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不協和音の家名と、土下座するエルフ

【第2章・王都編開幕!】

★毎日「朝7時」更新中!★

カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!

※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!


 王都ゼリアの冒険者ギルド本部は、ひとつの『城』と言っていいほどの規模を誇っていた。

 吹き抜けの大ホールには、大理石の柱が何本もそびえ立ち、壁一面に掲示された依頼書の前には数百人規模の冒険者たちが群がっている。アルメニアの支部とは比べ物にならない熱気と、立ち込める強者の気配。


「ひええ……さすが王都のギルドですね。アルメニアの十倍は人がいますよ……」

 元受付嬢であるミリーナが、圧倒されたように周囲を見渡す。


「ふむ。だが、我ら『アカマル』の敵になるような猛者は見当たらんな。主殿がいれば一瞬で制圧できよう」

 ヒルデは腕を組み、周囲の冒険者たちを値踏みするように見回しながら鼻を鳴らした。長身の地竜人ドラゴニュートである彼女が立つだけで、周囲の冒険者たちがわずかに道を開ける。


「(ソフィア、このホールにいる連中の実力はどの程度だ?)」

『大半がCランク〜Bランク相当。Aランク以上の個体反応は数名です。マスターの相対的な戦闘力を基準にすれば、特筆すべき脅威は存在しません』

「(了解だ。まあ、別にここで銃乱射ゲーム(デスマッチ)をするつもりはないからな)」


 脳内のAIと会話を交わしつつ、十二歳の少年の姿をしたポンタは、受付カウンターへと真っ直ぐに向かった。

 対応したベテランの受付嬢は、子供のポンタを見て「迷子かしら?」と微笑みかけたが――ポンタが無言で『Sランク相当の特別通行証』と『ギデオンの紹介状』を叩きつけた瞬間、顔面を痙攣させて奥へとすっ飛んでいった。


 数分後。

 ポンタたち一行は、ギルドの最上階にある、重厚な防音扉に守られたVIPルームへと通されていた。


「――なるほど。あの不器用な『狂戦士ベルセルク』だったギデオンが、ギルドマスターに収まっているだけでなく、これほどの若者……いや、『規格外の器』に全てを託したというわけですね」


 執務机の奥で、優雅に紅茶のカップを傾ける男がいた。

 透き通るような金糸の髪に、理知的なエメラルドの瞳。年齢を感じさせない美麗な容姿を持つ彼は、王都ギルド本部のギルドマスターであり、元S級冒険者のエルフ。

 ルシウス・エル・フェン。かつてギデオンと共に死線を潜り抜けた、後衛の要たる『銀葉の大魔導士』だ。


「俺はポンタ。こっちはパーティのメンバーだ。Sランクの昇格手続きと、王都での拠点の手配を頼みたい」

「ええ、手紙は読みましたよ。……見事なパーティですね。貴方のその小さな体から発せられる尋常ではない『重圧』。それに、そちらの地竜の騎士や、ドワーフの機工士。……ふふ、あいつ(ギデオン)が手紙で自慢げに書き連ねるのも頷けます」


 ルシウスは、まるで教え子の成長を喜ぶ先生のように柔和な笑みを浮かべ、パーティ登録用紙を手に取った。

 和やかな空気が流れかけた、その時だった。


「ルシウス殿! 先日の討伐依頼の報酬の件で――おや?」


 ノックもなしにVIPルームの扉を開け放ち、一人の男が入ってきた。

 煌びやかなミスリルの軽鎧を着込んだ、いかにもプライドの高そうな美青年。胸元には、高位貴族であることを示す紋章と、Aランク冒険者のバッジが光っている。


「なんだ、来客中でしたか。……しかも随分とむさ苦しい。孤児のガキに、亜人の小娘ども。王都のギルド本部も、随分と安っぽい連中をVIPルームに入れるようになったものですね」

