新拠点のクリアリングと、お留守番精霊の召喚
【第2章・王都編開幕!】
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カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!
※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!
王都ギルド長ルシウスの常軌を逸した忖度により、ポンタたちが案内された『拠点』は、控えめに言って城だった。
王都の中心部、貴族街の一角に位置するその『特級・迎賓館』は、高い鉄柵に囲まれた広大な敷地を持っていた。
手入れの行き届いた庭園には清らかな水が湧き出る噴水があり、三階建ての白亜の洋館は、王族が滞在しても何ら見劣りしないほどの絢爛豪華な造りになっていた。
「うわぁ……っ! 絨毯がふかふかです、ポンタさん! 足が沈み込んじゃいます!」
玄関ホールに足を踏み入れたエリスが、目を輝かせてはしゃいでいる。
「この魔導シャンデリア、どういう回路になってるんだろ!? ねえ師匠、一個だけ外して分解していい!?」
「ダメだ。元に戻せなかったら、いくら請求されるか分かったもんじゃないぞ」
目をギランギランさせて工具を取り出そうとするルルの首根っこを掴み、ポンタは溜め息をついた。
「見事な庭園ですな! あそこまでの広さがあれば、朝の素振りも思う存分できましょう!」
ヒルデは純粋な武人らしく、庭園の広さを「鍛錬場」として評価して満足げに頷いている。
「ひええ……私のような平民が、こんな王宮みたいな場所に入っていいんでしょうか……。なんだか落ち着きません……」
元受付嬢のミリーナは、高価な調度品を割ってしまわないかとビクビクしながら歩いていた。ギルドでの騒動を引きずっていないようで、ポンタは少しだけ安心した。
だが、ポンタ自身は浮かれてはいなかった。
彼は十二歳の少年の姿のまま、鋭い鷹のような目つき――純粋なFPSゲーマーとしての視点で、邸宅の内部を舐め回すように観察していた。
「(ソフィア。この邸宅の構造データをマッピングしろ)」
『了解しました。……マスター。この建造物は「居住性」と「外観」を最優先して設計されており、防衛拠点としての評価は最低クラスです。窓が多すぎます』
「(ああ、全方位から射線が通り放題だ。おまけに廊下が広すぎて、チョークポイント(防衛網の絞り込み)が作れねえ。……クリアリング(安全確保)とトラップの設置を急ぐぞ)」
ポンタは一人で階段を駆け上がり、各部屋の死角、隠し扉の有無、窓からの狙撃ルートを次々と潰していった。
ユーグやミリーナが感知した、地下の不気味なノイズ。この華やかな王都の裏に未知の脅威が潜んでいる可能性を思えば、どんなに豪華な迎賓館だろうと、油断のならない「危険地帯」に過ぎないのだ。
「師匠、この角っちょに『音響閃光トラップ』仕掛けておいたよ! 踏んだら鼓膜と網膜が同時に吹っ飛ぶやつ!」
「よし、よくやった。だが非殺傷設定にしておけよ? 間違ってメイドとかが引っかかったら大惨事だ」
「りょーかい!」
ルルと手分けをして、邸宅の出入り口や窓枠に、魔導具を応用した自作のクレイモア(指向性対人地雷)や警報装置を設置していく。
「あ、あの……ポンタさん、ルルちゃん。お屋敷のあちこちに怪しい線を張るのはやめてください! お掃除の邪魔になります!」
見かねたエリスが、腰に手を当てて怒り出した。彼女はすっかりエプロン姿になり、袖をまくっている。
「いや、これは防衛線で……」
「ダメです! ただでさえお屋敷が広すぎて、私とミリーナさんだけじゃお掃除が行き届かないんですから!」
エリスの言う通りだった。三十以上の部屋があるこの豪邸を、彼女たちだけで管理・維持するのは物理的に不可能に近い。
『だったらさ、アルメニアの家からお留守番の二人を呼べばいいじゃん!』
ポンタが困り果てていると、エリスの杖から半透明の精霊、ユーグがひょっこりと顔を出した。
「二人って……シルフィとマリーのことですか?」
ミリーナが首を傾げる。「でも、あの子たちは『旧アイゼン邸』と深くパスが繋がっているから、あの屋敷から長く離れることはできないって……」
『うん。普通はね。でも、ここ(王都)とアルメニアの地脈(マナの通り道)を一時的に繋いで、ここも「アカマルの拠点」だってパスを書き換えちゃえば、すぐに飛んでこれるよ!』
「そんなことできるのか?」
ポンタの問いに、ユーグは「ボクを誰だと思ってるのさ!」と胸を張った。
「(おいソフィア、精霊の言ってることの理屈が分かるか?)」
『はい。現代のネットワーク構築における「VPN(仮想専用線)」接続と同義です。世界樹の管理者権限を利用し、空間のパスにバックドアを仕掛けて、二つの拠点を同一のローカルネットワークとして誤認させる荒業です』
「(なるほど、要するにファストトラベルのポータルを開くってことだな。流石はチート精霊だ)」
ポンタは一人納得して頷いた。
「ミリーナ、召喚の陣を描けるか? ルナの一族であるお前なら、ユーグのサポートと波長を合わせやすいはずだ」
「は、はいっ! やってみます、ポンタ様!」
ミリーナは目を閉じ、指先から溢れる淡い魔力の光で床に直接、精緻な召喚の魔法陣を描き出していった。
