。致命的だ」
「もうっ、ポンタさんったら! 夜会は戦場じゃないんですから、銃なんて出しちゃダメですよ!」
エリスが呆れたように笑い、ポンタのネクタイを直してくれた。
◇ ◇ ◇
女性陣がさらにアクセサリーや靴を選びに行き、キャッキャと盛り上がっている間。
ポンタは再びソファに座り、お茶を運んできた支配人に小声で話しかけた。
「……なあ、支配人。あんた、商人ギルドの顔役なら、王都の『裏の噂』にも明るいんだろ?」
「は、はい。まあ、商売柄、耳の早さには自信がありますが……。何かお調べで?」
ポンタは周囲に人がいないことを確認し、声を潜めた。
「建国祭の前で、街は浮かれてる。だが、どうも『きな臭い』。地下から変なノイズ……地鳴りみたいなものが聞こえたりしてないか?」
ポンタの言葉に、支配人はビクッと肩を震わせ、顔を近づけてきた。
「……ご明察です、男爵様。実は、ここ数週間……旧市街の入り口や、地下水道の周辺で、浮浪者や孤児が何十人も『神隠し』に遭っているんです」
「神隠し?」
「ええ。騎士団は『どうせ夜逃げだろう』とまともに取り合っていませんが、裏社会の連中の間では、夜な夜な地下から『巨大な歯車が回るような地鳴り』が聞こえる、と噂になっています。……まるで、地下に巨大な怪物が巣食っているような……」
支配人の言葉を聞き、ポンタの目が鋭く細められた。
(……間違いない。今日、王都の門をくぐった時にユーグとミリーナが感知した『不協和音』の正体はこれだ。帝国は、この街の地下深くで、何かとてつもなく巨大な『機械』を稼働させようとしているんだ)
表の華やかな社交界の裏で、確実に帝国の魔の手が王都の喉元に迫っている。
ポンタは確信を得て、静かに頷いた。
◇ ◇ ◇
買い物を終え、全員の装備一式をポンタの『空間収納』に収めた一行は、大満足で金糸雀亭を後にした。
「ふふっ、夜会が楽しみになってきましたね!」
「うん! 早くあのドレス着て、美味しいものいっぱい食べたい!」
夕暮れ時になり、さらに人でごった返すメインストリートを、エリスとルルが手を繋いで楽しげに歩いていく。
ポンタはその後ろを歩きながら、群衆の中に目を配っていた。
――その時だった。
雑踏の向こうから、黒いローブを目深に被った『長身の女性』が歩いてきた。
すれ違いざま。
ローブの奥から覗いた女の冷たい瞳が、前を歩くエリスの背中(そして彼女が持つ聖樹の枝杖)を、ねっとりと舐め回すように捉えた。
『――ッ!! マスター!! 対象から極めて高い敵対的殺意を検知!!』
脳内でソフィアの緊急アラートが鳴り響く。
ポンタのFPSゲーマーとしての第六感が、けたたましく警鐘を鳴らした。
ポンタは瞬時に足を止め、すれ違った女の背中を鋭く睨みつける。視線という名の『照準』が、女の延髄にピタリと張り付いた。
「…………」
ポンタの異常な殺気に気づいたのか、女――人間に変装した帝国の幹部『シャドウ』が、僅かに足を止め、肩越しにポンタを振り返った。
ほんの一瞬。
王都の喧騒が遠のき、二人の間で、火花が散るような濃密な殺気が交錯する。
「ポンタさん? どうしたんですか?」
エリスが不思議そうに振り返った時には、女の姿はすでに夕暮れの雑踏の中へと溶け、完全に消え去っていた。
「……いや。なんでもない」
ポンタは安心させるようにエリスの背中を軽く叩き、再び前を向いた。
だが、その瞳の奥には、冷たく燃える戦士の光が宿っていた。
「(ソフィア。夜会の前に、やるべきことができた)」
『推奨します。先ほどの個体は、明らかにエリスを『標的』として認識していました』
「(ああ。……今夜は少し、地下水道を『偵察』しに行くぞ)」
華やかな王都の夕暮れの中。
ポンタの意識はすでに、光の届かない暗黒の地下迷宮へと向けられていた。
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