「……言葉を慎んでいただけますか、マクシミリアン卿。彼らはアルメニアを救った英雄であり、王家からの叙勲を控えた大切なお客様ですよ」

「はっ! 辺境の田舎を救った程度で英雄とは片腹痛い」


 男――マクシミリアンは鼻で笑い、ルシウスの机の上にあった登録用紙を無遠慮に覗き込んだ。

 そして、ある一箇所でピタリと視線を止める。


「……ん? 『ミリーナ・ロップ』……だと?」


 マクシミリアンの顔に、露骨なまでの嫌悪と軽蔑の色が浮かんだ。

 彼は、部屋の隅で縮こまっていたミリーナを指差した。彼女は人間の女性であり、外見に変わったところはない。だが、その『家名』が、歴史の闇を知る貴族の神経を逆撫でしたのだ。


「おいおい冗談だろう? ロップ家……まさか、あの忌むべき『調律の一族ルナ』の末裔か! 星の怒りを買い、不協和音で災いを呼ぶとされた『魔女』の血族が、のうのうと王都に足を踏み入れたというのか!」

「なっ……魔女、って……」

 ミリーナの顔から血の気が引いた。

 彼女は、自分がなぜ物心ついた時から追われ、両親が死んだのか、その詳しい理由を知らされていなかった。ギデオンが、彼女にその重すぎる負の歴史を背負わせまいと隠し通してきたからだ。


「ちょっと待ってください! 何の話か知りませんが、ミリーナさんは魔女なんかじゃありません!」

「そうです! ミリーナをいじめるなら、ルルがこのレンチでそのピカピカの鎧を解体するぞ!」

 エリスがミリーナを庇うように前に立ち、ルルが巨大なモンキーレンチを構える。


「フン、事実を言ったまでだ。その女の血は呪われている。一族ごと異端審問で焼き払われた、穢れた血だ! そんな疫病神をパーティに入れている時点で、貴様らも底が知れ――」


 ゾッ。

 マクシミリアンの言葉は、最後まで続かなかった。


 いつの間にか、彼の目の前に、十二歳の少年ポンタが立っていたからだ。

 見下ろすような形のはずなのに、マクシミリアンは強烈な寒気に襲われた。少年の黒い瞳は、何の感情も映していない。ただ純粋に『障害物を排除する』という、FPSゲーマー特有の、冷徹なキルモードの目。


「……おい」


 ポンタの低い声が、部屋の空気を凍らせた。


「**うちの優秀な索敵役(家族)に何か文句あるか?** ……次言ったら、その口に鉛玉をぶち込むぞ」


『対象の敵対行動を予測。……マスター、右腕への「ショットガン」の実体化スタンバイ完了。いつでも脳天を吹き飛ばせます』

「(いや、まだ待て。ここで撃ったら流石に面倒だ)」


 脳内のソフィアの物騒な提案をなだめつつ、ポンタは一歩だけ前に出た。

 それだけで、Aランク冒険者であるはずのマクシミリアンが、「ヒッ」と短い悲鳴を上げて後ずさる。


「……そこまでです、マクシミリアン卿」


 さらに、部屋の温度が急激に下がった。

 立ち上がったエルフのギルド長、ルシウスから、目に見えるほどの濃密な魔力が立ち昇っていたのだ。彼の表情は柔和なままだが、その瞳には静かな怒りが宿っている。


「彼女は、私の無二の盟友が命を懸けて守り抜いた、大切な娘さんです。……あの時、彼と共に戦いながらルナの一族を救えなかった私にとって、彼女は希望そのもの。それを侮辱するというのなら……この私と王都ギルド全体が、貴方の相手になりますよ?」