ユーグが杖から緑色の光を放ち、魔法陣へと注ぎ込む。空間がグニャリと歪み、アルメニアの旧アイゼン邸との『道』が繋がった。
「よし、今だ! 来い、シルフィ! マリー!」
ポンタが呼んだ瞬間、魔法陣が眩い光を放ち――。
「きゃああっ!? な、何よ急に引っ張らないでよぉっ!」
「あらあら〜〜〜?」
ポンタの頭上に、二つの人影が降ってきた。
ボフッ!という音と共に、緑色のツインテールの少女と、青髪で巨乳のおっとりした美女が、少年の姿のポンタを押し潰すように落下した。
「ぐふっ……」
「ちょっとあんた! 呼び出すならもっとフワッと着地させなさいよ! ……って、なんであんたが下敷きになってるのよ!」
シルフィは慌てて少年ポンタの上からどきつつ、顔を赤くして文句を言う。アルメニアを出発する前、すでにポンタが人間化した姿を見て一緒に過ごしていたため驚きこそないものの、照れ隠しの態度は相変わらずだ。
「あら〜? ごめんなさいねぇ、ポンタ様。でも、小さくなったポンタ様は抱き心地がよくて、つい……これなら、今夜も一緒にお風呂に入ってたくさん洗ってあげられますねぇ」
マリーは全く動じることなく、ニコニコと微笑みながら少年ポンタの頭を撫でて密着している。
「マ、マリーさん! 一緒にお風呂に入るのはいつものことですけど、ポンタさんを独り占めするのはダメです! ポンタさんの背中を流すのは私の役目なんですからね!」
エリスがムキになってポンタを引き剥がした。
「あはは! シルフィ、マリー、久しぶり! この屋敷、工房がすっごく広いんだよ!」
ルルが精霊姉妹に飛びつく。
「おお、マリー殿。再び会えて嬉しく思うぞ。……して、そっちの風の小娘は相変わらず主殿に素直になれんようだな。登場早々、主殿をクッション代わりにして上に乗っかるとは、随分と大胆ではないか」
ヒルデがニヤニヤと笑いながらシルフィをからかう。出会ったばかりの頃は主殿に対する不遜な態度に腹を立てていたヒルデだったが、それがどうやら照れ隠しの「ツンデレ」だと分かってからは、こうして弄るのがすっかり気に入っていた。
「なっ!? ち、ちがっ……誰が好き好んでこんなダルマの人間態なんか! ただの着地ミスよ事故!」
顔を真っ赤にして地団駄を踏むシルフィに、召喚主であるミリーナが申し訳なさそうに苦笑いしながら歩み寄る。
「ふふっ……ごめんなさい、シルフィちゃん、マリーさん。私が少し強引に魔力のパスを繋いじゃったから……痛いところはありませんでしたか?」
「あ、ミリーナ! ううん、全然平気よ! ……もうっ! こっちはルルの工房の換気をやってたところだったのに……! まあ、久しぶりにみんなの顔が見られたから、許してあげるけど!」
ツンデレ全開で腕を組むシルフィだが、その顔は嬉しそうに綻んでいた。マリーも「ミリーナ様の魔力、とっても温かかったです〜」とふんわり笑う。
こうして、物理トラップ(ルル)、索敵レーダー(ミリーナ)、そして邸宅内の異常感知と家事のスペシャリスト(精霊姉妹)が揃い、迎賓館は文字通りの完璧な『セーフハウス』となった。
豪華すぎる空間が、一気に「いつものアカマルハウス」の空気へと変わっていく。
◇ ◇ ◇
その夜。
マリーが腕によりをかけて作った豪華な夕食を食べ終え、一行が広大なリビングでくつろいでいた時のことだ。
コンコン、と控えめなノックの音が鳴り、ギルドから派遣された使用人が、一枚の豪奢な封筒を銀の盆に乗せて持ってきた。
「ポンタ男爵様。王城の使いの方より、急ぎのお届け物でございます」
「俺に? ご苦労」
ポンタが封蝋を切り、中に入っていた羊皮紙を開く。
そこには、達筆な文字でこう書かれていた。
『――アルメニアの英雄、ならびに次期男爵たるポンタ殿。数日後、白亜宮にて行われる「建国祭プレ・パーティ(夜会)」にご招待申し上げます。お連れ様と共に、ぜひご出席賜りますよう――』
「……プレ・パーティ?」
「王族や高位貴族の方々が集まる、前夜祭のような社交界ですね。おそらく、ポンタ様の男爵叙勲の『顔合わせ』も兼ねているのだと思います」
王都の事情に詳しいミリーナが解説する。
「王族の夜会……! つまり、美味しいご飯が山ほど出るってことだな!」
ルルが目を輝かせるが、エリスとミリーナの顔色は真っ青だった。
「や、夜会!? 王城でのパーティなんて……わ、私、そんなところに着ていくドレスなんて持っていません!」
「わ、私もです! 受付嬢の制服か、冒険用の服しか……!」
「ふむ。我は騎士であるからして、この鎧を磨き上げれば正装として通用しようが……」
ヒルデは胸を張るが、エリスたちが「女の子が夜会に鎧で行くのは絶対ダメです!」と全力で却下した。
「(……まあ、表社会に潜入するなら、それなりの「カモフラージュ」が必要ってことだな)」
ポンタは小さくため息をつき、手元の招待状をテーブルに置いた。
「仕方ねえ。明日は王都の商業区へ、全員の『装備(正装)』の買い出しクエストだな」
「買い出し……! 王都のドレス……!」
エリスとミリーナの目が、先ほどとは違った意味でギラリと光った。
帝国の暗躍が地下で静かに進行する中、ポンタたちアカマルの面々は、思いがけず「王都のショッピング」という平和なミッションに挑むことになったのだった。
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