帝都ガレリア・ノヴァ 〜黒鉄の玉座と、禁断の鍵
【第2章・王都編開幕!】
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カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!
※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!
ポンタたちが星空の下で新たな決意を固めていた頃。
遥か東方、グランゼリア王国と国境を接する軍事国家――『機甲帝国ガレリア』。
その首都である『ガレリア・ノヴァ』は、今日も分厚い黒煙と蒸気に覆われていた。
空を突く無数の煙突からは絶えず廃棄魔素が吐き出され、街全体が巨大な工場の様相を呈している。
石畳の通りを闊歩するのは、黒い軍服に身を包んだ「帝国兵」と、魔導エンジンを唸らせる鋼鉄の兵士――「自動人形」たちだ。
人と機械が混在し、規律と鉄の掟に支配された都市。
その中心に、禍々しくも壮麗な『黒鉄宮』がそびえ立っていた。
◇ ◇ ◇
黒鉄宮の深奥にある「円卓の間」。
重苦しい沈黙の中、帝国の最高意思決定機関である「機甲将軍」たちが顔を揃えていた。
中央の空間には、魔導投影機によって、無惨に破壊された金属塊の映像が映し出されている。
「……報告は以上だ。アルメニア方面に極秘設置した『魔力吸引杭』は、全基が破壊された」
情報将校の淡々とした報告に、円卓の一角から怒声が上がった。
「馬鹿な! あれは古代遺跡から発掘された『旧時代の遺物』だぞ!? 並大抵の魔法や物理攻撃で傷つくはずがない!」
「そうだ! たかが辺境の防衛戦力ごときに、我々の作戦が瓦解するなど……!」
武闘派の将軍たちが机を叩く。
だが、その騒ぎを切り裂くように、高笑いが響いた。
「ヒヒッ……ヒャハハハ! 相変わらず脳みそまで筋肉で出来ているようじゃな、将軍方は」
白衣をだらしなく着崩した小柄な老人――帝国筆頭魔導技師、ドクター・ガウスだ。
彼は狂気を孕んだ瞳で、破壊された杭の断面データを空中に展開した。
「見ろ、この美しい断面を。魔法による溶解ではない。純粋かつ圧倒的な『運動エネルギー』によって、分子レベルで結合を断ち切られておる。……これは、我が国の魔導砲やオートマタ技術の延長線上にあるものではない」
ガウスは次々とデータを操作し、一枚の不鮮明な画像を拡大した。
隠し撮りされた、戦場に立つ「鉄のダルマ」と「銀髪の少女」の姿だ。
「このダルマ……そして、後ろにいる少女。……面白い。実に面白いぞ」
ガウスが少女――エリスの持つ杖と、その瞳に注目する。
魔導計測器が、彼女の周囲の数値に異常な反応を示していたからだ。
「通常、魔術師というのは自身に蓄えた魔力か、周囲の大気マナを使って魔法を行使する。だが、この娘は違う。……『位相の異なる場所』から、無限のエネルギーを引き出し続けておる」
「位相の異なる場所、だと……?」
「まさか……伝説に語られる『接続者』か!?」
円卓にどよめきが走る。
コネクター。それは遥か昔、世界樹の管理者として選ばれた一族の末裔。
異次元の魔力庫にアクセスし、無尽蔵のエネルギーを行使できるとされる「生きた鍵」だ。
「ヒャハハ! 間違いない! 『アイギス』の生き残りが、まさかこんな所にいたとはな! あのダルマの圧倒的な火力も、彼女を経由して魔力を供給されていると考えれば合点がいく!」
ガウスが狂喜乱舞する中、円卓の最奥、一段高い場所に設けられた玉座から、重く低い声が響いた。
「……ほう。『鍵』が見つかったか」
その場の空気が凍りつく。
玉座に座るのは、帝国の絶対支配者――皇帝ガレリウス。
黒い軍服の上に、赤い魔力回路が脈打つ重厚な帝衣を羽織っている。
顔の上半分は豪奢な仮面で隠されているが、その首筋から頬にかけては、まるで植物の根のような不気味な黒い紋様が這い上がり、皮膚を浸食していた。
それは、禁断の魔術を行使し続けた代償であり、彼の寿命を蝕む呪いでもあった。
「余の悲願である『永遠の命』……。それを完成させるには、世界樹の深層に眠る莫大なエネルギーが必要だ。だが、その扉を開くには『鍵』が欠けていた」
皇帝ガレリウスが、仮面の奥で目を細める。
「あの娘を手に入れろ。生かしたまま、丁重にな」
その勅命に応えるように、円卓の影から一人の女性が姿を現した。
漆黒のボディスーツに身を包んだ、妖艶な美女。帝国の諜報・暗殺部隊を統べる幹部、『幻影』のシャドウだ。
「御意に、陛下。……ちょうど良い機会がございます」
「何だ?」
「グランゼリア王国の『王都ゼリア』……。現在、我々が地下水路にて進めている『大規模干渉作戦』の準備が、最終段階に入っております」
シャドウが地図上に短剣を突き立てる。
「決行は半月後。王国の『建国祭』における叙勲式の最中です。……そして、あのダルマと娘も、その式典に参加するために王都へ向かっているとの情報が入っております」
「ククク……。祭りの喧騒と共に、王都の結界を内側から消滅させるか。面白い」
皇帝が楽しげに笑う。
王都の防御機能が失われれば、帝国の機械化部隊で蹂躙するのは容易い。
そしてその混乱に乗じれば、エリスを確保することも造作もないだろう。
「よいだろう。シャドウ、貴様は直ちに王都へ先行し、計画の仕上げを行え。そして――」
「はい。『鍵』の少女は、私が責任を持って『保護』してまいります。……あの鉄のダルマも、私のコレクションに加えましょうか」
シャドウが舌なめずりをし、次の瞬間には煙のようにその姿を消していた。
「歯車は回り始めた。……グランゼリアの歴史は、次の建国祭で終わる」
皇帝の不吉な予言が、黒鉄の宮殿に重く響き渡った。
◇ ◇ ◇
翌朝。
そんな帝国のどす黒い陰謀など露知らず、ポンタたちは馬車に揺られていた。
峠を越え、視界が開けたその先に、目指す場所が姿を現す。
広大な平原の中央に鎮座する、三重の城壁に囲まれた巨大都市。
朝日を浴びて白く輝く王城『白亜宮』を中心に、無数の建物が広がる王国の心臓部。
「うおっ……でけぇな……。あれが王都ゼリアか」
少年の姿に戻ったポンタが、窓から身を乗り出して呟く。
FPSの広大なマップを見慣れている彼でも、この異世界の巨大都市の迫力には息を呑んだ。
「はい! ついに着きましたね、ポンタさん!」
「ふふ、建国祭まではあと半月もありますし、まずは美味しいお店巡りでもしましょうかぁ〜」
エリスとミリーナも楽しげに笑う。
これから始まる半月間の王都滞在。
それが、帝国の陰謀と交差する、過酷な戦いの日々になるとも知らずに――。
一行を乗せた馬車は、ゆっくりと王都の巨大な正門へと吸い込まれていった。
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