「っ……! お、覚えていろよ辺境の田舎者ども!」


 ポンタの異常な殺気と、ギルド長の圧倒的な魔力に耐えきれず、マクシミリアンは顔を真っ赤にして部屋から逃げ出していった。


 バタン、と扉が閉まる。

 沈黙が落ちた部屋で、ミリーナがポロポロと涙をこぼした。


「ご、ごめんなさい……私のせいで……。ポンタ様、エリス様たちにまで迷惑を……」

「馬鹿言え。迷惑なもんか。お前の『耳』がなきゃ、俺たちは雪山でも森でも全滅してた。お前はアカマルの立派なパーティメンバーだ」

「そうです! 誰がなんと言おうと、ミリーナさんは私たちの家族ですからね!」


 ポンタが頭をポンポンと撫で、エリスが優しく抱きしめる。

 その温かさに、ミリーナは「……はいっ」と、今度は嬉し涙を拭って笑顔を見せた。


「……素晴らしい絆ですね。ギデオンのやつ、本当に良いパーティを育てたものです」

 ルシウスが、ふっと魔力を収めて穏やかに微笑む。


『わぁー! ポンタもエリスも、ギルド長さんも、みーんなカッコよかったよ!』


 ――その時だった。

 緊張が解けたからか、エリスが抱えていた『聖樹の枝杖』がふわりと光り、半透明の少年ユーグがひょっこりと空中に姿を現したのだ。


「あ、もうユーグったら! 王都では勝手に出ちゃダメって言ったのに……」

『だってエリスの心が凄くポカポカしてたから、つい!』


 エリスが慌てて精霊の少年を叱る。

 その、他愛のない日常の光景。

 しかし、部屋の奥にいたルシウスの様子が、明らかに、決定的に、おかしかった。


「……え?」


 ルシウスの持っていたティーカップが、カシャーン!と床に落ちて粉々に砕け散る。

 彼のエメラルドの瞳は見開かれ、その体は小刻みに震えていた。

 精霊に近しい種族である『エルフ』。中でも高位の魔導士であるルシウスには、ユーグの放つ気配が何であるか、痛いほど――それこそ細胞のレベルで理解できてしまったのだ。


「まさか……その、御姿……それに、その圧倒的で神聖なる気配……。そ、そそそ、そんな馬鹿な……いや、しかしこの魂の震えは……っ!」


 ルシウスが、ガタガタと震える足で机の前に出てくる。

 そして。


「せ、せせせ、世界樹の若枝様ァァァァァァァッ!!?」


 ズザーーーーッ!!

 王都ギルド本部の頂点に立つ、クールで理知的だったはずの銀葉の大魔導士は、エルフの矜持をかなぐり捨て、床に額がめり込むほどの凄まじい勢いで『土下座』をした。

挿絵(By みてみん)


『えっ? なんかこのエルフの人、すっごく震えてるけど大丈夫?』

「……お、おいギルド長? あんた、キャラ崩壊してないか?」

「ははぁーーーっ!! まさか我が命あるうちに、母なる大樹の御子に拝謁できる日が来ようとは!! ああ、生きていて良かった! 我がエルフの歴史においてこれ以上の誉れはありませぬ!!」


 ルシウスは顔を床に擦り付けたまま、感極まってボロボロと大粒の涙を流している。

 完全に信仰心の限界を突破したエルフの奇行に、ポンタたちはドン引きして顔を見合わせた。


「えっと……ギルド長さん? お顔を上げてください……」

「滅相もございません! 私のような卑小なエルフが、世界樹の若枝様を、そしてそれに連なる英雄の皆様を直視するなどおこがましい! ……そうだ! 宿! 宿でございますね!」


 ルシウスは土下座の姿勢のまま器用に顔だけを上げ、懐から鍵束を取り出した。


「ギルド本部の隣接区画に、王族や他国の要人を招くための『超特級・迎賓館(別邸)』がございます! そちらを、皆様の専用拠点セーフハウスとして無償でご提供させていただきます! お食事、専属のメイド、温泉、警備、全て私が手配いたします! どうか、どうかご自由にお使いくださいませェェ!」

「いや、そこまでしてもらわなくても……」

「いいえ! 若枝様を安宿に泊めたとあっては、大樹様(世界樹)に顔向けができませぬ! さあ、すぐに馬車の手配をッ!」


 ルシウスはそのまま床を這うようにして部屋を飛び出していった。


「……すげぇな。エルフの信仰心って、ここまで振り切れてるのか」

「なんだか、凄いことになっちゃいましたね……」


 呆気にとられるポンタとエリス。

 こうして、王都ギルドの洗礼と忌まわしい差別の空気を、圧倒的なプレッシャーと精霊の威光で黙らせたポンタたちは、王都のど真ん中に、規格外に豪華な『拠点セーフハウス』を手に入れたのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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